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カリフォルニア州が謝罪した日系人強制収容所「マンザナー」と移民

サンフランシスコ 美味しいフード&ライフスタイル
息を呑むほど美しく映える白い山頂を臨む慰霊塔

カリフォルニア州、シエラネバダという美しい山脈の麓に「マンザナー」という小さな町がある。ここには1942年〜45年の第2次世界大戦中、米国に暮らしていた約11,000人の日系人が3年間に渡り強制収容された。冬は寒く夏は暑い。強風が吹き付ける日が多く、乾いた砂土が舞い上がる。有刺鉄線の柵の中、多くの日系人が耐え凌いだ場所だ。

戦争の爪痕が色濃く残るマンザナー 強制収容所史跡の館内エントランス

戦後78年が経過し、この収容所について語る人も少なくなった。しかし今年2月、カリフォルニア州が、1942年のルーズベルト大統領令により、約120,000人の日系人を法的決議も無いまま強制収容した過ちを認め、公式に謝罪した(連邦政府は88年に公式謝罪、賠償をしている)。この謝罪表明の背景には、トランプ政権の移民政策への抗議もあるようだ。「強烈にアメリカ人から差別、迫害を受けた罪のない日系人達への過ちから私たちは学ばなければならない」と声を上げたのは、日系3世のアル・ムラツチ議員。その決議案が成立した日は、彼らが収容された日と同じ2月20日だった。この機会をとらえ、アメリカの歴史にとって戦争の深い傷痕となった「マンザナー国定史跡」を訪ねた。

砂漠を開墾し、強く生き延びた「生きた証」

サンフランシスコから車で約7時間。ヨセミテバレーとデスバレーの中間にあるこの場所は、国立公園を旅する人の立ち寄り先にもなっている。標高が高い為、春にもかかわらず外は7度という寒さ。館内に入ると、暗く過酷な収容生活をイメージをしていた私の想像とは逆に、明るく懸命に生きた収容者達の笑顔が次々に飛び込んできた。主に2人の著名な写真家によって撮影された何百枚に及ぶの記録写真は、人々の生活がイキイキと鮮明に切り取られていた。

キャベツを抱え農家の手伝いをするリチャード・コバヤシ君 photograph by Ansel Adams ©The Library of Congress

写真家の1人はヨセミテの写真家として有名なアンセル・アダムス。彼は1942年から3年に渡り収容所を訪れ、1944年には「Born Free and Equal」(自由で平等に生まれて)というタイトルで、収容者の生活を撮ったコレクションを出版している。しかし当時反日だったアメリカ社会から非難を浴びたそうだ。もう1人は収容者でカメラを隠し持って入所し、その後収容所専属写真家として認められた宮武東洋。この2人の写真家による日系人の「不屈の精神」はマンザナーの貴重な財産となっている。

アンセル・アダムスが撮影した収容者で写真家の宮武東洋 Adams, Ansel, ©Library of Congress

アンセル・アダムス撮影による一枚の写真、「ジャガイモ畑」に惹きつけられた。畑には、ここが収容所かと目を疑うばかりの映画のセッティングのように美しく整列した畝が作られ、農耕作業に精を出す人々の様子が写しだされている。収容者には農家出身の人たちが多く、それぞれの得意分野を生かし、広大な敷地に畑を開墾して野菜を作り、更には養豚、養鶏を行っていた。さらに、日本人にはかかせない醤油や豆腐も手作りし、大半は自足時給の暮らしだったという。外部からマンザナーに届く食料品は残飯のようなものしかなかったが、逆に彼らが育てた野菜は収容者をまかなうだけでなく、塀外のアメリカ住民にも供給されたという記録がある。

アンセル・アダムスが撮影した「ジャガイモ畑」 photograph by Ansel Adams ©The Library of Congress

「メスホール」と呼ばれた食堂では、常に早く食べることを強要され、家族一緒に食事をすることもできなかった。子どもに食事中のマナーを教えることができないため、お行儀が悪くなったという証言もある。収容者らの手記によると、食事は粗末で、伝統和食を好む1世にとって、ほとんど満足できる食事が出来ず、不自由な生活は3年強にも及んだ。

宮武東洋の写真には、この「メスホール」で開かれた餅つきやハロウィーンパーティーなどの様子が映し出されている。日本の伝統やしきたり、節句や正月などの季節感ある行事を子供達に伝えようとしたのだろうか。

「good garbage」と表現されたトラックで運ばれた食べ物は残り物が多かった

不毛の土地に、器用で働きものの日系人は、畑を作り、庭を作り花を咲かせた。二人の描写から伝わってくるのは、日本人の心。収容者によって作られた日本庭園は、資材や機材が無い中、転がっている石や枯れ木を利用して作られた。ユニークな庭はまさに芸術そのもの。人工池に掛かる太鼓橋は精巧で職人の技術が窺える。その中でもマンザナーのシンボルになっているのが、美しい山脈を背景にした中央に堂々と聳える慰霊塔だ。この所内で亡くなった135人の名前を刻んだ塔は、漢字の当て字で「満砂那 慰霊塔」と達筆で書いてある。

亀のように見える石が印象的な当時の日本庭園。 Pool in pleasure park、 photograph by Ansel Adams ©The Library of Congress
現在も少し形がのこされている。

館内には収容者の手作りによる巨大模型が展示され、バラックが立ち並ぶ所内の様子が再現されている。外には一部が地元の教育機関によって復元され、当時の生活の様子が垣間見られる。バラック内は狭く、床や壁も隙間だらけで、針金が数本貼られた簡素なベットがあてがわれていた。部屋にはトイレもプライベートが無く、それでも日系人達は、日本人としての誇りと秩序を保ちながら、「我慢」という言葉を繰り返し終戦までここで過ごした。しかし終戦後も日本人の差別や偏見は続き、土地もビジネスも没収され、生活を一から立て直す必要があった。50年代になるまで市民権も認められなかった。

収容者によって鮮明に再現された巨大な模型。バラックが均一に建設されている
復元されたバラックの様子。簡易なベットに隙間だらけの板から風や砂が吹き込んできた

日系アメリカ人のアイデンティティーー苦悩と忠誠心

1943年、それまで規律正しかった生活は一変する。米政府による「出所許可申請書」と題された忠誠誓約書の署名強要がきっかけで暴動やいじめが起こるようになった。誓約書には「アメリカ軍に志願しいかなる戦闘地でも戦う意志があるか」「米国に忠誠を誓い、日本国天皇への忠誠を破棄するか」という項目があり、日本人としてのアイデンティティが揺らいだ。価値観の相異で同胞、家族が分断される原因ともなった。特に1世にとって、全ての財産と自由を奪い、アメリカの市民権を認めなかった国への「忠誠」は受け入れ難かった。一方、若い2世の中にはアメリカへの忠誠を誓い、社会的地位を認めさせたいという動きがあり、本土では10カ所の収容所から計約800人がアメリカ軍に入隊志願した。

アメリカ合衆国への忠誠心誓い、軍に入隊し戦場への向かう日系2世達

その後、すでに編成されていたハワイ2世による「第100歩兵大隊」に、ハワイと本土からの2世志願兵が加わって再編成された442連隊戦闘団が生まれ、約3300人が戦場へ送られた(その後、長年に及び再編成を繰り返している)。この最初の部隊は、「Go for Broke(「当たって砕けろ!」の意味)」を掲げ、最前線に置かれる差別的役割を担い、のべ死傷率314%(のべ死傷者数9,486人)という犠牲を払いながらも、ヨーロッパの戦場で激闘した。

ドイツ軍からヨーロッパ人を解放し、テキサス大隊救助に成功し、ダッハウ収容所からも収容者を解放している。第442連隊戦闘団は、民間人にとって最高位の「議会名誉黄金勲章」のほか、軍で最高栄誉の「名誉勲章」が21など総計で18,000近くの勲章や賞を受けている。彼らのアメリカ史上に残る戦いは、日系人の社会的地位を勝ち取っただけではなく、後に続く移民達のアメリカ市民権獲得にも影響している。現在、カリフォルニアの移民人口は1000万人を超え、同州のGDPは世界6位となっている。

青空と澄み切った空気の中、息を呑むほど美しく映える白い山頂を臨む慰霊塔の前で手を合わせた。私は、カリフォルニア州に移住して今年で25年を迎えるが、今まで一度も差別や偏見を受けた事がない。特に「敵国の移民」と偏見が著しかったサンフランシスコで、私たち移民、日系人が他のアメリカ人と同じ権利を持ち自由に生活ができるのは、当時過酷な仕打ちに耐えた日系人1世、2世の犠牲を決して忘れてはならないと誓った。

雪を頂いた美しい山頂を臨む

Manzanar National Historic Site
5001 Highway 395
Independence, CA 93526

参考資料

https://www.nps.gov/manz/index.htm

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200221/k10012294831000.html

https://www.visitcalifornia.com/jp/attraction/マンザナー国定史跡

https://www.theguardian.com/us-news/2020/feb/20/california-japanese-internment-camps-apology

https://www.youtube.com/watch?v=xktTYAiRC7k