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積み木を重ねるように オーストラリアの私立小にみる英語教育

バイリンガルの作り方~移民社会・豪州より~
ESLの部屋は校内の中庭に面したところにある。レッスンを終えて出てきた小学1年生=豪南部アデレードのセント・アロイシャス・カレッジ、小暮哲夫撮影

街の中心部にある校内。その中庭に面した「ESL」(第2言語としての英語)と書かれた部屋で、小さな女の子2人が簡単な文章を作って話す練習をしている。

女の子たちが座るテーブルの上には、全部で六つのマスがある紙が置かれている。それぞれのマスには and , went , was , saw ,my などの単語が書かれている。マスの単語を使って文章を作るレッスンだ。女の子の1人が選んだマスには、saw とある。

女の子 “I saw a man walking.”(男の人が歩いているのを見ました)
先生「見たのは、昨日ですか、今ですか」
女の子「昨日です」 
先生「そう、過去形ですからね。美しい文が作れましたね」

次に選んだマスには、and と書かれている。
女の子“I and mum is going to…”(私とママが...)
先生「1人より多いときは、何というの? is じゃなくて……are ですよね」

ESL(第2言語としての英語)の部屋で個別にレッスンする(左から)オロックリン教諭と、幼稚園児のベリンダさん、ゴヤさん=豪南部アデレードのセント・アロイシャス・カレッジ、小暮哲夫撮影

園児は話し言葉から 発音を重視

アデレード中心部にあるセント・アロイシャス・カレッジは1880年創立のカトリック系の私立女子校だ。幼稚園から12年生(日本の高3)までが学ぶ。全校の約1300人のうち300人が、英語が母語でない子どもたちだ。

ESL(第2言語としての英語)教育が専門のジュード・オロックリン教諭が教えていたのは、家ではタイ語を話すというゴヤさん(6)と、家族のルーツはベネズエラで、スペイン語が母語のベリンダさん(6)だ。

ノンネイティブの子どもたちは、ふだんはネイティブの子たちに交じって勉強している。ESLを教えて30年以上になるオロックリン教諭とメアリー・コツシオニス教諭の2人が教室を回り、クラス担任の先生からも状況を聞いて、それぞれの英語力を評価。特別に支援が必要だと判断した子どもたちには週に1度、ESLの部屋に来てもらい、40分間の個別レッスンをする。

オロックリン教諭が説明する。「幼稚園児の場合、最初はアルファベットを学んで、母音などの正しい発音を身につけてもらう。まずは話し言葉から」。つづりと必ずしも一致しない単語の発音を学ぶことに重点を置くという。

ゴヤさんもベリンダさんも。同校の幼稚園で学んで1年に満たないが、オロックリン教諭の話すことは理解できていて、自然と英語が口から出てくる様子が印象的だ。「年齢が小さいと、言葉の吸収も早いです」(オロックリン教諭)

次に、コツシオニス教諭が教える小学1年生の5人のレッスンを見せてもらった。

カタツムリの特徴について小学1年生が書いた文章をチェックするコツシオニス教諭(中央)=豪南部アデレードのセント・アロイシャス・カレッジ、小暮哲夫撮影

「これまでsnail(カタツムリ)について勉強してきましたね。今日はこれまで蛍光ペンでマークしてきたキーワードを使って、カタツムリの特徴を書いてみましょう」

Appearance (見た目)、Diet(食べ物) Habitat(住んでいる場所)という観点から文章を書いていく。

「文章の最初は大文字で書くこと。それから、Snails have , snails have と続いてしまう場合はどうしますか? そのときは、2回目をThey also have とすること。文章と文章をつなぐにはどうしますか? and を使ってほしいですね。スペルも正しくね」

子どもたちの書いている文章をのぞいてみた。

カタツムリの特徴について文章を書く小学1年生=豪南部アデレードのセント・アロイシャス・カレッジ、小暮哲夫撮影

”Snails are gastropods. Snails have different shells and they have four antennae….Snails eat plants and dead animals .They also eat insects and rotting leaves” (カタツムリは巻き貝の動物です。貝と触角があります。植物や動物の死体、昆虫や腐った葉も食べます)

5人の母語はベトナム語、スペイン語、スリランカで話されるシンハラ語。1年生になると、理科の用語も使いながら、英語で文章を書けるようになっている。幼稚園児のときに学んだ話し言葉の土台に、書き言葉の要素が加わった形だ。

「2年生になると、花を題材に同じようなことをします」(コツシオニス教諭)

3年生なら、すらすらとプレゼンも 

ESLの部屋には学年がもっと上の子たちもやってくる。小学3年生の4人が入ってきた。紙袋を手にしている。

この時間では、子どもたちが自分の好きな本の著者について調べた内容を、袋に入れて用意。英語の授業で袋の中の資料を示しながら発表する内容を、ESLの部屋でまず、練習してみるのが狙いだ。たとえば、こんな具合だ。

”Jacqueline Harvey has spent her working life teaching in girls boarding schools. She is the author of best selling Alice Miranda series, and was awarded honour book in 2006 for her picture book “the sound of the sea” (ジャクリーン・ハーベイは、私立女子校の先生として教えてきました。ベストセラーの「アリス・ミランダ」シリーズの著者で、2006年には絵本「海の音」で賞を得ました)

ESLの部屋で好きな本の著者について調べた発表の練習をする小学3年生(手前)=豪南部アデレードのセント・アロイシャス・カレッジ、小暮哲夫撮影

「8年生や9年生(日本の中2、3)でも、内容は高度になりますが発表の仕方は似たようなものです」(コツシオニス教諭)ということだが、すらすらと発表をしていく。4人の母語はスペイン語、アルバニア語、ヒンディー語。ノンネイティブの小学3年生でここまでできることに驚いた。

発表の練習が終わったところで、オロックリン教諭が指摘した。

「bring という言葉の意味はわかりますよね。bring your bag down (持ってきたバッグをおろして)と、きょう、私も使いましたね。でも、その動作が終わったときには何と言いますか。brung という言葉はありませんよ」

発表の中で1人の子がbrought でなくbrung という言葉を使ったのだった。ときどき、動詞の過去形などを子どもたちが作り出してしまうことがあるのだという。

「普通の教室では先生が直さないことも多い。間違っていても、子どもたちが何を言おうとしているかわかるから。直すと、子どもたちを落ち込ませてしまうと考える先生もいる。でも、ここでは、間違いがあったら、しっかり直してあげる。とくに文法では、そこで大きな差が出ると思います」

ESLの部屋で好きな本の著者について調べた発表の練習をする小学3年生=豪南部アデレードのセント・アロイシャス・カレッジ、小暮哲夫撮影

同校のESLの子どもたちのコーディネーター、クレア・コリアーさんは「本校では、英語ができないことは入学の妨げにはなりません。まず、その子が英語をどれくらいできるかを評価して、どう上達させていくかを個別に考えていきます。子どもによっては、言葉の問題だけでなくて、文化的な違いが大きかったり、難民の家庭のように、そもそもこれまで教育を受けてこられなかったりしたケースもある。個々のニーズを調べて対応しています」

こうして英語力の向上を個別にケアして、教室での勉強についていける後押しながら、「1日の大半の時間を教室での英語につかる環境に身を置いて、英語力を豊かにしてもらう」(コリアーさん)。

話し言葉から初めて書き言葉、そして読書をふまえた発表まで。学年を重ねるごとに、ノンネイティブの子どもたちの英語が上達していくプロセスを、訪れた1日の間に見せてもらったようだ。そんな感想を話すと、コツシオニス教諭が「そうです。積み木を重ねるように、英語のスキルを身につける手助けをしています」と答えた。

同校では、留学生の受け入れも積極的で、中高生の留学生も受け入れている。日本の高校からも短期留学に来るケースもあるそうだ。