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中国からの厄介な「輸入品」 ヘロインより強力な合成麻薬が米国を汚染する

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米シカゴ空港の税関で公開された、フェンタニル入りの袋(2017年11月)=ロイター
米シカゴ空港の税関で公開された、フェンタニル入りの袋(2017年11月)=ロイター

【前の記事を読む】 死者年7万人、米国で広がる世界最悪の薬物汚染の現場を歩いた

■トランプ氏支持層と重なる汚染地域

米ニューヨーク・タイムズ紙が先月、米疾病対策局(CDC)の発表として報じた内容によると、17年の米国の薬物の過剰摂取による死者は約7万人で、交通事故の死者のピークより高い。そのうち、フェンタニルによる死者は約2万8000人で、13年の3000人から急増している。

フェンタニルとは合成オピオイドの一種で、モルヒネの50~100倍強力とされる。米麻薬取締局(DEA)の16年の調査によると、全米50州のうちフェンタニルの欧州件数が3800件と最悪だったのは、製造業の衰退で苦境にあえぐ「ラストベルト」の一角をなすオハイオ州だった。

このフェンタニルの主な供給源とされるのが、中国だ。

12月1日、世界が注目した、トランプ米大統領と習近平国家主席との首脳会談。会談後にホワイトハウスが出した声明文では、最大の焦点だった貿易交渉の結果よりも先に、中国によるフェンタニルの規制強化が書かれていた。

トランプ氏は数日後、「中国が密売人に死刑を使ってこの『恐ろしい薬物』を取り締まれば、結果は素晴らしいものになる!」として、死刑を助長するかのようなツイートで「成果」を強調している。フェンタニルなど合成オピオイドの蔓延は、トランプ氏の支持者が多いラストベルトを悩ませている問題だけに、ホワイトハウスのホームページの一番上に「オピオイド問題」のコーナーを設けているほどの熱の入れようだ。

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米シカゴ空港で、プラスチックボトルから錠剤を取り出して検査する税関職員(2017年11月)=ロイター

中国は、米国に次ぐ世界第2の製薬産業を抱える。なかでも、低価格のジェネリック医薬品や薬の原材料の生産に頼っており、規制も緩い。

DEAによると、中国の業者がフェンタニルなどを大量生産し、数年間で数十万もの偽装薬物を普通郵便で米国に送り込んでいるという。詳細な量は把握されていないが、中国からメキシコやカナダに渡り、米国に持ち込まれるものもあるという。暗号化されたメッセージアプリやビットコインなど仮想通貨の普及も、こうした取引の温床となっているとされる。

中国からのフェンタニルの流入は、オバマ政権時代から問題視されてきた。中国は15年、フェンタニル関連を含む100種類以上の合成化学物質を規制対象リストに加えているが、わずかに構造を変えただけで規制から外れるため、「いたちごっこ」になっている。

■先進国なのに平均寿命が縮む

米疾病対策センター(CDC)が18年11月に公開した報告書によると、17年の米国民の平均寿命は78.6歳で、3年連続で下がった。この主因となったのが、薬物の過剰摂取と自殺の急増だ。先進国でつくる経済協力開発機構(OECD)の中では、1位が日本(84.1歳)、2位がスイス(83.7歳)で、米国は29位。スロベニアやコスタリカよりも低い。

そもそも、医療や製薬の先進地の米国で平均寿命が下がり続けているのは、「先進国としては驚くべき」(米ウォールストリート・ジャーナル紙)状況だ。CDCのロバート・レッドフィールド局長は声明で「この冷徹な統計は、あまりに多くの若い米国人を失っているという警鐘だ」と訴えた。

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米大統領経済諮問委員会(CEA)は、オピオイドの蔓延による経済損失は2015年で5040億ドル(約57兆円)、国内総生産(GDP)の2.8%にまでのぼると試算。日本の国家予算の半分以上にのぼる金額だ。

なかでも、製造業が衰退した中西部やアパラチア山脈周辺のラストベルトで死者数が多い。人口10万人あたりの死者数は、最も多いウェストバージニア州が2010年の28.9人から16年には52人に増加。2位のオハイオ州は、16.1人から39.1人と2倍以上に増えている。

こうした地域では、経済的にも他の地域より苦しい状況にある。景気回復が続く米国でも、オハイオ州の失業率は4.6%で、全米で7番目に悪い。オピオイドの100人当たりの処方率を分布したCDCの地図では、処方率の高い地域が、ウェストバージニアやケンタッキーなど、所得が低い州に集中している。

一方で、娯楽用大麻を合法化した10州を地図に落とすと、カリフォルニア、ワシントン、オレゴン、コロラドなど、比較的所得が高いリベラルな地域が多い。薬物を取り巻く環境を見ても、深刻な格差が横たわる。

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