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GUAMという国際機関を知っていますか? 岐路に立つ反ロシア同盟

迷宮ロシアをさまよう
ウクライナのキエフにあるGUAM本部(撮影:服部倫卓)

南の島のことではありません

3月20日、東京都内で、国際連合工業開発機構(UNIDO)と日本外務省の共催により、「GUAM+日本」投資促進セミナーという会議が開催されました。筆者はその中で開かれたパネルディスカッションでモデレーターを務めさせていただきました。

ただ、大多数の日本人は、「GUAM」と聞いても、ピンと来ないことでしょう。ここで言うGUAMとは、観光地として有名な南の島のことではなく、旧ソ連のジョージア(Georgia)、ウクライナ(Ukraine)、アゼルバイジャン(Azerbaijan)、モルドバ(Moldova)の頭文字をとって名付けられた国際機関のことです。正式な名称は、「民主主義と経済発展のための機構GUAM」です。

それでは、かつてのソ連邦から分かれ出た国々の中で、なぜこれらの4ヵ国がGUAMという枠組みに結集しているのでしょうか。今回は、GUAMという存在を通して、旧ソ連諸国の国際関係を考察してみたいと思います。

ジョージアの政府系組織「NATO・EU情報センター」(撮影:服部倫卓)

GUAMの概要

社会主義の超大国、ソ連邦は1991年暮れに崩壊しましたが、それと同時に、新たに誕生した国々が加盟する「独立国家共同体(CIS)」が設立されました。CIS自体はほとんど何の実体もない組織でしたが、「いきなり完全にバラバラになるのはショックが大きすぎるから、最低限の調整をする枠組みだけでも作っておこうよ」という妥協の産物でした。

その後、旧ソ連諸国は、ロシアを中心に再統合を進めていくべきだという国々と、むしろロシアの支配から脱して欧州連合(EU)をはじめとする外部勢力との関係を強化したいという国々とに、色分けされるようになります。そうした中、後者に属するジョージア(当時我が国ではグルジアと呼ばれていた)、ウクライナ、アゼルバイジャン、モルドバが集まり、1997年10月にGUAMという4ヵ国の枠組みを形成しました。

なお、1999年にはウズベキスタン(Uzbekistan)も加盟し、Uが一つ増えて、組織名はGUUAMになりました。しかし、2005年にウズベキスタンで騒乱事件が起こると、当時のカリモフ政権は欧米への警戒感を強めてロシアに接近し、同年GUAMからも脱退します。

ウクライナで2004年終盤に「オレンジ革命」が起き、親欧米派のユーシチェンコ大統領が誕生すると、GUAMは反ロシア的な立ち位置をより一層鮮明にすることになります。ユーシチェンコ大統領の主導で、GUAMはウクライナの首都キエフに常設の本部(冒頭写真参照)を構える本格的な国際機関へと脱皮しました。

ちなみに、GUAMの4ヵ国は、いずれも自国の領土保全をロシアによって脅かされているという共通の問題を抱えています。アゼルバイジャンのナゴルノ・カラバフ、モルドバの沿ドニエストル地方、ジョージアのアブハジアおよび南オセチア、そしてウクライナのクリミアおよびドンバスが、各国の直面している領土問題です。このうち、ウクライナの問題はむしろGUAM結成後の2014年に発生したものでしたが、いずれにしても、自国の安全保障および領土保全をロシアに脅かされているという共通の困難が、これら4ヵ国の結束の背景にあるわけです。

オイルマネーで発展を遂げたアゼルバイジャンの首都バクー(撮影:服部倫卓)

「反ロシア」だけで結束を続けられるか?

GUAMの4ヵ国のうち、ジョージア、ウクライナ、モルドバは、2014年にEUと連合協定を結びました。これら3ヵ国の進めてきた脱露入欧という路線が、ひとまず結実したものです。それに対し、アゼルバイジャンは民主化には熱心でなく、政権の世襲すらやってしまいましたので(前々回の「ロシアや中央アジアの政権はなぜ長期化するのか?」参照)、もとよりEUとの戦略的提携などは考えにくい国です。

EUと連合協定を結んだ3ヵ国も、その後の境遇は分かれています。ジョージアがEUをモデルとした改革の優等生と呼ばれるのに対し、ウクライナとモルドバは迷走が続いています。以前は、ロシアと決別しEUと提携さえすれば上手く行くかのような幻想がありましたけれど、いざEUと連合協定を結んでみると、肝心なのは自分たちの自己変革努力だということが浮き彫りとなっています。

ウクライナとモルドバでは、一定の政治的揺り戻しも起きています。ウクライナに関して言えば、むろん国民の多数派はプーチン体制のロシアに嫌悪感を抱き、EU統合という方向性を是認しています。しかし、ポロシェンコ現政権のように反ロシア・ナショナリズム一辺倒に陥り、ロシアとのあらゆる関係を断ち切ろうとするようなやり方には、疑問を覚える国民が増えている気がします。今回のウクライナ大統領選で現職のポロシェンコ大統領が大苦戦している大きな要因なのではないでしょうか。一方、モルドバでは2016年12月に親ロシア派のドドン大統領が誕生し、また2019年2月の総選挙では多数を占める勢力がなく組閣ができないなど、EU統合路線は盤石ではなくなっています。

ジョージアについては、昨年秋のコラム「ロシアとの戦争から10年 今ジョージアが熱い」で論じました。同国の場合は、EUをパートナーおよびモデルとした国造りは比較的順調であるものの、EUとの貿易・投資関係はあまり進まず、ここに来てロシアとの経済関係の重要性がより一層際立ってきている印象があります。

そうした中、石油資源を武器に、我が道を突き進んでいたアゼルバイジャンもまた、転機を迎えているように思われます。ソ連崩壊後に、アゼルバイジャンが欧米からもてはやされたのは、カスピ海に賦存する同国の石油ガス資源がロシア産石油ガスの代替資源となり、またロシア領を通らないパイプラインで国際市場に届けることが可能だったからです。しかし、もとよりアゼルバイジャンの資源量はロシアのそれに比肩するものではなく、しかも同国の石油生産は2010年頃をピークにすでに減産フェーズに入っています。アゼルバイジャンの最大の「モテ期」は、もう過ぎ去ったと見るべきでしょう。

このように、それぞれに国情は異なりますが、「反ロシア」を掲げていれば国内をまとめることができ、GUAMの4ヵ国も結束でき、欧米からの無条件の支援も期待できるという時代は、明らかに過去のものとなっています。

「GUAM+日本」投資促進セミナーの模様(撮影:服部倫卓)

日本の対応のあり方

日本の外交当局はこれまで、GUAMとの関係を重視してきました。3月に「GUAM+日本」という枠組みで投資促進セミナーが開催されたのも、その流れでしょう。近年の日本の外交コンセプトに、「自由と繁栄の弧」というものがあり、第一次安倍内閣時代の2006年に麻生外相が提唱したのが始まりとされています。GUAM諸国は、こうした価値観に合致するパートナーと考えられ、高い位置付けをされたものと思われます。

確かに、旧ソ連圏に民主的で繁栄した地域が成立するのを促すことは、日本の国益にかなうものでしょう。しかし、その目的のためにGUAMという枠組みにこだわる必然性は、薄れてきているかもしれません。上述のとおり、4ヵ国が変容し、GUAMという国際機関自体が存在意義を問われている中で、日本としてもこの地域へのアプローチを再検討すべき時期に来ているのではないでしょうか。

たとえば、GUAM諸国と同じ地理的エリアに位置しながら、EUとの提携ではなく、ロシア主導の「ユーラシア経済連合」に加入した国に、ベラルーシ、アルメニアがあります。しかし、親ロシアの代表格であるベラルーシにしても、EUとの関係拡大に強い関心を抱いています。アルメニアに至っては、2017年11月にEUと「包括的拡大パートナーシップ協定」という踏み込んだ文書まで結んでいます。日本としても、どの国が「自由と繁栄の弧」のパートナーで、どの国が違うのかと安易に選別するのではなく、より柔軟な方向に転換していくことが望まれると思います。