オーストラリアにある職業カレッジ「TAFE」(テイフ)。実践的な英語も身につけるチャンスがありますが、入学前に一定の英語力を身につけていることが求められている。留学生も受け入れる豪州だけに、TAFEには、英語準備コースが設けられている。
先生「あなたの国では初めて会った人をどう呼びますか? レバノンでは?」
男性「名前がわからなくても、やあ、最近どう?と気軽に話しかけるのが、普通です」
先生「中国は?」
女性「韓国と似ています。最初は姓で呼びます。親しくなるまでは」
先生「ペルーは?」
女性「いつもファーストネームです」
先生「タイでは」
女性「最初は名前がわからないから、『あなた』ですが、名前を聞いてわかった後はニックネームで呼びます」
先生「オーストラリアでは」
男性「Hey ,bro! , good day mate!」(こんにちは、ブラザー!)
シドニー中心部に近いTAFEウルティモキャンパス。案内された教室では7人が学んでいた。韓国人が2人で、あとは中国、タイ、レバノン、ペルー、コロンビアからそれぞれ1人ずつと多様だ。English for Further Study 1(EFS1)というコースの授業だ。教壇に立つマル・ナガンスカ講師は、このコースはいわば、「中級1」だと説明した。
中級1のカリキュラムを見せてもらった。5週間のコースで、1週間ごとに、「私の暮らし」、「人生のこれまで」「テクノロジー」「自然環境」とテーマを変えて英語を学ぶ。
この日は、中級1の最終週の5週目。「文化理解」がテーマだった。国際色豊かな教室では、国によって違う文化の理解を深める、という内容は格好のテーマのようだ。テキストをのぞいてみる。
「4技能」をまんべんなく
“Travelling to all corners of the world gets easier and easier .We live in a global village, but this doesn’t mean that we all behave in the same way”
(世界のあちこちに旅行するのはどんどん簡単になっています。私たちは地球村に住んでいますが、これは、みな同じように振る舞うということではありません)
こんな書き出しで、あいさつや服装、飲食、ビジネスについて各国の典型的なマナーを紹介する1ページの文章が載っている。
これを読んだうえで、各自が質問に答える。例えば、
“Why is it not a good idea to say to your Japanese business colleagues, ‘I don’t feel like staying out late tonight ‘? “
(日本人の会社の同僚に「今夜は遅くまで付き合う気分じゃない」というのがよくないのはなぜですか)
こんな質問があったのは、テキストの文章に
”Japanese business people consider it their professional duty to go out after work with colleagues, if you are invited , you shouldn’t refuse”
(日本のビジネスマンは仕事の後に付き合うのは、仕事上の義務だと考えているから、誘われたら断るべきではない)といったくだりがあったからだ。
さらに、「グループで話し合ってみましょう」と学生同士での英語でのやりとりを促す。
”Think of one or two examples of bad manners in your country . For example , in Britain it is considered impolite to ask people how much they earn”
(あなたの国で一つか二つ、悪いマナーを考えて。たとえば、英国では人の収入を聞くのは失礼だと考えられています)
1日4時間、週20時間の時間割には、4技能と呼ばれる、ライティング、リーディング、リスニング、スピーキングの内容が、まんべんなく割り振られている。
「テクノロジー」のリーディング/ライティングの時間では、様々な技術を英語でどう表現するかを学ぶ。「自然環境」のスピーキングの時間では、野外旅行に行く際に想定される観光案内所でのやりとりをしてみる、といった具合だ。
ナガンスカ講師は「たとえば、ある1日をリスニングだけに集中する、というやり方を取ろうとしても、実際には話す、書くといった要素も入ってきて難しい」と言い、「統合的なアプローチをしている」と強調した。コースを修了するまでに、4技能でそれぞれテストがあり、原則として5割以上のスコアを取らないと次のレベルに進めない。
プレゼン準備も丁寧に指導
学生たちはプレゼンテーション(発表)もしなければならない。専門コースに進んでも、発表が課題となる場合が多いからだ。中級1では、「有名人」がテーマ。まずエッセーを書いてナガンスカ講師に提出。これを添削してもらい、再提出して適切な表現に仕上げる。そして、これをもとに、発表用ソフトで資料を作り、5分間ほどクラスメートの前で発表。質問にも答えなければならない。英語の総合的な力が求められる。
和やかな様子で学びながらも、しっかりと学生たちを鍛え、評価する仕組みになっているようだ。
中級1を終えれば、EFS2(中級2)となり、さらにEFS3、EFS4 (それぞれ中上級1、中上級2)へと進む。ちなみに、中級コースの下にはPre-Intermediate (準中級)の1、2がある。それぞれ、5週間のコースで、入学時の英語のレベルに応じて、どこから学び始められるかが決まる。
EFS4まで修了すれば、TAFEの職業専門コースに入ることができる。専門コースに入る場合、ふつうは、国際英語テストのIELTS(アイエルツ、1~9までのスコアで表示)の5.5以上の英語力が求められるが、ここまで進めば、それに準じると認められる。
「最初はカタコトだったけれど……」
専門コースへの進学が近づくEFS3(中上級1)の留学生たちに話を聞かせてもらった。集まってもらった5人が学び始めたコースは、「準中級1」が1人、「準中級2」が2人、「中級1」、「中上級1」が各1人と、ばらばらだ。
台湾から来た蔡震諺さん(25)は半年前に「準中級1」から入った。「最初は単語を並べるだけで、クラスメートとの会話が成立しなかった」と振り返る。「でも、今はすべての面で上達した。まだ、リスニングが弱いと感じるけれど」
台湾ではマーケティングを学んだが、英語ができないことが原因で仕事がうまく見つからなかったという。この後は、「電気技術者のコースに進みたい」と、ゆっくりだが、しっかりと話す。
イニョマン・グナワンさん(18)はインドネシアから来た。「中上級1」から入れただけあってもともと英語力があったようだ。ほかの留学生よりもすらすらと英語が口から出てくるが、「このコースのおかげで、英語がさらに上達した。この後はホテルのマネジメントのコースに進むつもり。豪州の五つ星のホテルで働きたい」と希望を語った。
日本からの留学生もいた。東京都出身の女性(18)は高校卒業後にやってきて、「中級1」から始めた。「私は普通の日本人よりは少しだけ英語ができる、というくらいだったと思う」と女性は言い、美容セラピストのコースに進む予定だという。ホームステイをしていて、「ステイ先の家族も、英語が上達するのを助けてくれます」。ほかの留学生たちと同じく、すべて英語で答えてくれた。
年間で4度の長期休みが入る専門コースと比べて、英語コースは年末年始の2週間を除いて、年中開講されている。5週間単位のコースの最初の月曜日に入るのが理想的だが、コースの途中でも毎週月曜日に受け入れる。英語コース責任者のジェーン・クルバートさんは「ここで英語を学んでいる間に、いろんな専門コースの先生に会ったり、見学したりする機会も設けます」。
クルバートさんによると、留学生たちが英語準備コースで学ぶのは、平均して20週間前後。次回にもういちど、日本人にも人気のTAFEの専門コースで、英語力にも磨きをかけている様子を紹介したい。
(次回は2月20日に掲載します)