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ボロ布の山からこんなお宝が…パキスタン人業者が集めた垂涎のビンテージコレクション

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ビンテージ服の収集家として知られるサリーム・ガンチ氏=バンコク、浅倉拓也撮影
ビンテージ服の収集家として知られるサリーム・ガンチ氏=バンコク、浅倉拓也撮影

「これは1927年のリーバイス、こっちは1910年代」。巨大な倉庫の2階にある事務所で、キャビネットから無造作に取り出して、事務机の上に放り投げた。尾錠のついた90年前のジーンズはデッドストック(死蔵品)。パリッとしていて、まるで最近作られたレプリカのようだ。300万円ほどの価値があるという。 

ジーンズをはじめとするビンテージの古着は日本でも根強い人気があるが、サリーム・ガンチ(44)のコレクションは世界一とも言われ、その価値は数十億円とも言われている。「私が世界一のコレクターだとは思っていない」。ガンチはこう謙遜してみせたつつ、「確かに、すごく大きなコレクションだ。本当に質の良いものだけで5、6000点はある」と誇った。 

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希少なデッドストックのジーンズと、デニムのワークジャケット=浅倉拓也撮影

デニムウェアの他にも、知る人ぞ知るのは「スカジャン」のコレクションだ。第2次世界大戦後に日本に駐留した米兵がお土産に作った、派手な刺繍入りのジャンパーだが、ガンチは500点以上集めている。 

その服の背景にある歴史や物語もビンテージの魅力だ。ガンチが羽織ってみせたデニムのタキシードは1950年代のリーバイス製。「ホワイト・クリスマス」で有名な歌手のビング・クロスビーが、ジーンズ姿でホテルに入店してとがめられたことから、リーバイス社が特別に作ったという逸話がある。 

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事務所で希少なデニムのタキシードを羽織ってみせるサリーム・ガンチ=バンコク、浅倉拓也撮影

気に入ったビンテージの服なら何百万円でも惜しまないというガンチが、古着と関わるようになったのは15歳の頃。母国パキスタンのカラチで、1972年から古着のリサイクル業を営んでいた父親を手伝っていたという。 

欧米では昔から教会や慈善団体などが古着を集めて販売し、その収益を活動資金にあてることが一般的だが、集められた古着の多くは海外へと輸出されている。その過程で古着は品質や種類によって仕分けられるが、これは一つひとつ手作業でやるほかない。このため、仕分け作業はいまでも欧米や日本で行われているものの、近年は人件費が安い途上国ですることが多くなっている。パキスタンもそうした世界的な古着の集積地だ。 

世界中のマニアたちが欲しがるビンテージの多くも、もとは米国などで持ち主が処分した古着の山から「発掘」されたものだ。ガンチは10代から古着の山をかきわけているうちに、珍しい欧米の古い服に興味を持ち、それが大きな利益を生むことを知って、ますます好きになった。「当時はベール(古着を詰めて圧縮した梱包)3、4個の中身が全部ビンテージだったということもあり、1万ドル以上の利益になることもあったんだ」とふり返る。 

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バンコクにあるサリーム・ガンチの古着の倉庫=浅倉拓也撮影

ガンチは1998年から拠点をバンコクに移し、ビンテージを中心とした古着の卸売問屋「G RAGS 72」を営んでいる。バンコクは交通アクセスが良いので世界中のバイヤーが集まるからだ。月の売り上げは約2000万ドル(約22億6000万円)。最大の取引先は日本で約35%、継いで韓国20%、その他はタイ、中国、台湾、ベトナム、欧米やオーストラリアなどだという。取材で訪れた日も、タイ国内の他、日本、韓国、台湾から古着店のバイヤーが来ていた。 

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サリーム・ガンチの倉庫にある古着。タイ国内や先進国で良い値で売れるものが山のように積まれている=バンコク、浅倉拓也撮影

日本では1990年代に、バブル経済と「アメカジ」人気が奇妙に相まって、ビンテージのジーンズやスウェットシャツが買いあさられ、価格が高騰したことがあった。その後、日本でブームは下火になったが、経済成長したタイではビンテージ人気がいまも続いているという。「おそらくタイ人は日本人以上にビンテージにカネを出すだろうね。有名人がビンテージを着て、はやったんだ」とガンチ。マレーシアやベトナムでも米国製のビンテージは人気になりつつある一方、中国では1960~80年代の米国製のミリタリーウェアの需要が高いという。 

ガンチの弟たちはいまもパキスタンで古着業を営んでおり、古着を見極める「ピッカー」と呼ばれる職人は200人以上いるという。ガンチが扱うビンテージは米国のテキサスなどからも仕入れているが、ほとんどはパキスタンからだ。「テキサスでも仕分けはしているが、人件費が高く少ない人数でやるのでビンテージを見落とすことも多い。パキスタンは人件費が安く、大勢でやっているから見落とす可能性がより低い」 

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サリーム・ガンチが収集している私物のビンテージ古着=バンコク、浅倉拓也撮影

ただ、東南アジアなどでも高額なビンテージが売れるようになった上、玉石混交の古着の山から良い品を見つけられる確率は、きわめて低くなっているという。インターネットの発達などでビンテージの価値が広く知られるようになり、貴重な品が誰の目にもとまらずにパキスタンまで来ることはめったにないからだ。「20年前は(ベールを600個詰んだ)コンテナ1本につきベール1個分(約50キロ)くらいの割合で見つかった。いまはコンテナ100本で1個分あるかどうかだ」。ガンチのコレクションは、時が経つにつれ、ますます輝きを増していきそうだ。(敬称略)

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