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腰が重い日本企業のアフリカ投資 「常識」にとらわれすぎていないか

アフリカの地図を片手に
8月に横浜で開かれるTICAD7のロゴマークを発表した河野太郎外相(右から2人目)と横浜市の林文子市長(同3人目)=2018年10月、東京都港区、竹下由佳撮影
8月に横浜で開かれるTICAD7のロゴマークを発表した河野太郎外相(右から2人目)と横浜市の林文子市長(同3人目)=2018年10月、東京都港区、竹下由佳撮影

■公約に届かない投資額

2016年の公約時点の日本の対アフリカ投資残高はようやく100億ドルを超えた程度だった。それを思えば、2年ほどの間に160億ドルの投資が実現したことは立派だともいえる。10年前と比べれば、日本の大手企業の経営者たちのアフリカに対する関心は大きく高まり、日本貿易振興機構(JETRO)などが提供するアフリカでのビジネスに関する情報は、質と量の両面で飛躍的に充実した。20代~30代前半くらいの若い日本人の中には、アフリカへ渡って起業する人も現れている。

しかしながら、世界第3位の国内総生産(GDP)を誇る日本の経済規模を考えると、日本の対アフリカ投資はまだ少ないと言える。欧米諸国や中国の対アフリカ投資との対比でいえば、日本の対アフリカ投資額は英米仏の5分の1ほど、中国の3分の1程度に過ぎない。昨年3月まで総合商社のシンクタンクで働いていた筆者の限られた経験を振り返っても、アフリカへの投資を尻込みするメンタリティーが日本の企業エリートの中に根強く残っていることは間違いない。

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2016年にケニア・ナイロビで開かれた日本・アフリカビジネスカンファレンス=飯塚晋一撮影

■「アフリカで何のビジネスが……」

「さっきから話を聞いていると、アフリカでのビジネスが魅力的だと仰っているようですが、金融機関もインフラもないようなところで、何のビジネスができるというんですか?」

4年ほど前、あるビジネスマン向けの講演会で、アフリカにおける日本企業のビジネスの可能性について講師として話したところ、筆者より少し年上と思しき50代前半くらいのベテラン商社マンから、そんな質問(批判?)をいただいたことがある。

1970年生まれの筆者の世代は、大手企業では課長、早い人だと部長に就いている。もう少し上の50代半ば以降だと役員だ。

他者批判ではなく自戒を込めて言うと、今の日本企業で中間管理職(課長、部長など)~役員を務めている我々及び少し上の世代は、子供時代には高度成長の恩恵を受け、若いころはバブルの渦中にあった。それ故に、物質的にも制度的にも全てが用意された状態で力を発揮する経験はそれなりに積んでいるが、敗戦後の日本を焦土から復興させた世代のような「何もない状態から何かを自分で生み出した経験」には乏しい。

我々の世代は「金融機関もインフラもない」アフリカで一からビジネスを立ち上げる際に必要な意志や能力が高いとは言えないのではないか。アフリカ投資における日本企業の「腰の重さ」には、そうした要素も関係しているのではないだろうか。

筆者がそんなことを考えるようになったのは、アフリカにおける携帯電話を使ったモバイルマネーサービスの近年の爆発的な普及を見た時であった。

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ケニア・ナイロビの代理店で携帯電話を使い送金する男性=ロイター

携帯電話を用いたモバイルマネーサービスを利用したい人は、まず、携帯電話を持って代理店へ行く。サービスが最も普及しているケニアの場合、代理店は大都市のショッピングセンターから農村の雑貨屋まで、全国の至る所に存在する。

代理店で簡単な手続きを行うと、携帯電話の中に口座が開設され、専用のアプリをダウンロードする。所要時間は2~3分。一度口座を開設すれば、好きな時に好きなだけの金額を代理店に現金で払うと口座にチャージされ、これを様々な支払いに充てることができる。他人に送金する際は携帯電話のアプリを開き、相手の電話番号、送金金額、自分の口座の暗証番号を入力すれば手続き完了。早ければ10秒程度で終わってしまうこともある。

ケニアでは、このモバイルマネーサービスを巧みに利用した新規ビジネスが続々と誕生している。少額の資金を貸し出すモバイルローン。家庭用太陽光発電システムの販売。モバイルマネーを用いた医療用資金の積み立て。教科書販売やSMSを使った通信教育。様々な物品を配達するオン・デマンド・デリバリー。農産物の産地直送販売。燃料用ガスボンベの配達。農家向けの農作物の保険───など枚挙にいとまがない。

ケニア中央銀行の統計によると、同国の携帯電話普及率は全人口の約92%(2017年)。モバイルマネーサービスの利用者は全人口の約64%(同)で、サービスの代理店数は全土に19万8234軒に達する。モバイルマネーサービスの取引額はケニアの国内総生産のおよそ半分に達するとの推計もある。

■「ないものはつくる」の発想

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大勢の買い物客でごった返すナイジェリアの最大都市ラゴスの市場=2017年11月4日、石原孝撮影

携帯電話もインターネットも普及していなかった28年前、筆者が初めてアフリカのニジェールを訪れた時、出発前に日本からニジェールに連絡を取るには、テレックスを使うしかなかった。そのテレックスも首都ニアメの官庁や企業事務所にあるだけで、首都を一歩出ると、首都の事務所との連絡手段は車に搭載した無線しかなかった。親しく付き合ったニジェール人通訳が冗談交じりに「我が国の全土に電話が普及するにはあと200年かかる」と言っていたが、筆者もそう思った。「こんなところでビジネスなんかできるわけがない」というのは拭い難い実感であった。

また、アフリカの金融に関する長年の定説は「ごく一部の富裕層しか銀行口座を有していない。アフリカでは、人々はローンを組めないし、手元にあるキャッシュでしか支払いができない。そんなところでは消費者向けのビジネスは成立しない」であった。筆者もまた、そうした定説を「常識」として受け止めていた。

だが、通信手段も金融も、現状は先に見た通りである。筆者が電話の普及を「公共事業による固定電話の普及」という固定観念に縛られてイメージしている間に、21世紀の訪れとともに多数の民間企業が携帯の基地局や中継アンテナをアフリカ全土に建設し、積年の劣悪な通信事情は瞬く間に解決してしまった。今やジャングルや砂漠の真ん中でも、携帯電話を持っていないアフリカ人を探す方が難しい時代である。

金融制度の問題も然り。筆者が「銀行」や「信用金庫」のイメージに縛られている間に、大陸中に普及した携帯電話網を基盤にした金融システムが構築され、今はそれを活用した新しいビジネスがしのぎを削っている。
21世紀に入ってからのアフリカにおけるモバイルマネーサービスの発展は、「金融機関もインフラもないようなところではビジネスはできない」のではなく、「金融システムやインフラを一からつくること自体がビジネスチャンスなのだ」という事実を示している。

少子高齢化による国内市場の縮小が避けられない日本は今後、企業が国外で稼ぎ、収益を本国へ還流させていくしかない。日本経済総体がそういう方向に転換していかないと、少子高齢化によってますます深刻化する人口オーナスを克服できないだろう。

2050年には人類の4人に1人がアフリカ人になる。その時、日本企業がアフリカでふさわしいプレゼンスを確保しておくことは、アフリカのためではなく日本のサバイバルのために必要である。