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気持ちは祖国に それでも隣国に安全の地を求めるニカラグア人逃亡者たち

ニューヨークタイムズ 世界の話題
ニカラグア政府から指名手配され、コスタリカの隠れ家で外の様子を見る逃亡者=2018年12月19日、=Meridith Kohut/©2019 The New York Times
ニカラグア政府から指名手配され、コスタリカの隠れ家で外の様子を見る逃亡者=2018年12月19日、=Meridith Kohut/©2019 The New York Times

マットレスや衣類がはみ出したスーツケースが、中庭いっぱいに散らばっている。家族、あるいは男女を分けているのはシーツだけだ。

コスタリカの地方にある牧場。三つの寝室のある質素な家の台所では、とても50人もの飢えた逃亡者たちの食事をまかなえない。だから女性たちは、屋外でたきぎを燃やして料理している。

ここは隣国ニカラグアから逃れてきたニカラグア人の隠れ家だ。牧場は国境を越えたところにあってニカラグア当局に捕まる心配はない。しかし大勢が暮らしやすいところでは無論ない。ニカラグア側のスパイが潜入してくるかもしれない。だから毎晩、人びとは交代で夜番をする。

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コスタリカ側にあるニカラグア反体制派の隠れ家でたき火を囲む逃亡者たち=2018年12月20日、=Meridith Kohut/©2019 The New York Times

隠れ家を運営しているのは「ゴッドマザー」と呼ばれるニカラグア人女性。料理用の燃料がもっと要るのだろう、マチェーテ(山刀)を使って木の切り株をたきぎにしている同胞を見ながら、彼女は「私たちがここに居るのは一時的だと思っている」と言った。そして「もうだいぶくたびれてきた。私たちは自宅に帰りたい」とニカラグアへの思いを打ち明けた。

ゴッドマザーの本名はリセット・バルディビア。彼女はニカラグアの首都マナグアの北方にある商都マタガルパで衣料品店を3店所有していた。2人の子持ちで、ジムに通ってトレーニングするのが好きだった。新しいスクーターに乗って、まずまずの生活をしていた。

そんな暮らしが一変したのは2018年4月だった。

街頭で、抗議のデモが行われた。最初は高齢者たちが、ついで若者たちが大統領ダニエル・オルテガと妻で副大統領のロサリオ・ムリージョの退陣を求めてデモを繰り広げた。07年から大領領に就いているオルテガは独裁色を強めている。多くの国民がそう感じていた。ただ、大規模デモを引き起こした直接のきっかけは社会保障費の削減だった。

抗議デモは全土で繰り広げられた。人権擁護団体の監視員によると、ニカラグア警察と政権寄りの集団は武装してデモ隊を阻止し、非武装の参加者にまで発砲した。多くの死者が出た。

バルディビアは、どうして誰も助けてくれないのかと不信感を募らせたという。最初は近所で1人、次いで2人目の犠牲者が出た。3人目が銃撃されると、彼女はスクーターに乗って救助に駆けつけた。

バルディビアは、負傷したデモ参加者の応急手当てをしたり、抗議者たちに昼食をふるまったりする拠点(彼女の考えでは、人道的な司令部)を設営し、2カ月間切り盛りした。彼女はそこで手製の迫撃砲の使い方まで習った、と言った。もっとも、武器のほとんどは男たちに残してきたという。

2カ月後、親類から電話がかかってきた。「戻ってくるなんて絶対考えるな。お前のところには警官が25人はいて、いま家を壊している」と警告された。

彼女はすぐ逃げた。シャッターを閉めた3店、自宅、それに車やスクーターも残して逃亡した。7歳の息子は、身の安全のためにも父親の元に預けたままにした。父親は政府寄りの男で時々、彼女の活動に怒ってメールを送ってきてもいた。

「今のところ、私はこの同胞たちと居るしかない」。彼女は一緒に暮らす逃亡者たちについて話しながら、「将来ニカラグアが解放されたら、息子も自由を謳歌(おうか)するようになるだろう」と言った。

バルディビアは今、10代の娘と、最近知り合ったばかりの数十人の同胞と暮らしている。同胞の中には国営放送局に放火した容疑で追われているラジオアナウンサーのほか、未成年者が8人、それに大学生も数人いる。

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コスタリカにあるニカラグア人逃亡者たちの隠れ家で、子どもたちの世話をするリセット・バルディビア=2018年12月20日、Meridith Kohut/©2019 The New York Times

ニカラグアで数十万人規模の抗議デモが起きたころ、オルテガは大統領の座を追われるだろう、と多くは見ていた。しかし、政府は強硬にデモを鎮圧、数百人の死者が出た。強硬策がかえってオルテガの権力を強固にしたようだ。

それでも逃亡者たちは楽観的でいようと努めている。「我々は降伏しなかった」とサムエル・グティエレス(13)はきっぱりと言った。両親と一緒にバスと徒歩で国境を越え、コスタリカ側の牧場にたどり着いた。ニカラグアでは当局がサムエルのいた教会を襲撃し、2人を殺害した。サムエルはかろうじて逃げたが、学校には通えなくなった。

ニカラグア政府側からすれば、抗議者たちはテロリストであり殺人者である。デモに参加した学生たちは道路のれんがを剥がして遮断壁にし、交通をまひさせた。彼らは武装し、カトリック教会を含め、クーデターを企てる資金力をもった右派勢力と結託している、ということになる。

今は活動が禁止されているニカラグアの人権団体によると、抗議行動が始まって以降、死者は322人にのぼる。このうち22人は警察官で約50人が政権党である左翼のサンディニスタ民族解放戦線のメンバーだったという。しかしデモ参加者たちによると、政府側の死者の多くは味方の誤射、あるいはほとんど石ころやパチンコ玉しか持っていなかった市民に責任を押し付けるための言い掛かりだとしている。

7月に入ると、警察は道路の遮断壁を100カ所以上粉砕した。警察の諜報(ちょうほう)活動はおおかたの予想を超え、抵抗運動内では昨日の友人が今日の潜入者になり、活動家が次々と逮捕されていった。

現在、殺人罪や「テロ」と呼ばれる罪名で刑務所に収容された活動家は、少なくとも565人に上る。このほか、ゴッドマザーのように隣国のコスタリカに隠れている人びとが2万3千人いる。

ゴッドマザーことバルディビアは最初、国内の山間に隠れていた。突然電話がかかってきて、「あなたの逃亡を助けに行く」と言われ、8月に国境を越えた。相手はホルヘ・エストラーダというニカラグアのビジネスマンだった。彼は自分で建てていた住宅団地を政府に没収され、3年前にコスタリカに逃げ出していたのだった。

エストラーダは地下亡命路のようなルートを運営していて、急な脱出を迫られた人たちの世話をしている。これまで約600人を脱出させたという。また、コスタリカにある牧場の家を含め三つの隠れ家の家賃も払っている、と打ち明けた。逃亡者たちは彼を「コマンド」(スペイン語で「遊撃隊、指令」の意)と呼んでいる。

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コスタリカの隠れ家にある間に合わせのシャワー室で水を浴びる逃亡中の男性=2018年12月20日、Meridith Kohut/©2019 The New York Times

「彼ら(逃亡者たち)が捕まったら、どうなるか分かるか?

拷問と死刑だ。そんなことを無視するなんてできない」とエストラーダ。

12月のある日のこと、エストラーダは卵をいっぱい載せた大きな盆を三つ牧場の隠れ家に運び込んだ。逃亡者たちの食費だけで1日約200ドルかかると言った。バルディビアの話だと、毎日20ポンド(約9キログラム)の米と17ポンド(約7・7キログラム)の豆が消費されてゆくという。

逃亡者たちはエストラーダを囲んで、フェイクニュースが蔓延(まんえん)しているフェイスブックやWhatsApp(ワッツアップ)では探せない最新のニュースをせがんでいた。

米大統領ドナルド・トランプは、ニカラグアで法の支配が回復するまで厳しい制裁を科すことを定めたニカラグア投資制限法(Nicaraguan Investment Conditionality Act)に署名したばかりだった。

「もし米国が制限法を実施してニカラグアに圧力をかけても、オルテガが退陣しなければ、かつてのような血なまぐさい内戦が起こるだろう」とエストラーダは言った。

それは、反政府側が銃を持つようになればの話だが、エストラーダは「我々には武器はない。米国の(武器)支援が唯一の頼みだが、まだゴーサインを出してくれない」と嘆いた。

エストラーダと同様、バルディビアもトランプの介入にかすかな期待を寄せている。米共和党のリーダーなら、社会主義者のオルテガからニカラグアを救ってくれる、と。

「彼(トランプ)を信じています」とバルディビア。「私たちが殺されるのを見れば、米国は助けに来るだろう」と言った。

彼女は、国際的な支援が実現しないなら、コスタリカに政治亡命しても意味がないとも話し、「私たちのここにいるほとんどの者は、たとえ石ころしか持っていなくても(ニカラグアに)戻るだろう」と言うのだった。(抄訳)

(Frances Robles)©2019 The New York Times

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