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世界が注目する次世代型システム 鍵は「現代版プライマリ・ケア」

英国のお医者さん

現代医療が抱える課題

これまで様々な課題を紹介してきましたが、今回は、それらを簡単に振り返りつつ、現在、何が求められているのか、実際どういった対策があるのかについてお話しします。

まず、第3回では、世界の多くの国が直面する共通のチャレンジについてお話ししました。こうした様々な変化に対応するため、現在、より柔軟で包括的かつ継続的な保健医療が求められています。健康問題一つひとつに対し、別々に、かつ医学的な視点のみにフォーカスするのではなく、予防・健康づくりを始め、複数の持病に対応することはもちろん、それ以外にも精神的なケアや介護・福祉といったトータルなケアが必要とされています。

これに関しては、比較的多くの人が必要性を感じていることだと思います。一方、これ以降お話しした現代医療の知られざる4つの側面の内容は重大ながらあまり認識されていないため、それらの対策についての議論は十分とは言えない状況です。一つひとつ見ていきましょう。

第4回では、医療にはプラスの面もあれば、マイナスの面もあるというお話をしました。ここで重要となってくるのは、プラス面を最大化し、マイナス面を最小化することです。そのためには、医療を必要とする人に医療を繋げ、医療を必要としない人を医療から守ることを可能にする仕組みと、いつ医療を提供すべきで、いつ提供しないべきか、それを理解し、判断することに長ける医療者の存在が大切になってきます。

第5回では、医療の世界において、サービス利用者は一見自由に受診しているように見えても適切なサポートなしに真に自由な選択はできないというお話をしました。この対策としては、なんでも気軽に相談でき、必要に応じて適切なサービスへと導いてくれる、いわばコンシェルジュのような存在が必要になります。これには、医療全般の専門的知識と高いコミュニケーション能力が求められます。

第6回では、環境によって求められる臨床アプローチは異なり、病院というリスクの高い環境でのやり方を地域(一般集団を診る場)というリスクの低い環境でそのまま行ってしまうことの危険性についてお話ししました。より安全な医療を提供するためには、より正確な診断や地域に内在する医療の不確実性への適切な対応が必要であり、そのためには、病院とは異なる、地域での診察に対して専門的なトレーニングを受けた医療者が必要となります。

第7回では、より健全かつ持続可能な医療を目指す上で、医療費を押し上げている医療のニーズ全体の適正化を図っていくべきとのお話をしました。サービス提供者側が作り出すニーズを最小化しつつ、必要な医療を提供するためには、それを可能にする仕組みはもちろんですが、それと同時に、あくまでも利用者の利益を第一に考え行動する医療者(アドボケイト)の存在が必要となります。また、利用者の不安を緩和し、過度の期待を適正化していくためには、医療者と利用者間での効果的な対話が欠かせません。それを可能とするための十分な時間、エネルギー、スキルを医療者側が持っている必要がありますし、人間・信頼関係がその基盤となります。

実はこれまでに紹介してきた課題の多くは既存のシステムから生じる構造的な問題であって、それらにより良く対応していくには、構造的な変化、つまりシステムそのもののアップデートが必要になります。

「現代版プライマリ・ケア」

こんな多くのことに対応できるシステムなんて本当にあるの?と思う人はいるかもしれません。けれども、実はこれらの対策を盛り込んだ次世代型のシステムがあるのです。そして今、これに世界の関心が集まっています。

これが「現代版プライマリ・ケア」を基盤とした保健医療システムです。

読者の方々の中にはこのプライマリ・ケアという言葉をどこかで聞いたことがあるという人がいらっしゃるかもしれません。でも、実際なんのことなのか、具体的な意味合いについて、ご存知の方は少ないのではないでしょうか。ご存知でも、もしかすると誤解されていることもあるかもしれません。なぜなら、この言葉の意味は、時代とともに進化していて、昔と今では大きく違うからです。

この言葉は今から100年ほど前にイギリスで用いられ始めたと言われています。医療機関の役割分担を、一次、二次と分類する際に用いられ、私の実感では、日本に伝わっているプライマリ・ケアのイメージがこれです。実際、デジタル大辞泉を参照すると「病気の初期診療・第一次医療」となっていますし、広辞苑(第7版)では「患者が最初に接する医療の段階。それが身近に容易に得られ、適切に診断処置され、また、以後の療養の方向について正確な指導が与えられることを重視する概念」となっています。しかし、これらの定義は、現代におけるプライマリ・ケアの本当の意味を正しく表していません。

現代版のプライマリ・ケアには、一般的に次の要素が含まれます。

  • すべての人のあらゆる問題に対応する
  • 本人中心のケアを提供する
  • ケアの継続性を担保する
  • 地域全体を診る
  • 必要なケアを様々な職種・機関と連携し、ケア全体を調整する責任を持つ
  • 適切なアクセスを担保する
  • ケアの安全と高い質を保ち、財政的に持続可能である

だいぶ違いますよね?すべての国でこういったシステムが存在するわけではありませんが、近年、ヨーロッパ始め多くの国々がこれを導入・強化しようと急ピッチで動いています。

なぜなら、私が今までお話してきた課題に対して、この次世代型システムを整備し、それを強化していくことが効果的な解決になりうるということが、これまでの研究によって明らかになってきているからです。

さらには、世界保健機関(WHO)は、現代における保健医療システムの目標を次のように設定しています。

  • 健康水準を改善し、格差を是正する
  • 経済社会的リスクに対する安心・安全を提供する
  • 人間を中心とし、人々のニーズに応える
  • 生産性を向上する

と同時に、現代版のプライマリ・ケアを構築・発展していくことでこれら目標に近づくことができると主張しています。こういったこともあり、プライマリ・ケアに対する国際的関心はどんどん高まっています。

もちろん、保健医療が抱える数々の課題に対してプライマリ・ケアだけが重要というわけではありません。けれども、現代版プライマリ・ケアなくしてより良い保健医療を語ることが難しくなってきていることは事実として知ってほしいと思います。

以上、世界が注目する次世代型システムの基盤となる現代版プライマリ・ケアについてお話ししました。次回では、私のようなプライマリ・ケアを専門に担う医師(家庭医)についてお話しします。