黄色い看板が目を引く「ミー・ラザリ」は1967年の創業。入り口に扉がなく、大衆食堂といった雰囲気だ。店頭の調理場では、直径1メートルほどの中華鍋の中で、赤色のスープがふつふつと泡を立てている。「辛いけれど大丈夫?」。不安げな顔を見透かされたのか、店長のムルヤ(37)に声をかけられた。
インドネシアでは、西に行くほど料理の辛さが増すとされる。スマトラ島の最西端、マラッカ海峡に面するアチェでは、インドや中東などの影響を受け、香辛料も多用するという。辛さを抑えることもできるそうだが、せっかくなら本場の味を試したい。一押しのカニ入り麺(4万ルピア=約300円)をお願いした。
「カニは最後」が流儀
注文後、クーラーボックスから出てきたカニはまだ動いていた。毎朝、捕れたてを仕入れるという。
両手のひらほどの大きさのカニを2匹、ぶつ切りにして鍋に放り込む。生のトマトにチリペースト、鶏がらスープを入れ、野菜と牛肉を加えて煮込む。途中、様々な調味料を少しずつ足していく。「伝統の味を守るために、慎重に作るんだ」
味の決め手はチリペースト。数種の唐辛子にクミン、コショウ、ナッツなどを入れるが、配合や具材は秘密という。最後にたまご入りの自家製麺を絡めて完成する。
出来たてが運ばれてきた。「カニは最後に」という常連客の流儀にのっとり、まずはスープを一口。耳の奥まで響くような刺激的な味で、額に汗がにじむ。確かに辛い。でもそれ以上に、カニや香辛料のうまみとコクが口の中に充満する。
続いて麺。太めでスープをよく吸い込んでいるが、もっちりとしてコシもある。お待ちかねのカニは専用の器具で殻を割ると、中から身がつるんと出てくる。ふっくらとして、口に含むと甘みがじわりと広がる。
滞在中、何度も食べたい衝動に駆られたが、時間がとれなかった。帰国間際に、スーパーでペースト状の「ミー・アチェの素」を発見。迷わず購入した。