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解体した羊の肉を持って ピクニックへ <トルコの家庭にホームステイ3>

荻野恭子の 食と暮らし世界ぐるり旅。
トルコ人はピクニックが大好き。(写真・荻野恭子)

●トルコの女性は家を守る

現在は外で働く女性も多くなりましたし、都会のキャリアウーマンと地方に暮らす専業主婦とで違いはあると思いますが、イスラム社会において、もともとは、女性は外に出ないで家を守ることが大切な役割でした。

料理や、オヤ(刺繍)をするなどして過ごし、家は常にきれいにしています。根底には、夫より一歩も二歩も下がって暮らす、というような考え方があります。例えば、モスクに行っても、女性と男性では、お祈りをする場所も違います。

●日に5回身を清める。だからお肌ツルツル

イスラム教の教えには「信仰の精神(シャハータ)」、「礼拝(サラート)」、「喜捨(ザカート)」、「断食(サムト)」、「巡礼(ハッジ)」の五柱五行があります。イスラム圏の家庭に行くと、皆がイスラム暦(太陽の位置で決められている、朝、午前中、昼、午後、夜)に則って、日に5回お祈りをしている光景を目にします。仕事をしていても、時間になったら身を清めてお祈り。近年は、スカーフを被らない女性もいたり、ビジネスマンなどでは、お祈りの回数を減らしている人もいるようですが、金曜礼拝は特別なものです。例えば商売をしていても、お店を閉めてモスクに行きます。それくらい大切な祈りなのです。

食べ物にも制限があり、お酒や豚肉、鱗がない魚や甲殻類は口にすることは禁じられています。ただし、禁酒に関しては国によっても差があるようです。断食月であるラマザン(アラビア語ではラマダン)には、日中はご飯を食べてはならず、日没後に家族と食事を摂ります。また、自分より下の人に対しては、分け与えるという恵の精神があります。

そうそう、日に5回のお祈りでは、身を清めると同時に水周りもきれいにします。お祈りのたびに手足も顔も清めるため、あまり化粧もしていなくて、肌が綺麗な人が多いんです。私がそれを褒めると「荻野さん、顔を日に5回も洗ってみてよ。綺麗になるから」って言うんですよ(笑)。

●寝るときはお布団

トルコの人びとは、もともとは遊牧民族ですので、絨毯の上に寝る習慣があります。ですが、石造りの家の床に敷かれた絨毯に直に寝るのでは体が痛いので、布団を敷きます。日本と同じようにお布団を敷くとは、この国が、アジアと欧州にまたがる国であることを想起させます。また、トルコは、エーゲ海や地中海地方に行くと、綿花の栽培が盛んなため、寝具をはじめとする、質の良い綿製品がたくさん売られているのです。

リビングにはソファベッドがあり、その下に寝具が入っていて、いつでも誰でも泊められるという感じです。家の中はピカピカで、綺麗に掃除しているし、受け入れ体制が整っているところに脱帽です。

絨毯の上にお布団。こんな風に常に来客があっても良いように、清潔にして準備していました(写真・荻野恭子)

●毎日お客さんがやってきた

前回もお話しましたが、私はホームステイ先のアンネ(トルコ語でお母さんの意味)に毎日、たくさんの家庭料理を教わりました。日本のように何人分、と区切って少量を作るわけではなく、材料があればあるだけ作るので、結果、毎日のようにたくさんのごちそうが出来上がり、お客様を呼ぶことになりました。

イスラム教の国は宗教的な理由から、外国人を家に入れることは多くはありません。お客様がいらした場合など、女性は一切出ず、主人が対応する男性社会の文化です。食事をお出しする場合には、奥さんが作ってきたものを主人に廊下で渡して、主人が供するといった具合です。イスラムの場合はお酒を飲みませんので食事が早く、15分や20分で終わってしまうのには驚きました。終わったら居間に移り、お菓子や果物をお茶と一緒にいただきます。

けれども、親しい間柄の場合はもちろん別で、性別に関わらず、みんなで楽しく過ごします。私が日本で知り合い、トルコでお世話になったセルダルさんの中学時代の歴史の先生、親戚の方、近所の人、お父さんの知り合いの人。毎日毎日、宴会のようにいろんな人が来ていました。

私はお世話になっていましたので、客人としてはなく、アンネと一緒に洗い物もするし、キッチンの手伝いもしました。そういう意味では、トルコの家庭を知る、とても良い機会になりましたね。

セルダルさんの親戚や先生など、勢揃い(写真・荻野恭子)

●お肉は全てハラルミート

私は、東京で知り合ったトルコ人青年のセルダルさんのアンネに、この時お世話になったわけですが、彼が横浜の中華街で食べた中国料理の「胡麻団子」や「餃子」を「美味しいからアンネにも食べさせて欲しい!」と言われていました。中国料理は、豚の脂であるラードを混ぜることで美味しくなるのですが、イスラム教の戒律では豚肉は食べません。その時はうっかり、彼は知らずに食べてしまったんですね。

セルダルさんの家族へのお礼として、ごま団子も餃子もラードを使わずに作りましたし、戒律とは関係はありませんが、お寿司も食べさせてほしい、と言われていたので、鱒寿司にチャレンジしました。これに関しては、みなさん微妙な表情でしたが、一生懸命食べてくださいました(笑)。

セルダルさんは日本にいた頃、私に「この肉はお祈りしていますか?」とも必ずきいていました。お祈りした肉、とは「ハラルの肉」と呼ばれるもので、家畜を殺す際にお祈りをした肉のこと。イスラムの掟として、きちんと成仏するようにお祈りをしてから家畜の首を落とすのですが、イスラム圏の精肉店やレストランで、通常扱われている肉は、全てこういった過程を経たものです。ですが、日本ですから、普通に街中で売っている肉はお祈りしていることはまずありません(笑)。

●羊の解体とピクニック

ある日、私が羊の解体を見たい、とお願いしたところ、ババ(お父さん)の知り合いの農家で解体していただけることになりました。「羊の美味しい見分け方はね、お尻に油がどれくらい付いているかなんですよ」。メェーメェーと逃げ回る羊を無理やり捕まえて、「ビスミッラ〜」とお祈りをして手早く解体する様子に仰天!弱肉強食でごめんなさい!そうして、その肉を持ってピクニックへ行ったのでした。

トルコの人は、ピクニックに行くのが大好きです。主に川や湖、森などに出かけますが、この時訪れたのはボル高原でした。大陸性気候なので、夏は摂氏40度くらいの暑さですが、日陰に入るとひんやりするほど涼しいところです。

持参したバーベキュー用のコンロを出し、枯れ枝を集めて火を炊きました。枯れ枝に肉を刺してシシケバブにしたり、焼きなすや、細かく切った肉とトマト、玉ねぎにタイムや唐辛子を加えて塩で炒める。レタス、玉ねぎ、きゅうり、しし唐、ハーブなどのサラダと肉をパンと食べました。羊には申し訳なかったけれど、新鮮な肉は実に美味でした……。ありがとう!

解体したばかりの羊の肉でバーベキュー。こんなこと初めてでした。(写真・荻野恭子)

別のピクニックの話ですが、「明日はピクニックに行きます!」と、夜10時頃からアンネがエキメキ(パン)を焼き始めたことがありました。「えー!これから?!」すると、「私のパンは簡単だからすぐにできるのよ!」と得意げに言うのです。

確かに、「材料を捏ねる→成形→ねかせる→焼く」の工程ではあるのですが、30〜40分でできてしまいました。心のなかで、「美味しいのかしら?」と思っていたら、かなりの上出来。私も今度からこの方法で作ろうと思いました。

とにかく手間を惜しまず、手間を楽しむ。トルコのこういったスタイルが、いつまでも続いて欲しいと思っています。

ピクニック用に焼いていた エキメキ。(写真・荻野恭子)