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「手に職」の英語を身につけたい オーストラリアの職業カレッジとは(前編)

バイリンガルの作り方~移民社会・豪州より~
TAFEの歯科技工士養成コースで学ぶフランス人のダミエン・バレンティンさん。「総入れ歯」を実習で作っていた=シドニーのTAFEランドウィックキャンパス、小暮哲夫撮影
TAFEの歯科技工士養成コースで学ぶフランス人のダミエン・バレンティンさん。「総入れ歯」を実習で作っていた=シドニーのTAFEランドウィックキャンパス、小暮哲夫撮影

実験室のような部屋で、白衣姿の学生たちが机に向かって熱心に作業をしている。シドニーにある「TAFE(テイフ)」と呼ばれる職業専門カレッジのキャンパスのひとつ、歯科技工士の養成コースの作業室だ。

ここにいるのは、2年間の課程の最後の学期で学ぶ人たち。フランスから来た留学生のダミエン・バレンティンさん(32)が、製作中の「総入れ歯」を見てくれた。実際の患者からの発注を受けたもので、とても精巧に見える。主に子ども向けという歯並びの矯正装置も作るという。

フランスでは郵便局で働いていたバレンティンさんは、自分のキャリアを変えるきっかけにしたいと、3年前に豪州に英語を学びに来て、アルバイトで歯科医院の受付の仕事を見つけたことが、歯科に興味を持つきっかけになった。豪州では、学校に通う留学生でも、週20時間までなら働けるのだ。英語力は「最初は、タクシーに乗るのも大変」というレベルだったが、英語を4カ月学んだ後で、このコースに入った。

「医学用語がたくさんで、最初はひとつひとつ、訳さないといけなかった。解剖学の世界です。舌とほお、神経とあご、これらをどういうかとか」

教材をポーラ・マクリーリ学科長に見せてもらうと――。

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TAFEの歯科技工士養成コースの教材の一例。専門的な用語が並ぶ=シドニーのTAFEランドウィックキャンパス、小暮哲夫撮影

Anatomy(解剖学)のTooth Structure & Support Tissue (歯の構造とそれを支える組織)という項目では、たとえば、Enamelに「歯冠を覆うかなり堅い表層」 Dentinには「歯の堅い内部の層」と用語の説明が付いている。口の中が図解で記されているページもある。Salivary Glands(唾液腺)は何とかわかったが、ほかの部分を示す単語の多くは、ふつうの英和辞典で調べても、私には日本語でどう呼ぶのか、わからないままだった。

医療、IT、フィットネスまで…… コースは1千超

TAFEとは、Technical and Further Education の略。豪州独自のいわば、「職業教育カレッジ」で、各州が運営している。医療、介護、教育などの専門職やエンジニア、IT関連、料理人、フィットネスジムのインストラクターまで、様々なコースで学べる。

学習期間は半年から数年まであり、修了すれば、「certificate」や「diploma」と呼ばれる専門の職業の資格や学位が取れ、コースによっては、大学の学部卒業と同じ「bachelor」が取れる。diplomaを持っていれば、3~4年間学ぶ大学に、2年次から編入することも可能になる。学費はおおむね年間1万~2万豪ドル(約80万~160万円)で、留学生として大学で学ぶ場合の半分くらいの負担で済む。シドニーのあるニュースサウスウェールズ州には、100カ所以上のキャンパスで1200以上のコースが開講している。

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TAFEの歯科技工士養成コースの実習室。右手前の女性はオーストラリア人の学生=シドニーのTAFEランドウィックキャンパス、小暮哲夫撮影

地元の学生たちに交じって、同州のTAFEでは17年に約4700人の留学生が学んでいた。豪州にやってきて勉強した後に、専門的な職種で働きたい。そう思ったとき、当然ながら、ほとんどの仕事は英語が使いこなせなければつとまらない。ここで学ぶことは、仕事に直結する「手に職」とともに、そのための実践的な英語も身につけることにもなる。

当然だが、日常会話では使わないような言い回しや単語も多く出てくるから、簡単ではない。マクリーリ学科長によると、英語でかなり苦戦する留学生がいる場合、水曜日に英語の個別講師も呼んで支援することもあるという。

バレンティンさんは、悪戦苦闘しながら、「半年後あたりから少しずつわかるようになった」と振り返る。

隣で作業していたタイ人のウィラッチャダー・カンタピクさん(33)は言う。「TAFEがほかと違うのは、とても実践的で、そこで起きていることを理解していくこと。(テキストを)読んで想像するのとは違い、実際にやってみる、ということです」

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TAFEの歯科技工士養成コースで学ぶタイ人のウィラッチャダー・カンタピクさん=シドニーのTAFEランドウィックキャンパス、小暮哲夫撮影

カンタピクさんは半年間、英語学校を学んだ後で、このコースを取った。豪州に2年半くらい滞在したことになるが、「半年くらい前から、学校でも、普通の生活でもストレスなく英語が使えるようになってきた。100%ではないけれど、相手の話していることは理解できる」と話した。

2人とも、英語の発音はネイティブとは違い、外国人のなまりがある。それでも、自然なやりとりで、英語でのやりとりに苦労していないように見えた。

ジェフ・ウェソロフスキ講師によると、5、6年前には、年2回、新たに入ってくる100人の学生のうち、7割が留学生だった。今でも留学生が2、3割を占め、人気のコースであることに変わりはない。

ファッションデザイナーになりたい人も

市の中心部に近い別のキャンパスでは、ミシンや大きな裁縫テーブルがある部屋で、学生たち10人ほどが生地を裁断したり、縫い物をしたりしていた。ファッションデザイン学科の学生たちだ。アジア系の留学生の姿も見える。半年のコースからあり、学士号のbachelorが取れる3年間の課程もある。自らデザインした服を制作する実践の一方で、デザインの歴史と現代への応用、といった専門知識や理論の講義も受け、プレゼンやレポートの提出もある。

ナオミ・ジョハンさん(20)もインドネシア、バリ島の出身。今年3月に3年間の学士コースを終える直前で、卒業を前にした作品を見せてくれた。インドネシアの伝統のバティック模様をモチーフにしたデザインのジャケットは独特の魅力がある。将来は、インドネシアで自分のブランドを立ち上げたいという。

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TAFEのファッションデザイン学科の学士コースを3月に修了するナオミ・ジョハンさん。母国インドネシアのバティック模様をイメージした自らの作品を見せてくれた=シドニーのTAFEウルティモキャンパス、小暮哲夫撮影

母国ではインターナショナルスクールに通い、来豪後も1年間、高校に通って卒業しただけあって、英語はかなり流暢だ。それでも、ここで学び始めた最初は、bodice(身ごろ)、hemming (縁縫い)、rouleau loops (ウェディングドレス用などの装飾したボタンの穴)など、独特の用語に苦労した。

「混乱しました。でも、先生たちは表情を見て、それが私たちにとって新しい単語どうかがわかる。辛抱強く教えてくれた。先生の話すことを実際に作業に移すと、私には覚えやすかった。3年目になると問題がなくなった」

ここの学生の6割ほどが、提携関係にあるファッション業界でインターンも経験する。ジョハンさんも豪州の有名デザイナーの事務所でインターンをしたという。

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TAFEのファッションデザイン学科の作業室。右手前の男性はインドネシアからの留学生=シドニーのTAFEウルティモキャンパス、小暮哲夫撮影

留学生向けの「英語準備コース」

特定の職業に必要な知識や理論、そして実践を学びながら、「仕事で使える英語」を身につけていくTAFE。ただ、留学生の場合、入学には国際的な英語テストのIELTS(アイエルツ、1.0~9.0のスコアで成績を表示)で原則として、5.5~6.0のスコアが必要になる。

それなら、まずはこのスコアを上げる勉強が必要なんだ……。そう思われた方もいるだろうが、TAFEには留学生を対象にした英語コースも開設されている。実は、歯科技工士コースのバレンティンさんが最初に英語を学んだのもそこだ。

次回は、そんな「English Pathway」(専門コースにつながる英語)と呼ばれる英語コースを紹介してみたい。

(次回は2月6日に掲載します)