1. HOME
  2. 特集
  3. 捨てるを活かす
  4. 漁網がプラダのバッグに、海プラがバービーに 世界が注目するアップサイクル

漁網がプラダのバッグに、海プラがバービーに 世界が注目するアップサイクル

World Now
ナイロン素材「エコニール」の原料になる漁網(アクアフィル提供)と、エコニールを使ったプラダのバックパック(プラダ提供)

■ごみを再び原料に戻す

「私の靴が見えるかい?」。インタビューしていたイタリア人男性が、パソコンの画面越しにおもむろに足を上げて見せてきた。見慣れた星柄のコンバースの靴を履いている。

「日本から送ってもらったんだ。コンバースは、私たちが開発した素材を使っている顧客のひとつで、私もこの靴がお気に入りだよ」

この人物は、ジュリオ・ボナッツィ氏(58)。イタリア北部でナイロンなどをつくる家族経営の会社、アクアフィル社の2代目の会長を務めている。そこで生まれた素材が、プラダやグッチ、バーバリーなど世界を代表するファッションブランドから注目を集めている。

「エコニール(ECONYL)」という素材で、カーペットや漁網などのごみからナイロンを集め、解重合と呼ばれる化学反応によって原料の化学物質にまで戻し、再びナイロンにする独自の技術でつくられる。強度など品質を損なわず、エコニールをさらにリサイクルすることもできるといい、特許も取得している。

2011年に生産を始めると、かねて廃棄量の多さに頭を悩ませていたファッション産業からの引き合いが相次いだ。生産量は年々増え、いまは約4万トン。取引先は2500社を超え、欧州や日本、米国、アフリカなどの企業でも使われている。

■「すべてエコニールに切り替え」プラダの決意

NPO「Global Fashion Agenda」などの報告書によると、世界で1年間に消費される衣服は6200万トン(2015年推計)。リサイクルやリユースにまわる衣服は2割にとどまり、残りは焼却か埋め立てで処分されるという。

地球環境のサステイナビリティー(持続可能性)への関心が高まるなか、ファッション産業にとってごみ削減やリサイクルは切実な問題だ。
そんな中、プラダは19年6月、同社製品のナイロン素材を21年末までにすべてエコニールに切り替えると発表し、話題を呼んだ。バッグのほかにもシューズやウェアなど、同社製品のほとんどの種別で切り替えが進む。

もともとナイロンは、プラダが「ブランドのDNAの象徴の一つ」と重視する素材。「ブランドの根幹ともいえるナイロンという素材を生まれ変わらせることで、真に責任あるサステイナブルな活動をめざす決意のあらわれ」だという。

■クレージーだと言われたけれど

「エコニール」の原料になる漁網=アクアフィル提供

原料回収や製品販売でグローバルに提携するのは、再生ポリエステルも取り扱う日本の伊藤忠商事だ。ファッション産業のほか、自動車部品や建材のメーカーからもエコニールについて問い合わせが寄せられる。

伊藤忠の担当者は「顧客からは、より環境に配慮した素材を求められるようになっている。幅広い選択肢をそろえたい」と話す。

アクアフィル社によると、廃棄物からつくるエコニールは、1万トンの生産あたり原油の使用を7万バレル削減できるなど、石油由来の通常のナイロンと比べて生産時のCO₂排出量を最大90%削減できるとしている。

ボナッツィ氏は、エコニールの開発を「旅」と呼んでいる。父が起こした会社は順調に成長していたが、1990年代の終わりにはすでに、エネルギー消費が多く石油に依存したやり方では、会社はいずれ立ち行かなくなると感じていた。

「この旅を始めた時、みんなは私のことをクレージーだと言った。社内でも、持続可能性に配慮した商品開発プロジェクトは興味を持たれなかった。そもそも循環型経済というアイデアすら持ち合わせていなかった」

ただ、ごみ問題の研究者らと知り合い、気候変動や海洋汚染の深刻さを知るにつれ、「この問題は、やるか、やらなければ倒産するかだ」と、07年からエコニールの研究開発を本格化。ボナッツィ自身も08年に会長になると、大学や研究機関と連携しながら技術を確立させた。2500万ユーロ(約32億円)を投資して、スロベニアに専用の工場をつくった。

■未来を守る「旅」が始まった

アクアフィル社のボナッツィ会長=同社提供

エコニールの材料になる「ごみ」は、アメリカで捨てられたカーペットや大西洋のサーモン養殖場などで使い古された漁網が多い。これらは不純物が少なく、リサイクルしやすいという。

ただ、海には、巻き網漁などで使われ、ちぎれて漂う「ゴーストネット」と呼ばれる漁網ごみもある。長年にわたり分解されず、生物に絡みつくなどして深刻な問題になっている。ボナッツィはこうした漁網を回収する組織を立ち上げ、可能なものはリサイクルする取り組みも始めた。

生産が始まって10年。ボナッツィは「幸運なことに、この間、変わったのは世界の方だった。環境への負荷を減らし地球を救うプロジェクトに世界の多くの人たちが取り組むようになりました」と話す。

それでも、「私たちがいるのは旅の入り口にすぎない」とボナッツィ氏は言う。

「地球が供給できる原料の量を超えるような生産をしないことで、子どもたちや将来世代の未来を守ることにつながる。温室効果ガスの排出量が実質ゼロとなるような仕組みをつくることが、私たちの『旅』のゴールだと信じています」

エコニールが使われたコンバース製の靴は21年2月に日本で発売され、評判は上々だという。日本の友人から送ってもらったコンバース製品を、ボナッツィ氏は妻と娘にもプレゼントして、大切に履いている。(目黒隆行、太田航)

■「バービー」もアップサイクル

「バービーうみとともだち フラワーサンドレス」=マテル・インターナショナル提供

世界で事業を展開するアメリカの玩具メーカー、マテル社の日本法人であるマテル・インターナショナルは2021年夏、ファッションドールの「バービー」で、海洋プラスチック関連のリサイクル素材を使用した新シリーズ「バービーうみとともだち」を発売した。

「バービーうみとともだち ジューススタンドセット」=マテル・インターナショナル提供

その一つ、「バービーうみとともだち フラワーサンドレス」は税込み1650円で、トイザらス限定で販売されている。

マテル社は30年までに、商品とパッケージの両方で100%リサイクル可能な素材かリサイクル素材、またはバイオベースのプラスチック素材を使用する、という目標を掲げている。(畑中徹)