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中国で拘束23日間、その中で起きたこと 弾圧は外国人にも他人ごとではない 

Global Outlook 世界を読む 更新日: 公開日:
吉岡桂子撮影

人権団体ディレクター、ピーター・ダーリン氏に聞く 経済成長の果実の上に、自由の拡大と引き締めを巧みに操ってきた中国。しかし、経済減速への不安からか習近平政権は自由や人権の厳しい制限に傾斜している。中国当局に23日間にわたって拘束されたスウェーデンの活動家、ピーター・ダーリン氏が体験を語った。弾圧はあらゆるセクターに及んでおり、いまや外国人も他人事では済まないと彼は警告する。(聞き手=朝日新聞編集委員・吉岡桂子)

――2016年1月、中国中央テレビ(CCTV)のニュース番組で「中国の法律を破った」と語り、「中国政府と人民を傷つけた」と謝罪する姿に驚きました。「国家の安全に危害を与える活動に資金援助した容疑」でした。

政治的な宣伝に利用されました。北京の自宅で中国籍のガールフレンドとベッドにいた晩、中国当局が訪れ、23日間も拘束されました。仲間と設立したNGO「中国維権緊急援助組(チャイナ・アクション)」を通じて、人権保護や法治を拡大するため、弁護士を育てたり、地方政府の違法な土地収用の被害者を救済したりする活動を支援していました。

前年の夏以降、中国で300人を超す弁護士や民主活動家が拘束される事件が起きた。ともにNGOを設立した王全璋弁護士も含まれていました。私自身に対しても習近平政権が発足した2013年ごろから当局の監視の強まりを感じており、出国を準備しているところでした。

郊外の国家安全部の秘密施設に連れて行かれました。睡眠を妨げるためか大きな音や叫び声が響き渡ります。拷問禁止の国際条約に入っているはずだと抗議しましたが、「待遇は良い」と聞き入れません。拘束の恐怖から精神安定剤を飲んでいましたし、免疫性の疾患もある。これに助けられたかもしれません。外交的には、私を死なせるわけにはいかない。逃亡や自殺が頭をよぎる。気を紛らわそうと本を求めてもかなわず、ボブ・ディランの「ラブ・マイナス・ゼロ/ノー・リミット」の歌詞を思い浮かべていました。

ピーター・ダーリン氏=マドリード、吉岡桂子撮影

――テレビで罪を認める「電視認罪」といわれるやり方は、遅くとも13年から始まり、判明しただけでも50件近いと編著「Trial By Media(メディア裁判)」で指摘していますね。

アイデンティティーや人間関係をぶちこわす行為です。当局は私に、王弁護士が犯罪分子であると言わせようとしましたが拒否しました。裁判官に見せるためだとして、自白のビデオを撮ることになりましたが、CCTVの記者との質疑応答が用意されていました。ガールフレンドも拘束したのは私に圧力をかけるためです。自白と謝罪を演じるほかなかった。私は「国外追放」され、26年まで入国できません。中国当局は、中国の人々と外国のNGOとのつながりを断とうとしています。

――スウェーデンに帰国後、タイ滞在を経て昨秋からマドリードを拠点に活動していますね。

香港はもちろん、タイなど東南アジアの国々も、中国の圧力に耐えられないと感じていました。タイ当局は、中国に批判的な雨傘運動の中心にいた香港の若者を空港で拘束し送還しました。中国は経済力を用いて各国を動かそうとしている。中東欧はチャイナマネーに「買収」されている状況です。欧州も中国を大事な顧客とみて関係を深めてきました。スペインはユーロ危機を機に中国と経済関係を強めていますが、欧州連合(EU)内であれば、安全さは増すと考えて、物価も安いスペインへ移住しました。

――NGOの共同設立人である王弁護士は1月に国家政権転覆罪で実刑判決を受けました。

国際社会の関心はとても重要です。私の事例からもわかるように、中国の人権や法治の問題は外国人にとってももはや他人事ではないのです。「活動家」だけの問題でもありません。理由がはっきりしない形で拘束される人が増えています。知的財産権の保護の問題は米中摩擦の核心のひとつでもあります。外国の経済人も、中国の人権や法治の問題にもっと敏感になってほしいと思います。

――なぜ、中国で草の根の弁護士を育てようとしたのですか。

地方に弁護士を育てることは有益です。政府や警察による暴力が頻発しているのは地方です。下級組織になるほどひどい。法律を用いて権利を守る意識や、そのスキルを持つ人材が身近に育てば、実質的な効果がある。

現在の政治体制を変えようとしているわけではない、という姿勢を示すことも活動を続けるうえで大事です。言論の自由も民主主義もすべて大事ですが、生活のなかに法律をもちこみ、人権を守ることを支援してきました。

――中国共産党・政府は「依法治国(法に基づく統治)」を掲げています。なぜ弁護士への弾圧を続けるのでしょうか。

中国では裁判所も検察も政府や党から独立していないので、役人や警察官は法律に従う必要性を感じないのです。むしろ、法律は政府にさからう人を攻撃し、人々を管理する道具に使われています。

江沢民や胡錦濤時代は、国民に経済的な果実を分け与えながら、自由や民主については引き締めては緩め、緩めては締める、という波がありました。少しずつ改革し、後戻りし、また改革を進めるという繰り返しだった。しかし、習近平政権は引き締め一辺倒です。経済の減速もあって、統治に安心感を持てないから社会のあらゆるセクターを絶え間なく弾圧している。危機感を募らせた揚げ句、自ら敵を増やしている。

――なぜ、そこまで。

自分のあずかり知らないところで起きる動きが怖いのです。もし私が結成したのが習近平のファンクラブだとしても、党の統制が及ばなければ潰されるでしょう。しかし、そうした振る舞いは中国の利益を損なっている。グローバルな価値観に近づこうとしているという国際社会の認識を自ら破壊しているのだから。逆効果です。

――今後はどう中国にかかわりますか。

被害者の一人としても手続きを無視した拘束や「メディア裁判」にこだわるのは、人権を守るにはまずは法治が重要だと考えているからです。中国に限らずアジア各地で、地元のNGOや独立したメディアなど市民社会を育てるために資金や知識面で支援していきたい。

ピーター・ダーリン Peter Dahlin

人権団体「Safeguard Defenders」ディレクター 1980年生まれ。母国スウェーデン政府で働いた後、中国の人権や法治を守り、拡大する活動を続けている。スペイン・マドリード在住。