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インドの水郷地帯で貸し切り船の船長と一緒に料理 食の冒険裏話

荻野恭子の 食と暮らし世界ぐるり旅。
アレッピーのバックウォーターに浮かぶハウスボート(荻野恭子提供)。

●テーマがある旅には、必ずガイドをお願いする

私が旅に出る時には、研究したい食文化のテーマが必ずあって、以前訪れた場所に季節を変えて訪れ、現地の家庭に滞在して料理を教わる場合もあれば、とある料理のルーツを確認するために別の地域へ行くなど、さまざまなケースがあります。

目的地に関して日本で調べても、探している情報が見つからないことも多いため、現地では必ずガイドの人をお願いして、歴史的背景も含めて伺いながら、旅を組み立てるようにしています。私が、もっと若くて時間もたっぷりあり、いつでも何度でも行けて自分で探し当てる余裕のある状況でしたら良いのですが、そうもいきませんので(笑)。

頼むときにはなるべく経験の長い、年配の方をお願いしていまして、先日訪れた南インドの担当は60代の方でした。一時期日本からの旅行者が多い時代があり、そのときに日本語を覚えたとのことでした。

この方は北インド在住でしたが、南の文化も俯瞰して捉えている方でした。北を知っているからこそ南を説明できるということもあります。

例えば、インドの粉物料理に関しては、こんなふうに説明してくれました。インド北部にはペルシャから入ってきたタンドール(粘土製の大窯)があり、レストランではナン、家庭では無発酵の生地でチャパティを焼くのが一般的であること。一方南部では、パロータといって、油を多く使って層にした無発酵生地のパンが多く食べられており、タンドールではなく鉄板の上で焼くこと。また、南は米が収穫できるため、米粉の蒸しパンや、米と緑豆のペーストを発酵させて鉄板で焼いたドーサ、おかゆも食べるといった米食の特徴があることなど、地域と食の特徴が整理されていました。その辺りをきちんと説明できる人ばかりではないので、信頼できる方の話を伺いながら地域を回るのは、とても意味があることです。

●とはいえ、外れることだってある

今回訪ねたのは、アラビア海のマラバール海岸にある黒こしょうの一大産地、ケラら州コーチンです。ここはかつて、ダウ船(輸送船)でこの地を訪れたヨーロッパやアラブの商人たちが、スパイスの交易をしていた場所。黒こしょうは、今でも風味付けと食品の保存のために、世界中の食卓で欠かすことができないスパイスですが、ギリシャ・ローマ時代に遡ると「ブラックゴールド」と呼ばれ、金1gと同額の貴重品だったそうです。

以前、コルカタのスパイス市場を訪れた際、1坪ごとに区切られたたくさんのスパイス商のブースが、山積みのスパイスでそれぞれ埋め尽くされていました。空間全体にホールや粉末のスパイスの香りが一緒になり、もわっとむせ返すように漂う光景に、衝撃を受けました。ならば、と今回も同じような市場の風景を期待していたのですが。

どこに行っても、求めていたものとは違いました。案内されたのはお土産屋さんのような小綺麗なスパイスのお店ばかり。現地感のあふれる場所より、外国の人には綺麗なところを見せようと気を使ってくれるところが、おそらくはこちらの思惑とは逆で、取り違えられていると感じました。それはどこの国でもそうなのです。けれども、女性一人では危険な地域も多い。そういう場合は何度も訪れてそこの場所を知るしかないのです。

ジューイッシュタウンの中にある、土産物店のようなスパイスマーケット。地元で収穫されたスパイスがホールで陳列されている。これはこれで、南インドのスパイスの豊富さは分かったのですが・・・。(荻野恭子提供)

●そんな時は目線を変えて

このように、目的と方向が違ってしまうのはよくあることで、そんなときは考え方を変えて観光を楽しむことにしています。土地の料理を知る方法は、1つではありませんから。

素直に面白かったのはケララ州アレッピーにあるバックウォーターと呼ばれる水郷地帯です。ケララ州の海岸線には、無数の川と入江が複雑なデルタ地帯を成しています。ここは、古くから香辛料の東西貿易で栄え、16世紀以降はオランダやポルトガル、そしてイギリスの植民地でもあったため、異国感が漂います。

ケララ州のケラは椰子、ラは国を意味するとも言われるほどで、水辺には椰子の木が延々と連なります。また、古くから胡椒の産地でもあるので、ヨーロッパのスパイス貿易に使われて来た港でもあります。

このあたりには、運河や湖をのんびりとボートで行き来しながら暮らす人々がいるそうで、どんな暮らしをしているのか覗いてみたくなりました。話を聞いてみると、現在では観光も重要な産業になっており、かつて、スパイスや米、ヤシの実などの運搬に使われていた船を改造した木造の船に宿泊してケララの料理を食べられる観光船があるとのことで、泊まってみることにしました。細い運河を1周して、船内で料理も振る舞ってくれるというのです。

実際に使われていた船を改造して観光船にしている(荻野恭子提供)。

●ただの観光にならないよう、交渉してカスタマイズ

私は、ただゆらゆらと観光するのはつまらないので、船頭さん、コックさんたちの仕事の舞台裏を見てみたいと早速交渉し、材料を船で買いに行くところ、料理を作るところまで一緒に参加することにしました。料理するのはコックさんとはいきませんが、地元の船乗りの男性。興味が湧きます。

水辺には、ハウスボートと呼ばれる貸し切り船がいくつも停泊していて、乗船は午前中からでした。中は木造りのシンプルなインテリアで、動くホテルさながらです。食材の買い出しは別の小さなボートで行くのかと思っていたら、大きなこの船ごと行くというじゃありませんか!

ウェルカムフードはバナナのフライとチャイ(荻野恭子提供)。

●水辺の暮らしが垣間見られる水路遊覧

くねくねと広がる狭い水路を船が進み、この日食べるための魚介を買いに行くことになりました。水辺から海産物を扱っている市場につながっているところがあって、岸から降りて夕飯の食材を調達します。そこで自分が食べたいものを買いました。えび、蟹、貝、魚はマナガツオなど、南は魚介が豊富です。市場は野菜、魚、ココナッツやドリンクなど、いろんな食材を扱っています。水路を進んでいく間、市場に着くまでの水辺には、椰子やバナナの木が延々連なり、豊かな葉の遥か奥には、ぽつぽつと民家も見えます。穏やかな水路には、同じようなボートがいくつも浮かび、行き交います。流れも穏やかで、なんとものんびりした雰囲気が漂います。

水路にはのんびりとハウスボートが行き来している。途中岸につけると、そこが市場になっていて、買い物する人々が(荻野恭子提供)。

●調理法を相談しながら一緒にお料理

船着場に戻ると、「ボイルか、ソテーか、カリーか?」のように大ざっばに調理法を訊かれました。料理を教わると言っても船主兼船頭兼料理長が担当するので、そこまで本格的なものは期待もしていなかったのですが、楽しみになって来ました。先ほど買い出しに行った素材を見ながら、「うーん、これはカリー?、これは炒める?」などと、何となく何をどのように食べたいか相談しました

船内のキッチン(荻野恭子提供)。

●スパイス豊富な南インド料理を堪能

まず、まながつおは塩とスパイス、にんにくやしょうが、玉ねぎやターメリックなどのスパイスを入れてちょっとマリネして、多めのココナッツオイルで両面ソテー。

カニは多めの油ににんにくしょうが、玉ねぎ、カレーリーフとマスタードシード、クミンターメリックを入れて、塩をふったカニを加えて炒め、ココナツを加えました。えびは煮込んでカリーに。多めの油にマスタードシード、黒胡椒と言ったホールスパイス、にんにく、しょうが、玉ねぎ、トマトなどを入れてカレーベースのようなものに、エビを加えて煮込んでいました。南はとにかく魚介たっぷりです。これにご飯。

パロータ、チャパティ、野菜や果物も豊富なので、レモン絞ってパイナップルやバナナと共にあえてフルーツサラダ。

ウェルカムフルーツにいただいたのは、ココナツをつけて揚げたバナナとチャイで、いきなりお腹がいっぱいになっていた私ですが、さらにお腹がいっぱいになりました。

一泊すると、朝はパンケーキの生地にバナナを潰して加えたバナナパンケーキ!バナナ三昧の旅でもありましたね。

船の中で楽しい夕食。こんな旅も良いものです(荻野恭子提供)。

魚のカレー(南インド料理の定番)

材料
白身魚(まながつお、鯛、かじきまぐろなどを1口大に切る) 3切れ
ミックスパウダースパイス
 チリ、コリアンダー、ターメリック、ガラムマサラ 各小さじ1
タマリンドペースト 大さじ1

カレーベース

 マスタードオイル 大さじ3
 ダール(豆) 大さじ1
 マスタードシード、フェネグリークシード、クミンシード 各小さじ1
 カレーリーフ 大さじ2
 赤唐辛子 2本
 玉ねぎ(薄切り) 1/2個
 トマト(ざく切り) 大1個
 にんにく、生姜(ともにすりおろす) 各小さじ1
塩 小さじ2
香菜(根付きのもの。葉茎と切り分ける) ひとつかみ

作り方
1 魚は、塩、ミックスパウダースパイス、タマリンド各少々を取り分けたものをまぶし、15分おく。
2 鍋に、カレーベースの材料を入れて炒める。ミックスパウダースパイス、タマリンドの残りと塩、水2カップ、1を加え、香菜の根を入れて蓋をし、途中かき混ぜながら、とろみがつくまで15分ほど煮る。
3 器に盛り、香菜の葉をあしらう。