■日本の古着、質のよさが評判
バンコクの「シンジュク・アウトレット」は、日本の古着を中心に扱っているチェーンです。「ビンテージ」のようなマニア向けではなく、「安いけど質は良い」という、実用的な古着を主に売っています。店舗によりますが、1キロ300バーツ(約1020円)といった具合に、キロ単位で販売するスタイルも評判になりました。5年前に開業し、いまではバンコク首都圏に30店を展開する、タイで最大手の古着チェーンに成長しました。
ある店舗は、天井から和紙を使った照明だけでなく、たこ焼きやかき氷ののれんまでつり下げて、日本を演出していました。フロアにはハンガーに掛けられた男女の古着がびっしり、整然と並んでいました。
何げなく男性用のポロシャツを物色していると、日本の回転すしチェーンの名が入った制服らしいものや、自治体のキャンペーンで作ったのか「あついぞ!熊谷」とプリントされたものなども見つかりました。漢字が入ったものは、それなりに人気だそうです。
創業者はトリロン・カイスラポン(40)さん。米国の大学で国際ビジネスを学んだそうです。タイに戻った後は別の事業をしていて、ファッション業界とは無縁でしたが、「古着はマージンが大きい」と目をつけ起業しました。
古着は圧縮されたベールと呼ばれる梱包で取引され、中に何が入っているのか分からない状態で仕入れるのが普通です。日本の他、米国からも仕入れていますが、「日本の古着はサイズがちょうど良いのと、きれいに着られているのが良い」と言います。ただ、ベールには一定の割合で店に置けないボロ同然のものも入っているそうです。
■古着の中から札束が
カイスラポンさんの案内で、倉庫にもお邪魔しました。蒸し暑い倉庫で、古着を一枚一枚、仕分けするのはたいへんな作業です。日本と同様、タイも労働力不足ですが、働いているのは主にタイ語が話せるカンボジア人です。
仕分け作業では思わぬ「ボーナス」が入る時があるそうです。カンボジア出身の従業員レイさん(30)は昨年、たたんであった和服の中から、50万円の入った封筒を見つけたそうです。カイスラポンさんが聞いただけでも、これまで帯封のついた100万円の札束が4回見つかったそうです。
「シンジュク・アウトレット」のターゲットは主に中低所得層ですが、ファッションに敏感な人たちにも注目されています。ある店舗は、芸能事務所などが多くある地域にあり、モデルやスタイリストがよく買い物に来るそうです。このお店に来ていた女性に声をかけると、職業はデザイナーとのこと。「店ができてから3年間、ほぼ毎日来ています。ここにしかないユニークなものがあるから。中毒ですね」と、笑って話してくれました。
国連の2017年の貿易統計によると、日本から世界に約24万トン(8500万ドル)の古着が輸出されています。行き先はマレーシアが最も多く、韓国、他の東南アジア諸国などが続きます。千葉市で古着の貿易会社「ジェーアンドジェートレーディング」を営む鳥澤隆明さん(66)も世界の業者と取引しています。「マレーシアは日本から輸入した古着を国内でも販売しますが、仕分けをして別の国にまた輸出しています。タイは国内で販売するのが主です」
■日本のリサイクル店も進出
タイには、日本のリサイクル店も続々と進出しています。兵庫県姫路市に本社を置くエコリングは、2013年にいち早く進出しました。中心部の高級ショッピングエリア近くにある1号店を訪ねると、古着だけでなく、ブランド品やアクセサリー、引き出物のような箱入りの食器、古い家の応接間にあるような置物など、あらゆるものが売られています。
いかにも「おじさん」っぽい中古の革靴は、値札を見ると850バーツ(約2900円)と、かなりの価格。「日本のものは質が良いという感覚がありますね」と支社長の川端宏さん(39)。ただ、「定価で売れる品は少ないです」とも。タイではどの店でも特別セールをよく行い、川端さんの店でも、日によって特定の種類の商品を半額にするなど、値引きセールをしているとのこと。それでも1カ月ほど売れなかったものは店頭から引き上げます。「いつ来ても同じ商品が置いてあると面白くないので、できるだけ新鮮な状態にしています」
エコリングは今年から海外の店舗で「トレーサビリティー」というサービスを始めました。中古品を購入した客の写真とコメントを、日本でそれを売った人にスマホのアプリで送るというものです。自分が手放したモノが次の持ち主を見つけたという「安心感」を提供するサービスとも言えそうです。