世界的にスニーカー市場が拡大している裏側で、「偽物」が横行するようになっている。数量限定品がさらに人気をつり上げ、熱狂の渦を生む。
「個人からの依頼は、この3年で50倍ぐらいに増えた。法人を入れると、その5、6倍になるだろうか」
そう話すのは、スニーカーが本物かどうかを鑑定するサービス「フェイクバスターズ」を運営する会社の社長、相原嘉夫さん(26)だ。
2019年にサービスを立ち上げ、いまは個人客だけで月に4万件ほどの依頼が舞い込む。メルカリやオークションで買ったスニーカーが本物かどうか確認したい、といった依頼が多い。
鑑定の結果、3割か4割が偽物だと判明する。スニーカー市場の拡大に伴い、偽物もはびこっているのだ。
偽造品には「ランク」がある。粗悪なものは、愛好家ならちょっと触っただけでわかる。
ところが、精巧にできているものは、社内では「クローン品」と呼んでいる。「これは本当に見抜くのが難しい」と相原さんはいう。
中国やベトナムなどにあるメーカーの実際の工場から、本物に使われる素材を横流ししたり、工場が稼働しない夜間につくられたりしているという。
世界中のあらゆる市場を、偽物と気づかれずに流通していた偽造品もあったという。
「偽物もアップデートされる。最新のハイクオリティーなものだと、すべてすり抜けてしまう」
そうした偽物を、どうやって見抜くのだろう? その手法を聞くと、こんな答えが返ってきた。
「市場に出回っている偽物からデータを抽出している。モデルによっては、時にはやむを得ず偽物を多く購入して、細部まで研究することもあります」
精巧な偽物を見分けるのは一朝一夕にはできない。
フェイクバスターズでは、スニーカーの鑑定チームとして10人ほど、その他のブランド品を含めると40人ほどの鑑定士を抱えている。日本だけでなく、米国や韓国、台湾などのえりすぐりのメンバーを集めているという。
スニーカーのリセール市場では、大量に買い占めて高値で売る転売業者が多くいることが知られる。
定価約1万5000円のスニーカーが3万円ほどで売買されるのが一般的で、10倍の値がつくのも珍しくない。
しかし、相原さんは「転売しかしていない人はごく一部。愛好家でもあって、転売もやっている、という人がほとんどだろう」と話す。
人気商品は、数量限定で売られるため、1次流通では抽選に当たらないと買えない。そのため多くの人は、とりあえず抽選に参加して、いらなければ転売する。そんなサイクルが値段をつり上げる一因となっているようだ。
1990年代にも、ナイキの「エア マックス」に代表されるブームがあった。当時といまの違いはあるのか? そんな問いを投げかけると、相原さんは言った。
「以前はコアな愛好家だけだったのが、いまではより多くの人たちに受け入れられるようになった。転売が転売を呼んでいるような状況で、『人気だから好き』という、にわかファンも一緒にひきつける。ますます商品を買うことが難しくなり、偽物が集まって……というサイクルが生まれているのです」