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トリリンガル少女もいた! オーストラリアの小学生向け「英語集中校」

バイリンガルの作り方~移民社会・豪州より~
色紙を使ってクリスマスツリー作りをする小学生向け「英語集中校」の子どもたち=豪ブリスベンのブラウンズ・イングリッシュ・ランゲージ・スクール、小暮哲夫撮影

オレンジや青など明るい色合いのテーブルで三つの「島」に、子どもたちが向かい合って座っている。昨年12月初め、この日の午後の最後の「Activities(作業)」の時間のテーマは、色紙を使った小さなクリスマスツリー作り。すでに、作り方を紹介した英語のビデオを見た後で、各自が工作に取りかかったところだった。

男の子 “Can you help me? I am always confused .,”(手伝ってくれますか。ずっと、どうしたらよいか混乱しています)
先生 “I will show. You use many glues , do slowly”(わかりました。のりをたくさん使いすぎですね。ゆっくりやっていきましょう)

オーストラリア第3の都市ブリスベンの中心部にある私立の英語学校、ブラウンズ・イングリッシュ・ランゲージ・スクール。この連載では以前に、移民社会豪州ならではの仕組みとして、授業の内容が難しくなる中高生のノンネイティブの子どもたちが、現地校に入る前に通う「英語集中校」を紹介した。ブラウン校には、その小学生版と言えるコースがある。子どもたちがいたのはその教室で、このとき学んでいた11人は中国や韓国など、みなアジア系だ。

豪ブリスベンのブラウンズ・イングリッシュ・ランゲージ・スクール、小暮哲夫撮影

「いきなり現地小は不安」 保護者の声に応える

PSP(小学校準備)と名付けた豪州でも珍しいコースを開設したのは、2017年7月。小学校は最初から現地校の教室に入れ、必要に応じて個別のケアをするのが一般的だが、「いきなり現地の小学校に入れるには、英語が不安」というノンネイティブの子を持つ保護者の声に応えた。

同校は、州政府も認める中高の英語集中校(HSP)コースも開設している。PSPも、教え方は基本的にHSPと同じだ。全日制で、普通の小中高校と同じく、10週ごとの年4学期制。英語の授業を中心としながら、すんなり現地校で学んでいけるように、算数や理科などほかの科目も英語で学ぶ。順調に勉強が進めば、1学期ごとにレベルが上がっていく。小学生は、まずは、「サイトワード」と呼ばれるよく使われる基本単語の習得に重点を置く。HSPも教えてきたバージー・ダン先生は「やはり、発音は小さい年代の方が身につきやすいですね」と話した。

子どもたちが使う英語のテキストの一例=豪ブリスベンのブラウンズ・イングリッシュ・ランゲージ・スクール、小暮哲夫撮影

「HSP と比べた違いは、集中力が続く工夫です。例えば、ロールプレーは典型的。たとえば、先生が教室に『お店』を設けて、物の売り買いのやりとりを英語でしてみるとか」とPSPコースの責任者のマリア・コフレさん。冒頭のように、楽しみながら英語を使う「作業」の時間も設ける。一方で、理科の時間に宇宙についてプレゼンする、といったこともやってみる。

子どもたちが使う英語のテキストを示すコースの責任者、マリア・コフレさん=豪ブリスベンのブラウンズ・イングリッシュ・ランゲージ・スクール、小暮哲夫撮影

中高生から大人も学ぶ英語学校の同校では、いったん中に入れば、教室でも廊下でも完全に「英語オンリー」がルール。小さな子どもたちも守らないといけない。つい、母語で話してしまっても、先生たちは英語を話し続ける。また、毎週、ひとりひとり、勉強の目標を設定させて、やる気を引き出そうとしている。教室では、島ごとに英語力のレベルが分かれていて、先生がそれぞれの島を行き来しながら教えていく。

教室だけでなく廊下でも「英語オンリー」の校内=豪ブリスベンのブラウンズ・イングリッシュ・ランゲージ・スクール、小暮哲夫撮影

本来、直接、現地校に入れてよい小学生なので、「入学」と「卒業」は柔軟にできる。学期の初めに入ることが推奨されているが、月曜日に学校に来てテストを受けて英語のレベルを測ってもらえば、どの週からでも、すぐに授業に参加できる。1学期間、10週だけ学んで現地校に移っていくのでもかまわない。一方で、一部の子どもたちが目指す私立小には、入学時に高い英語力を求めるところもあり、そんな子ども向けの授業もする。開講から1年半余りで、20人が「卒業」した。

日本からの「トリリンガル・ガール」も

教室の11人の中に1人だけ、日本から来た留学生がいた。名古屋市から来た女の子、村瀬潤さん(8)だ。18年7月にきて二つ目の学期の終わりにさしかかった時期だった。「最初は思うように話せなかった。でも、10月くらいには、英語がわかるようになってきました」と話した。すでに豪州の子ども番組は英語で理解できるという。

英語の質問に英語で答えもらった。

――ここでの勉強は楽しいですか
“Yes”
――勉強で何が楽しい
”Writing “(書くこと)
――友達はいますか
“Yes”
――友達はどこから来ましたか
“They are coming from China and Korea ”(中国と韓国から)

もの静かで簡潔な答えだが、こちらの質問は確かにわかっている。

日本から来た村瀬潤さんが使っているテキスト。しっかりと英文の書き取りができている様子だ=豪ブリスベンのブラウンズ・イングリッシュ・ランゲージ・スクール、小暮哲夫撮影

母親の高岩さん(47)は「来る前は英語のアニメやビデオを見ていましたが、英語教室には通っていません。あいさつができる程度でした。それが、10月くらいから寝言が英語になりました」と我が子を見守る。日本語も流暢な高さんは中国人で、日本で仕事がある日本人の夫を残して、潤さんとブリスベンで暮らす。

潤さんは、日本の小学校に入学して2カ月通った後、高さんの実家のある中国・瀋陽の小学校に18年4月まで通った。家では日本語と中国語で話しているといい、「中国の学校はすぐ慣れた」(高さん)。高さんは、2年生になったら今度は1年間、英語を学ばせようと決めていて、豪州にやってきた。今年4月末まで40週を学び終えた後は、日本の3年生に戻すつもりだという。

PSPコースを豪州の現地校に入れる目的ではなく、英語力を身につけることに使う。バイリンガルでなく、トリリンガルを目指す驚きの家庭に出会ってしまった。

村瀬潤さん(左)と母親の高岩さん。学校から歩いて10分ほどのアパートに暮らしている=豪ブリスベンのブラウンズ・イングリッシュ・ランゲージ・スクール、小暮哲夫撮影

でも、学費が…… それなら「お試し留学」も

さて、気になる学費だが、週495豪ドル(約3万8千円)。1学期間、通わせれば38万円、年間で150万円ほどする。これに加えて、親子の生活費がかかることになる。やはり、ここでも多数を占める中国人の子どもの親たちはみな、富裕層だという。

日本人の場合、夏休みなどの2~3週間だけ親子でやってきて通う、というケースがこれまでにあった。「単身で来られる中高以降で留学をさせたいが、まずは短期で」ということのようだ。そんな「お試し留学」も受け入れている。

             ◆
これまで16回にわたって、豪州で中高生や小学生が英語を学ぶ現場を訪ねてきました。4人に1人が外国生まれのこの国では、移民の子どもたちや留学生たちが受け入れる仕組みや経験があることを、取材を通じていつも実感してきました。

一方で、当然ながら、大人になってからやって来る人たちもたくさんいます。次回からは、この国で社会人が実践的な英語を学ぶ場を紹介していきます。

(次回は1月23日に掲載します)