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政治もメディアも分極化する米国 歩み寄りのカギはどこに

Global Outlook 世界を読む 更新日: 公開日:
ジョージタウン大学のダイアナ・オーウェン教授=ランハム裕子撮影

――米国の政治とメディアの分極化は、どちらが先にはじまり、お互いにどう関係しているのでしょうか。

世論が分極化していなければ、メディアもそれを利用できません。同時並行的に進んできたといえるでしょう。

米国のメディアは最初は党派的でした。その後、20世紀初頭に、客観的なメディアが台頭しました。その間も党派的なメディアはありましたが、客観的であるほうが、より多くの読者にアピールできるという考えが広まったのです。

――何がきっかけで、ここまでメディアが党派的になっているのですか。

(1996年にスタートした)FOX NEWSの登場が先例となりました。FOXは「公正で偏らない」をうたっていましたが、実際は、(保守的な)イデオロギーを出し、多くの視聴者を得ました。党派的な立ち位置を取れば、多くの民衆がその立ち位置についてくることを示したのです。いわゆるエコーチェンバー効果(同じような意見に囲まれると、特定の意見や思想が増幅されて影響力を持つ現象)です。

――車社会の米国では、特に地方において車の中でラジオを聞いている人が多いです。ラジオの影響はどうでしょうか。

(FOXの台頭と)ほぼ同時期に、ラッシュ・リンボー氏のような右派的なホストによる党派的な「トークラジオ」が増えました。大衆はすでに分極化していたのですが、メディアは分極化の進行を助けました。FOXやトークラジオは、「客観性」の壁を破り、特定の立場を取ることで、お金を稼ぐやり方を示しました。右派的なイデオロギーを広める意欲があり、それは収益向上にも役立っています。

地方の人々が信頼を置いていた新聞などのローカルメディアは(経営難で)どんどん消滅しており、「ニュース砂漠」が広がっています。地方の人々は、中央のニュースを信頼しておらず、ソーシャルメディアなどを通じてトランプ氏や保守的なトークラジオホストの話に耳を傾けています。ラッシュ・リンボー氏のトークラジオは、米国の16%の人がふだんから聴いているといわれています。そうしたトークラジオのホストは、ソーシャルメディアでも、根拠の乏しい話を流しています。

――米国では、放送の政治的な公平性を定めた連邦通信委員会(FCC)の規則「フェアネス・ドクトリン」が1987年に廃止されています。

フェアネス・ドクトリンがあった時代も、その適用にはむらはありました。ただ、廃止になったことで、メディアは「何でもあり」になって、分極化やエンターテインメント政治の水門が一気に開くことになりました。その影響は(ジャーナリストを養成している)ジャーナリズムスクールにも表れました。

――ジャーナリズムスクールはどうなったのでしょうか。

公共のために働く人を養成するという観点よりも、どういう手法で、読者やテレビの視聴者、オンライン上のクリックを増やすかといったノウハウやデジタルスキルを教えることが中心になってきています。

まだ一部のジャーナリズムスクールは、調査報道など伝統的なジャーナリズムのスキルを教えていると思いますが、多くの学校ではプログラムを変更せざるをえなくなっています。マーケティングのスキルを学ばないと、卒業生が就職できないからです。

――権力をチェックするジャーナリズムは、デモクラシー(民主主義)の基盤だという認識があったと思います。それがもはや揺らいでいるのですか。

最近の世論調査によれば、多くの人々はまだ、メディアはデモクラシーの基盤であり、ウォッチドッグであってほしいと思っていますが、同時に、かなりの人はメディアを信用していません。トランプ大統領は常に、メディアは嘘をつく「フェイクニュース」だと言い、閉鎖したいと公言するなど、メディア批判をすることが影響しています。ただ、メディアは腐敗を暴いており、かなり良い仕事をしているという認識の人々もいます。

そもそも、トランプ氏がメディアを叩くことについて、メディアが報道しすぎていることが変ですね。「メディアは邪悪で敵だ」などとトランプが言うと、終日ケーブルニュースでやっている。そんな無意味なことを報道するのではなく、もっとシリアスな出来事について報道してもらいたいものです。

――ジャーナリストは民衆から選ばれたわけではないのに、民主主義の基盤になりうるのでしょうか。

もともと多くの人は、ジャーナリストは、選挙で選ばれるべきではない、と考えていたと思います。選挙で選ばれようとすれば、腐敗しうるからです。選ばれず、任命されないからこそ、大衆を代弁する役割として、客観的に物事を見ることができる。

記者はコミュニティーの代表として信頼を集めていたわけですが、今はコミュニティーのつながりが薄れています。それもジャーナリズムへの信頼が揺らいでいる原因の一つだと思います。

――どうすれば分極化は改善しますか。

まず全米規模で、「法の支配」や議論、歩み寄りの大切さを教える「市民教育(civic education)」が必要です。虚偽のニュースが多い現状ですから、メディアリテラシー教育も、その中に含まれます。議会が、社会全体の利益のために、独裁的な行政府をチェックするという本来の機能を果たすことも求められています。

ダイアナ・オーウェン Diana M Owen
米ジョージタウン大学教授 1958年生まれ。ウィスコンシン大学マディソン校で博士号取得。米国の選挙、メディアと政治の関係などを研究。