あなたがシドニーに観光に来たら、こんな日帰りツアーに参加したらいかが?
(A) シドニー湾でスリル満点のジェットボートに乗った後、ハロウィーンのお化けのメークアップ体験をした姿で、入植時代の面影が残る街の中でお化け探しツアーへ。
(B)シドニー郊外の自然豊かなロイヤル国立公園へ。美しいビーチでのバーベキューやカヤック体験、森林でのハイキングを楽しめます。
TAFEの「観光業マネジメント」の学位(diploma)コースで学ぶ学生たちが、企画したツアーだ。クラスメートの4人のチームで企画して、利益が上がるように業者と交渉しながら予算を立案。別のコースの教室に出かけて、プレゼンをして参加者を募り、実際に催行した。留学生を含む学生たちは、当然ながら、これらをすべて英語でこなさなければならなかった。
講師は経験豊富な元旅行会社員
学生たちはふだん、シドニー中心部に近いキャンパスで学ぶ。講義の様子を取材したのは昨年11月。出席していた9人の学生のうち5人が留学生だった。教えていたのは、旅行会社で20年間近く働いた経験があるジャック・アーカス講師だ。
スライドに、こんな文章が表示される。
“Managing finances within a budget that has already been prepared can be broken down into 4 steps”
“ 1. Implement a budget , 2. Monitor a budget , 3. Assess the variances , 4. Take corrective action”
(予算の範囲内の財務のやりくりは、4つの段階に分けることができる。1.予算の執行 2.予算の監視 3.バリアンスの評価 4.修正策の実施)
アーカス講師が説明する。
「バリアンス(variance)とは何ですか。予算の額と実際の額の違い、差額のことですね。これをまとめたものを、バリアンス・リポートと言います」
さらに、Favourable Variance, Unfavourlable Variance といった用語も出てくる。それぞれ、「予算より収入が多い・出費が少ない」、「予算より収入が少ない・出費が多い」という意味だという。
ビジネスの実務に携わった経験のない一記者の私には、難しく、すぐに内容がのみ込めない。英語なのでなおさらだ。でも、1年コース(前後期制)の最終盤にさしかかるこの日、学生たちの表情には、そんな様子は見られない。
アーカス講師は「最初は英語のスキルが低い留学生もいる。だから、私は授業で使ったスライドの資料など、コースで知らなければならない内容のものは紙で渡すようにしている。前期を通じてこの学生たちの英語は上達しましたね」と説明する。
学生たちが企画・催行するツアーは、コースの集大成とも言える。
この日の講義は、ツアーをふまえて、予算と実際がどうだったかを、旅行会社の担当者になったとして、評価する内容だった。
「難しい……」日本の留学生が採った方法とは
留学生の中に日本から来た学生が2人いた。冒頭に紹介したツアーは、それぞれ、2人がチームの仲間と企画した内容だ。
浅川なおみさん(20)は、愛知県出身。TAFEの英語準備コースで、「中上級1」、「中上級2」、さらに、「大学準備」の各コースを5週間ずつ学んでから、観光学のコースに入った。日本の大学に行くかどうか迷ったが、「英語も仕事で使える英語も身に付く」とTAFEを選んだという。
英語準備コースで学んだとは言え、「(観光学コースの)最初はリスニングが難しかった。先生たちはネイティブの人に合わせて話すので。最初の2、3週間はいちばん前に座り、講義を録音していました」と振り返る。
小柏結(おがしわ・ゆい)さん(20)は群馬県から来た。シドニー市内の別の英語学校で半年学んだ後で、TAFEに入った。「私も最初は録音したり、スクリーンを写真に撮ったりしていました」と話した。
そんな2人だが、この日の講義は、ほとんど理解していたという。
「今でも、専門用語が出てくると何だろうというときはある」(小柏さん)が、「難しい言葉は何度も繰り返すので、だんだん意味がわかってくる」(浅川さん)。例えば、delegate。英和辞典では、「代理人、代理を立てる」といった意味が出てくるが、旅行業界では、ツアーを企画する際に、仕事をほかの人に任せたり、分け合ったりするときに使うと学んだ。
ツアーの企画は2人にもよい経験になったようだ。
冒頭の(A)のツアーを企画したのは、浅川さんのチームだ。実際に業者ともやりとりしながら、利益の上がる料金設定にするのは大変で、「英語でのコミュニケーションは大変なときもありました」。参加者を募るために、ほかのコースの教室でプレゼンするときには、「自分の英語で伝わるか不安だった」が、何とか乗り切ったという。
(B)のツアーを企画し、「いままで経験したことがないことばかりで、しかも英語で専門用語を理解するのに時間がかかりました」と話す小柏さんは、ツアーの企画から催行までを追ったドキュメンタリービデオの作成も担当。苦労しながら、クラスメートへのインタビューを英語でこなしたのが印象深いという。
職業カレッジから大学へ進む道も
2人に英語でインタビューをさせてもらった。
――1年の専門コースを終えるところですが、先生の言うことはわかりますか。
浅川さん “Yeah, at this moment a kind of like I can understand what teachers are saying but sometimes it is very hard because of new vocabulary that I don’t know , but I can ask to the teacher what does it mean.”(わかります。知らない新しい単語が出てきたときは難しいですが、どんな意味か尋ねることができます).
――あなたはTAFEの英語準備コースでなく、別の英語学校に行ってから来ましたね。
小柏さん ”But it’s good because it is not different from TAFE English school. I could learn how to write an essay or something, it is useful now.”(TAFEの英語コースと同じように良かったです。どのようにエッセーを書くかなどを学べましたし、今、役立っています)
2人とも受け答えはスムーズで、しっかり学んできた蓄積を感じた。
浅川さんは今年、さらに半年間、TAFEの観光学の上級コースで学ぶ。小柏さんはシドニーの大学に進学し、観光学を学ぶ。TAFEで学位を取ったので、大学には2年次から編入できたのだ。卒業後はまず、豪州の観光業界で働きたいという。