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日本人に多い「1年留学」 どこまで英語が上達する?(前編)

バイリンガルの作り方~移民社会・豪州より~
休み時間に友人らと話す小松崎花鈴さん(左から2人目)=ブリスベンの州立ケドロンハイスクール、小暮哲夫撮影
休み時間に友人らと話す小松崎花鈴さん(左から2人目)=ブリスベンの州立ケドロンハイスクール、小暮哲夫撮影

オーストラリアに留学する場合、高校生なら公立校でも学費が1万2千~1万5千豪ドル(100万~120万円)ほど、ホームステイ費用などを合わせれば、3万豪ドルになる。私立なら、学費だけで3万~4万豪ドルはする。数年は無理でも、1年くらいなら何とか、と考える家庭もあるだろう。現地で学ぶ高校生たちを訪ねました。

オーストラリア第3の都市ブリスベン。州立ケドロンハイスクール(中高)は市中心部から車で20分ほどの住宅地にある。10年生(日本の高1)の数学の授業では、期末テストを前に、マーク・ローソン教諭がこの学期に学んだ内容を説明していた。例題の一つがホワイトボードに示される。

「29人のクラスがあります。赤、青、緑の三色とも好きな生徒は8人。赤と青が好きなのは9人、赤と緑が好きなのは10人で……」

「集合」の問題だ。Venn Diagram(ベン図)、Intersection(交わり)などの用語が出てくる。

教室の真ん中あたりの席に座る小松崎花鈴さん(17)は茨城県の土浦日大高の2年生。1年生だった1月中旬、豪州の新学年に合わせてやってきて10年生(高1)に編入した。1年留学の希望者を豪州の学校に送り、単位として認める土浦日大高の制度を利用している。

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小松崎花鈴さん=ブリスベンの州立ケドロンハイスクール、小暮哲夫撮影

3月までの1学期は、別の中高に併設されている現地校に入るために英語を学ぶ集中準備コース(HSP)に通い、4月中旬からの2学期にケドロン校でネイティブの生徒たちに交じって学び始めた。取材に訪れたのは6月中旬。小松崎さんは中学時代から英語の授業は好きだったが、授業以外で英会話などは習っていなかったし、外国で暮らしたこともなかったという。

授業の内容はわかりますか? と尋ねると、数学の内容自体は日本で学んだものと重なるのでそれほど難しくないが、「用語が英語なので、辞書を使ってあーそう(いう問題)なんだ」と確認する日々だと話した。
むしろ大変なのは、英語の授業だという。「単語がすごい(難しい)」。同校職員のタニヤ・シノットさんが教室に入って、内容を補足して説明してくれる。シノットさんは「Teacher Aid」(指導助手) という特別のポジションで、自ら授業をするのではなく、ネイティブでない留学生たちを支援する役回りだ。

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Teacher Aid (指導助手)として小松崎さんら留学生を支援するタニヤ・シノットさん=ブリスベンの州立ケドロンハイスクール、小暮哲夫撮影

英語のこの学期の課題は環境問題をテーマにした発表。発表用のスライド資料とスピーチ原稿を用意しなければいけない。小松崎さんが選んだテーマは食品廃棄物。たとえば、スピーチの家庭でのごみをへらす方法を説明するくだりは、こんな具合だ。

”Compost bins are a good way to dispose of food scraps because the scraps break down and enrich the soil. Putting food scraps into the compost bin reduces general waste in our landfills” (生ごみ処理器は、食品ごみを分解して土壌を肥やすので、ごみ処理の良い方法です。これを使うことで、一般ごみとして埋め立てる量が減ります)

シノットさんに休み時間などを使って何度も見てもらい、仕上げた。
好きな科目は料理。レモンメレンゲパイの作り方を学んで楽しかったそうだが、そんな実技科目でも、パイを作るうえでの卵の役割とか、費用面などをレポートにまとめて提出する課題が出た。授業で使ったプリントには、leaven (発酵させる)、emulsify(乳状にする)など、料理でしか使わないような英単語が並んでいる。

ヒアリングの上達がカギ

HSPから移ってきてすぐは、緊張していたうえ、周りが話すスピードにも圧倒され、自分から話せなかったという。1カ月あまりたって、「このままではダメだ」と同じ授業を取る子たちに話しかけるようになり、休み時間を過ごせる友人ができた。「最近は会話が成立するようになった。自分に関係ないことを話されちゃうとわからなくなってしまうけれど」

同校では、7~12年生まで全校生徒が約1500人の学校に留学生が47人いて、日本人は7人。中国やベトナム、韓国などからの大半の留学生は卒業を目指して数年の期間、留学するのに対して、日本人は1年留学が圧倒的に多いという。

日本語を担当し、留学生担当の責任者でもある浅野由記教諭は言う。「日本人の生徒たちはよく、最初は『全然わからない』と泣いてくる。そんなときは、テレビを見たり、ホームステイ先で話したり、聞く力を身につけることが大切だと言う。ヒヤリングが上達すると、話せるようになるからと。日本人は間違った英語を話したら嫌だ、という意識があるようだ。でも、留学期間が1年しかないのだから自分から話したり、質問したりしなさいと。半年くらいたつと英語がわかってきて、少しでもわかると(留学生活が)面白くなってくる」

小松崎さんも、その時期にさしかかりつつあるのかもしれない。英語で質問に答えてもらうと、ゆっくりだが、自分の言葉で答えてくれた。”I want to speak English more fluently and I want to hang out with my friends in holydays and weekends”(英語がもっと流暢になって、友達と休日や週末に遊びにいきたい) 「進歩はしていると思います」

そんな英語の上達にホームステイが助けになっている。ステイ先では、自分の部屋から出て家族といっしょに過ごすことが多い。夕食もホストマザーといっしょに作り、週末も家族といっしょに外出する。「最初は発音が全然できていなくて通じなかった。マザーに発音の練習をしてもらっています。RとかLとか、Thとか」。7歳と5歳の「すっごくかわいい」男の子もいる。「マザーが子どもたちに話す言葉は私にもわかりやすい」

あと半年余りの留学期間でどうしたいかと聞くと、「今の目標は、友達と冗談を言ったり、世間話をできたりするようになるということです」と返ってきた。

「人間として成長したい」

そこから、車で10分ほどの州立ミッチェルトンハイスクール。ここには、同じく土浦日大高からやってきた箱崎拳汰さん(16)が学んでいる。案内されたのは、音楽の授業。学期末のマンドリンの実技テストの日で、箱崎さんも照れくさそうに前に出て演奏していた。

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音楽の授業のマンドリンの実技テストで演奏する箱崎拳汰さん(左から2人目)=ブリスベンの州立ミッチェルトンハイスクール、小暮哲夫撮影

中学時代から週1回、英会話学校に通っていたという箱崎さん。「英会話の先生がオートラリア人だったので、オーストラリアの英語のなまりには慣れていた。HSPはそれほど難しくはなかった」という。2学期から入ったミッチェルトン校の授業も「自信はないけれど、それなりにわかっていると思う」と落ち着いた様子で話す。

とは言え、たとえば、英語の授業のこの学期の教材は、豪州ではドラマ化もされた人気小説「Tomorrow, When the War Began」(あした、戦争が始まったら)。「いきなりハイレベルのボキャブラリーとグラマー(文法)で。1時間の授業で1章分、20ページくらい進むんですよ」。この学期の課題は小説の中身を理解したうえで、この小説の紙の広告をつくること。「わからない単語は書いたり、実際にホストファミリー(ホームステイ先)と話したりして使っています。実践が第一だと思っているので」

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英語の授業で使った小説(右)。期末の課題はこの小説の広告を作ること。「ハリーポッター」の広告が参考例として示されていたという=ブリスベンの州立ミッチェルトンハイスクール、小暮哲夫撮影

同校では500人近い全校生徒のうち、留学生は80人ほど。留学生でも授業で課せられる課題は一般の生徒たちと同じだ。ここにも指導助手が2人いて、教室を回って支援し、課題の作成なども手伝う。

インタビューの最後に、箱崎さんにも質問に英語で答えてもらった。
「科学は特殊な用語が出てくるので、とくに難しい」「将来は国際的な仕事がしたい」。質問自体は、直前に日本語で聞いて答えてもらっていた内容だったが、英語で答えるとなると、じっくり考えながら、言葉が口から出てくる感じだ。

「スピーキングとリスニングが大変です。ここの子たちは話すのが速くて。それと、自分の感情をどう表現すればいいのか。なかなか、すーっと出てこない」

「それとコミュニケーション面で苦労している。日本では小、中学校と同じ顔ぶれで友達をつくる努力をする必要がなかった。自分から行くのがなかなか得意ではないので」

残り半年の目標を聞くと、箱崎さんは「ふつうは英語の上達がいちばん、と思うでしょうが、自分は人間として成長することがいちばんだと思っている。親から離れて1年過ごし、いろんな刺激をもらい、日本ではできない体験をすると思うから」と少し意外だが、しっかりとした答えが返ってきた。

穏やかで、実直な人柄が伝わってくる箱崎さん。そんな姿に、留学生の支援担当のジュディ・マーティン教諭は「ケンタはとてもやる気があってすばらしい。でも、少しリラックスしてほしいかな。ちょっと緊張気味かも。もう少ししたら、大丈夫だと思う」

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箱崎拳汰さん=ブリスベンの州立ミッチェルトンハイスクール、小暮哲夫撮影

1年でどのくらい英語ができるようになるのか

1年という時間は、英語を上達させるには、十分でしょうか?
「100%ではないけれど、先生が求めていることは理解できるようになる。先生とだけでなく、級友やステイ先でのやりとりを通じても、上達します」。同校で留学生の支援をして12年というマーティン教諭はそう言い、1年後には「functional English (実用的な英語)」が身につくと説明した。留学生活を送るうえで、英語でひととおり事が足りるようになるということだ。

同校に併設されているHSPの責任者のアンドレア・ピュー教諭は「アカデミックな英語は、まだまだ途上、というところでしょうが、(英語に)自信を持つようになる。そうすれば、(英語に苦労する)闘いは、半分が終わったようなものです」と話した。

豪州で来て数カ月。日本人の生徒たちは英語と格闘する日々を送っていた。1年後には、どんな「変化」が起こるのだろうか。次回は1年留学を終えた経験者を紹介したい。

(次回は10月3日に掲載します)