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英語の正しい学習方法、記憶の仕組みにこそカギがある

英語が拓く世界 更新日: 公開日:
英語を使う環境を増やそうという試みは広がっている=2018年8月、東京都武蔵野市八幡町、横川結香撮影(本文とは関係ありません)

単語をたくさん記憶していれば、少々文法が破綻していても、確実に言えることが増えます。

文法を記憶しておけば、正しい規則に則って文章を構築することができるようになります。

英語の「音素」とその再生方法を正確に記憶しておけば、リスニングや発音が可能になります。

ですから、記憶さえすれば流暢に話せるようになっていくのです。ですので、単語本や問題集を反復して記憶に刷り込むのは、一見理にかなっているように思われます。ところが不思議なことに、どれだけ単語帳や文法書を回し、TOEICで高得点を取っても話せるようにならない人がかなりの数で存在します。これは日本人だけに限らず、お隣の韓国でも同じです。

なぜでしょうか。

【関連記事】「高得点なのに話せない」 悩み抱える超学歴社会・韓国の英語教育

ソウル英語村スユキャンプの授業風景。ステーキハウス、飛行機の機内、消防署、美容院など、さまざまなシチュエーションの中、ロールプレイで英語を学んでいく。

■記憶には種類がある

まず、一言で「記憶する」といっても、記憶にはいくつかの種類があります。大雑把に分類すると、まず短期記憶と長期記憶の2種類があります。短期記憶というのはちょっとパスワードとか電話番号などを覚えておくときに使われます。これは数字や名前などに限らず、例えば皮膚の感触とか匂いとか、人の表情をちょっと記憶しておくなどでも同じことです。

 

この短期記憶というのはたくさんの情報を長く保持することができません。数字などでも5桁あたりを過ぎると途端に覚えられなくなりますし、人の名前なども5〜7人くらいから覚えられなくなります。またこの記憶は、早ければ数秒で忘れてしまうのです。電話番号などをすぐに書いておかないと忘れてしまいますし、一夜漬けで勉強した内容などもテストが終わった瞬間に全て忘れてしまいますが、これはまさしく短期記憶の特徴です。また、そもそも人間という生き物は不必要なことはすぐに忘れるようにできているので仕方がありません。 

では、どうしたらせっかく覚えた単語や文法を長期的に記憶することができるのでしょうか? 実は人間は、次の3種類の出来事を長期的に記憶することがわかっています。ですので、上手くこのパターンに当てはめてやれば、長期的に記憶することが可能なのです。 

1)印象が強烈なもの

印象が強烈なことというのは何年経っても忘れられません。911や東日本や阪神の震災の日のことなど、忘れようと思っても忘れることができない人が多いのではないでしょうか。それは、印象があまりにも強烈だからです。同様に、英語の失敗で大恥をかいたときのことなども、その時の情景まで思い浮かべられるくらい忘れられないものです。英語は実際に使わないとなかなか上達しませんが、その理由は使わない限り英語にまつわるエピソード記憶が構築されないことにも起因していると思われます。

2)重要であると認識したもの

もう一つ長期記憶に残りやすいのは、「重要である」と認識したことです。例えばガスの元栓は必ず閉めるなどといった、生存に直接関わる重要なことはエピソード記憶を伴わなくても、そうそう忘れることはありません。重要なお得意様の顔や、大きなプロジェクトの完成予定日なども忘れようがありません。

 英語学習においても「これを言えないとまずいことになる」と認識したことはやはり忘れません。例えばアメリカの大学に入ってすぐに覚えた単語にDue date(提出日)がありましたが、これを忘れたら進級に関わりますから、反復などせずともすぐに覚えました。痛みの表現方法や、お金の引き落としに必要な表現なども一発で覚えましたが、人間「重要だな」と認識しただけで、一度だけで覚えられてしまことも多いものです。

 3)反復したもの

そしてもう一つが何度も反復したものです。ただ漫然と記憶するのではなく、声に出したり、絵や図解や文字にしたりを何度も繰り返すと、より効果的に記憶を長期化することができます。多くの受験生や英語学習者がやっていることは、まさしくこれです。

この反復による長期記憶が英語学習に効果的ならば、多くの人がもっとスラスラと英語を話せても良いはすです。ところが現実には、ほとんどの人が「知っているのに喋れない」という現実に苦しんでいます。一体どこでボタンを掛け違えているのでしょうか?

■どうやって記憶を紐付けするか?

問題は二つあります。一つは記憶の関連付けの問題で、もう一つは記憶の種類の問題です。まず最初に、関連付けについて解説しましょう。

僕らは日本語を記憶する際、文法、単語、発音などを分離せず、全て同時進行で覚えていっています。このため例えば「りんご」という単語を聞くと「甘い」「赤い」「丸い」「果物」「熟れてる」などなど、りんごの属性をすぐにいくつも思い出すことができますし、それを正しい発音で、正しい語順で並べて「青森県産のりんごはよく熟れていて赤くて美味しい」など、淀みなく発する事ができます。

ところが英語だとこうは行きません。なぜなら、apple という単語一つとっても、その属性を表現したり、関連付いた単語を暗記したこともありませんし、文章にして並べたこともなければ、発音を訂正されたこともないからです。

 ちょっとりんごから連想できる単語を並べてみましょう。色々と出てきます。

 

fruit, round, green, yellow, red, golden, big, small, large, fine, beautiful, sweet, sour, bitter, good, bad, rotten, ripe, fresh, unripe, hard, sliced, chopped, diced, juicy, wormy, cooked, bright, tiny, shiny, organic, firm, boxed, grown, withered, ripened, peeled, unpeeled

 

このように関連する単語がサラサラと出てきて、なおかつそれを ”Can you peel some of those red ripened apples for me? They look really good.” などように何も考えずに 瞬時に繋げることができて、初めて滑らかに話すことができるのです。

 

しかし、ほとんどの英語学習者は「apple=りんご」のように英単語をその対訳の日本語とリンクさせて覚えているだけで、英単語同士の結びつきを意識して記憶していません。一方ネイティブの子供はというと、絵本から始まって延々と関連する言葉に触れてくるわけです。これはリンゴに限らず、全ての単語でそうです。このため、そもそも必要な単語や文型をスムーズに思い出すことができないのです。 

「東京都英語村」の開業前のプログラム体験会で、意見を交換する教職員や外国人スタッフ=2018年8月、東京都江東区青海、横川結香撮影(本文とは関係ありません)

■潜在意識に英語を刻み込む

また一口に長期記憶といっても、意識して初めて取り出せる顕在記憶と、記憶と取り出しているという意識さえ湧かない潜在記憶とがあります。

顕在記憶というのは例えば「 おばさんの下の名前は『春子』だ」とか「お日様は西に沈む」のように意識することで初めて引き出せる記憶です。震災の記憶のようなエピソード記憶も顕在記憶の一種です。

一方、潜在記憶というのは、意識にさえ上がらずに引き出される記憶です。自転車の乗り方であるとか、歯の磨き方などがそうです。あまりにも日常的にやっているため無意識層に入り込み、記憶を引き出しているという実感さえありません。こうした潜在記憶があるお陰で、泥酔して意識が飛んでも無事に家に帰れたりするわけです。また、鍵を閉めたはずなのに、閉めたかどうかわからなくなってしまうことがありますが、これも意識せずにやっているからです。

 僕らは日本語を生まれたときから喋っているため、意識しなくても言葉が口をついて出てきます。しかし英語は後天的に学んだものですから、おいそれと潜在記憶に刻まれてくれません。しかも、日本語に紐づけて覚えていますから、これで滑らかに喋れたらむしろ不思議なくらいです。

 つまり逆にいうと、文法や単語、そして関連する単語同士の繋がりをどうやって潜在意識に刻み込んで行くのかが、語学を習得する上での大きな鍵なのです。 

では具体的にはどうすればいいのでしょうか?

■これが「正しい英語の学習法」だ

1)生の英語に大量に触れる

まず、なにはともあれ生の英語に大量に触れることです。目的は、関連する単語同士のつながりや発音などに肌で覚えることです。ネイティブの子供は仮に1日10時間英語に触れたとして、1年で3650時間触れるわけです。これは日本人が中高の6年間で英語に触れる時間の数倍です。まずもってして、あまりにもインプットが足りな過ぎるのです。

テレビ、ラジオ、Podcast, Youtube…   媒体はなんでも構いません。また、内容は歌でも政治番組でも子供向けアニメでも、とにかく興味を持って続けられる事ならばどんなものでもけっこうです。「英語をインプットする」というと問題集ばかり繰り返す人が多いですが、このやり方だと英単語同士の繋がりがいつになっても育たないので、生の英語に大量に触れる事が大事です。もちろん子供向けのものでも構いませんし、むしろ、そのほうがシンプルで使用頻度の高い文章から覚えられてよいくらいです。どうしても単語帳を回したい人は、英語の視聴をメイン、そして単語帳を補助という位置付けで取り組んでみてください。

また、どうしても問題集を回したい人は、ネイティブがネイティブの子供向けなどに書いたものを使いましょう。例えネイティブが書いたものでも、日本人向けに書かれたものの中には本当にひどい本もあるからです。例えば 「“My name is 〜〜.” と自己紹介すると、まるで『拙者は〜〜でござる』のように時代がかって聞こえる」と主張する噴飯ものの本さえあります。

 “My name is 〜〜.” という言い方は確かに丁寧な言い方ですが、まずは丁寧な言い方が基本です。ビジネスの場などで、相手に不快感を与えてしまってからでは遅いからです。砕けた言い方はかなり流暢に話せるようになってから覚えれば十二分です。こんな本をネイティブが書いて堂々と出版していることに驚きを禁じえません。

2)使える表現をひたすらくり返す 

また、記憶を潜在化させるには反復練習が欠かせません。音読やシャドーイングも効果的ですし、「この表現は使える!」と感じる言い回しに出会ったら、何度も呟いて練習する「独り言練習法」も非常に効果的です。僕はこのやり方で大量の言い回しを自分のものにしました。 

また、記憶というのは不思議なもので、ある程度言い回しのストックが出来上がると、似たようなバリエーションを増やすのが急に楽になります。これはおそらく英単語同士の繋がりが増えた結果、単語を引き出すのが早くなるからです。

 3)喋る、書く!

また、並行して実際にドンドン使って「引き出す回路」を強化して行きましょう。記憶というのは思い出そうとするたびにドンドン強化されて行きます。ですから実際に使うことで、更にシッカリと固定されていきます。うまく通じなければ、ダメなところを修正して再挑戦です。

ここで失敗を恐れて一人で反復練習ばかりしていると、気がつかないうちに悪い発音や不適切な言い回しが癖になってしまうことがあります。早い時期からドンドン使って修正をかけていくと、結局は早く上達します。

ある程度言葉が滑らかに出て来るようになったら、今度は読み書きにも積極的にチャレンジしましょう。書くという行為は話すのと違って時間がかけられるので、正確を期することができます。文法の弱いところなどは、書いてネイティブに修正してしてもらうのが最短距離の方法です。なお、日本語で下書きしてから翻訳したりするのだけは絶対にヤメておきましょう。英語を英語のまま頭から取り出せるようになりたいのであって、翻訳の能力を高めたいわけではないからです。

なぜ読み書きが必要かと言えば、そうしないと、いつになっても複雑なことを話せるようにならないからです。これは母国語で考えても同じことです。目の前に実在するものについてなら読み書きができない子供でも可能ですが、そうでないこと、例えば経済や環境問題、あるいは愛や平和といった概念的は。語彙を蓄え、順序立てて説明する訓練をしていかないと、いつになってもできるようになりません。

そして作文は、そうした思考を養い、格調高い表現を身につける上で非常に有効な手段なのです。また日本語でもそうですが、一度書いておくと頭の中が整理され、話すのも格段に楽になります。スピーチの前などに要点を箇条書きしておくことがありますが、書くという行為には思考を整理、発展させる大きな力があります。

以上が、英語の「正しい学習方法」です。英語を英語のまま潜在記憶に擦り込むこと。これに尽きます。なるべく音から入り、高度な概念は書き言葉で後から強化して行きます。文法や単語、英語のコンテンツの視聴は独学でもできますが、発音と作文だけは専門家の助けが必要です。英語学習にお金をかけるのであれば、この二つに絞り、あとは独習でも十二分に身につきます。