「みなさん、のどを触りながら、ハ~、と言ってみて下さい。震えていますね」
「次は How are you と言ってみましょう。ネイティブは “ How” “ Are” “You”のように 区切って読まないですよ。こういって一息で話し続けると、のどの震えが続いていることを確認してみて」
シドニー中心部にある英語学校、グリーンウィッチ(Greenwich)英語カレッジ。 ローズ・オーツ先生が教えているのは、「文脈に応じた発音」のコースだ。教室にいるのは10人あまり。日本からの留学生も4人いた。
授業を見せてもらった1コマの間にも、専門的に教わらなければ、そもそも知らないネイティブの発音の「秘密」が満載だ。
話し方がわかれば、リスニングも伸びる
「シーウィズントヒア」。オーツ先生が読んでみせる。
読んだ一文は、”She isn’t here”
母音と母音の間に、口を丸く突き出すようにして出す”w”の子音を挟んでつないで読むLinking という話し方で、ネイティブがよくするという。この文章の場合、She とisn’t の間にwの発音が入っている。
先生が、別の文章を読む。
「シーリングユーワットワンオクロック」
これは、”She’ll ring you at 1 o’clock”. you とat の間にwの発音が挟まっている。私のようなノンネイティブの日本人なら、ここはただ、「ユーアット」と読んでいるはずだ。
「ウェンキャナイスピークトゥワアー」
オーツ先生が、“When can I speak to her?” と読んだ文章はこう聞こえる。
「ネイティブは簡単に短く話そうとする傾向があります。こんな場合は、her のhを落として読むことが多いですね」。
つまり、to とher の間にwを挟む一方で、hは落とし、発音自体は単語同士をつなげて速く読んでいる。
生徒たちは、先生に続いて口に出して練習する。
せっかく海外で英語を学ぶなら、日本人特有のなまりを直して、ネイティブのような発音を身につけて帰りたい。そんなふうに考える人は多いだろう。「発音」コースはそんな場合に格好の内容に思える。
1コマが70~80分の授業を1日に4コマ、週5日で、4週間、発音だけをみっちり学べる。1週目には、母音と子音の発音を発音記号とともに学ぶ。日本語では「あいうえお」の5つしかない母音が、英語には20ある。
2週目に一つの単語の中でのストレスのかけ方を学ぶ。3週目は、文章の中で、どの単語を強調して話すかに焦点を当てる。この日の授業は4週目。これまで学んできたことをふまえて、総合的に速く読むための練習をするまとめの段階だ。
発音を専門に12年も教えているというオーツ先生は「発音がうまくなるには、結局は自分で練習するしかありませんが、コースを終えるころには、飛躍的な上達が見られてうれしい。話し方を学ぶことは、聞くことともつながる。どう話しているかわからないと、聞き取れない。だから、リスニングも上達します」
豪州の企業文化 ビジネス英語コースで学ぶ
グリーンウィッチカレッジは、シドニーとメルボルンに学校を構える。18歳以上を受け入れる学校で、英語を学ぶ生徒数は計1400人に及ぶ。2018年には、世界130カ国近くで読まれている語学留学雑誌の「スタディトラベル」(英国)が選ぶ語学学校賞(スター・アワード)の南半球の英語学校部門で、最優秀の5校のひとつに選ばれた。
発音コースだけでなく、「一般英語」や大学や職業カレッジ(TAFE)への「進学準備コース」もある。国際英語テストに特化したコースとして開設されているのは、外資系企業への就職では、TOEICよりも求められることが一般的という「ケンブリッジ検定」や、豪州では定住ビザを取る際に必要になる「IELTS(アイエルツ)向けだ。
大人の英語学校ならではとも言えるのが「ビジネス英語」コースだろう。
「顧客サービスと事務」「販売とマーケティング」「経営と人材活用」の三つの内容で、一日4コマ、4週間ごとに学ぶ。
この日の教室を見せてもらうと、「経営と人材活用」で、ケーススタディをする授業だった。学生たちが、自分がビジネス職場の責任者になったと想定。数人ずつの三つのグループに分かれて、いろいろな職場の場面でどんな判断をすべきかを考えさせる問題の答えを話し合いながら、出した答えについてリンダ・ヘルマン先生とやりとりする。 英語だけでなく、豪州の職場の雰囲気や、ビジネス文化も学んでいくことも狙っている。
たとえば、こんな具合だ。
〈問題〉「稼ぎ頭の営業マンが最近、大きな注文を取るのを逃した(failed to win a big order)。あなたは彼に来るように言います。どんな話題から始めますか」
三つのグループとも、「最初に、以前の好成績のことから切り出す」と答えた。
”Because you are responsible for motivation for your staff.” (部下のやる気を失わせずにすることが、上司の責任だからです)
こう発言したのはドイツから来たイルカイ・シギルさん(43)だ。学生たちの中でもとりわけ、積極的な様子だ。
ヘルマン先生が応じる。「その通り。部下をしかり始める前にはいつも、ほめないといけませんね」
〈問題〉「あなたの会社はmake 500 redundancies (余剰人員の500人を解雇)をしなければいけません。union representative(労組の代表) にどう言う必要ありますか」
シギルさん「真実(実際のプランの500人解雇)をいう必要があります」
先生「どうして?」
シギルさん「あなたはロールモデルであり、正直な人物でないといけません」
先生「よい答えです。すばらしい」
授業では、ビジネスでよく使う語彙を練習するほか、実際に仕事を探すときの求人先との連絡の取り方や、応募用の履歴書の書き方、といったことも学ぶ。
「今週は、人材採用経験者との模擬面接もしてみます。単に教室で座って学ぶ、という以上の実践的な経験を積んでもらうように心がけています」(ヘルマン先生)
たとえば、「顧客サービスと事務」では昨年、「豪州の会社で上司に、豪州の商品を外国に売り込むビジネスの提案をするとしたら」という課題を設定。学生たちがペアをつくり、リサーチをして発表用の資料を準備し、プレゼンをするという内容があった。この授業を取っていた日本人の留学生の本多ひとみさん(31)は、「中国へのワインの輸出」というテーマを選んだ。「人前で話す自信がすごくついた」と振り返る。
様々なコースを提供する大人向けの語学学校で、それぞれの目的や事情に応じて学ぶ留学生たち。次回は、シギルさんと本多さんのインタビューを紹介したい。二人とも社会人としての経験をふまえて、豪州にやってきていた。