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どれもこれもゴマまみれ シチリアの食卓に根付いたアラブ伝来の風味

イタリアでパンに恋して
「ペルナ」のオーブンでは1回にトレイ15枚分が焼ける。1日に40回オーブンを回し、約650㌔のパンを焼くという
「ペルナ」のオーブンでは1回にトレイ15枚分が焼ける。1日に40回オーブンを回し、約650㌔のパンを焼くという

リマチナート@パレルモ

南北に長いイタリア。日本と同じように地方によって料理の素材や味付けが大きく変わるが、中でもシチリア島には独自の文化がある。アラブやアフリカの文化が伝わり、歴史的にはイタリアが統一される前、約700年にわたってシチリア王国という一つの国をつくっていたのだから、なおさらだ。

初めて降り立ったシチリア・パレルモは、想像していたよりも大きな都市だった。中心部は大聖堂がそびえる古都の趣がある。一方で、マフィアによる爆殺事件の犠牲となった判事の名前を冠したファルコーネ・ボルセリーノ空港から街の中心部に向かう道には、10階建てぐらいのアパートが立ち並び、トラムやバス、自動車が激しく行き交っていた。

目指すパン屋「ペルナ」は、パレルモ中央駅からすぐの旧市街に店を構えていた。20平方㍍ほどの狭い店内の奥に、オーブンと作業場がある。店に入るとあいさつも早々に「早く見に来い」と作業場の中の職人たちから手招きと声がかかる。

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パレルモの旧市街にあるパン屋「ペルナ」=河原田慎一撮影

作業場は、4人の職人がせわしなく立ち回り、数種類のパンを作る作業を同時にこなしていた。パリジーノと呼ばれるフランスのバゲットのようなパンもあったが、一目見て、パレルモのパンの特徴が「何にでもごま付き」であることが分かった。ごまを敷き詰めたバットの上で、成形した生地を転がし、全体にごまをまぶす。パレルモの方言で、ごまはチミーヌというそうだ。とにかく、ほとんどのパンがチミーヌまみれになっている。

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多くのパンにごまがまぶしてある

「売っているパンの90%にごまがついているわね。ごまなしがいい、という人もいるから、ほかのパンも焼いているけど」。店主のペルナ・レティツィアさん(54)がそう説明してくれた。最も代表的で、ごまが全面についた長さ40センチほどのパンを「リマチナート」と言うが、昔はこのリマチナートとごまのついていないパリジーノぐらいしか売られていなかったらしい。今はオリーブやシリアルの入ったパンや、インテグラーレと呼ばれる全粒粉のパンなども作っている。

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パン店「ペルナ」のショーケースに並べられたパン=河原田慎一撮影

焼きたてのリマチナートをかじると、パン生地の外側のぱりっとした歯ごたえと、ごまの香ばしさがやみつきになるおいしさだ。ごまは今はシチリア島でも栽培されているそうだが、元々はアラブから入ってきた食文化。シチリアの人たちは、ごま付きパンの形で自分たちの文化に取り入れた。レティツィアさんいわく、朝はごま付きパンのサンドイッチ、パーネ・クンツァートに。昼にはサラダに添え、夕食でもメインディッシュと一緒に出てくるのは、このごま付きパンだ。

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焼き上がったパーネ・リマチナート=河原田慎一撮影

「パンはシンプルだけど、日本人にとって白米のようなものでしょう?ごまはふりかけをかけたようなものかしら。風味が強くなるし、健康にもいいしね」。おお、日本食をよくご存じですね。だが日本の白米と同じように、このごま付きパンの消費量は減っているという。同店では「ダイエットのため」として、全粒粉のパンや一口でつまめる小さなものも売るようになった。「食生活が変わってきたし、スーパーでも焼きたてのパンを売るようになったからね」。レティツィアさんはそういうが、この街で3代続くパン屋さんは、午前6時半から夕方までオーブンをフル稼働させ、ごまの香ばしい香りを求めてやってくるパレルモの人々のおなかを満たしている。

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ごまを敷き詰めたバットの上で転がしたパーネ・リマチナートの生地を、丁寧に並べていく

パーネ・リマチナートの作り方

(シチリア・パレルモ店「ペルナ」のレシピ)

【材料】

小麦粉 20キロ

「パスタ・フレスカ」と呼ばれる水っぽいパン生地。小麦粉と水を混ぜ合わせたもの 10キロ

塩 400グラム

砂糖 200グラム

酵母 500グラム

【作り方】

①生地をこね、30~40センチの棒状に丸める。

②ごまを敷き詰めたバットの上で転がしてまんべんなくごまをまぶした後、寝かせてから約230度のオーブンで焼く。

③小さなパンの場合は、ふっくらと仕上げるために、ラード(豚の脂)を加えることもある。