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米中貿易戦争、とばっちりはペットにまで

ニューヨークタイムズ 世界の話題
上海でゴールデンレトリバーの愛犬ダダにエサをあげるオリビア・レン=2018年9月15日、Yuyang Liu/©2018 The New York Times。米中貿易戦争の影響で、米国製ペットフードの価格が高騰し、飼い主たちは困っている
上海でゴールデンレトリバーの愛犬ダダにエサをあげるオリビア・レン=2018年9月15日、Yuyang Liu/©2018 The New York Times。米中貿易戦争の影響で、米国製ペットフードの価格が高騰し、飼い主たちは困っている

オリビア・レンは、まさか米国と中国との貿易戦争の影響がダダにまで及ぶとは思ってもみなかった。

ゴールデンレトリバーのダダは、レンの愛犬だ。上海で、彼女はダダに最高のモノを食べてもらおうと、米国製の輸入ドッグフード「Canidae=キャネディ」にたっぷりおカネをつぎ込んでいる。それは変な臭いがしないか、有害ではないかと、彼女自身がペットフードを口にして確かめる。中国製だと、その可能性があると思っているからだ。

キャネディなど米国製のペットフードは今、数千億ドルが絡む米中間の貿易戦争のとばっちりを被っている。ペットフード産業の専門家によると、中国当局は今年の5月以降、報復として税関で船積みを遅らせてきた。7月には新たな関税をかけて、輸入ペットフードの値段はさらに高くなった。
レンは買いだめしておこうと、6月にダダとボーイフレンドの愛犬フレンチブルドッグのホウホウのためにキャネディを200ポンド(90キロ余り)購入した。

「キャネディが買えなくなるのを心配する夢で目が覚めてしまう」とレンは言う。

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輸入ペットフードを売る上海のペット店=2018年9月15日、Yuyang Liu/©2018 The New York Times

レンだけではない。広州市に住むオースティン・チェンは、米国製のキャットフードが次の標的になるのを見越して、愛猫のトラネコ、フェラのために買いだめをしている。

「この貿易戦争が自分の暮らしや飼い猫に深くかかわってくるなんて、初めてわかった」とチェンは言う。

チェンのような好みにうるさいペットオーナーは中国ではごく少数だが、彼らの心痛ぶりは、貿易戦争が進展するにつれて緊張が高まることをうかがわせる。中国が導入した報復関税で米国から輸入する大豆や肉の値段がはね上がったが、中国は食糧需要の多くを輸入に頼っている。貿易戦争が長期化して輸入品の価格がさらに上がれば、中国は態度をいっそう硬化させる可能性がある。だが、それは米国から譲歩を得るよう中国政府に圧力をかけることにもなろう。いずれにしても、中国の指導部はリスクを負うことになる。

ペットフード自体が貿易戦争の標的ではなさそうだが、中国当局が米大統領トランプに対抗したいのなら、いかに創造性を発揮すべきかを示唆している。

中国では、ペットが大きなビジネスになっている。不動産価格などが高騰しており、都市住民が家族を持つにはあまりにもカネがかかりすぎる。このため、多くの人が、かわりに動物を飼うことを選択しているのだ。

北京の仲介会社「中国証券」によると、中国で愛玩動物(ペット)に使われるカネは2010年以来8倍以上に増え、年間総額で約250億ドル。ペットは主に猫と犬だ。マーケットは今も膨れ上がり続けている。中国の人口は米国の4倍だが、ペットの数はほぼ半分だ。犬が5100万匹で、猫は4100万匹を数える。

しかし、多くの人たちは中国製のペットフードを信用していない。乳幼児用のミルクや子ども用のワクチンさえ品質に問題がある国だから、ペットの飼い主たちはしばしば外国からの輸入製品の方が安全だとみている。

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上海のペット店=2018年9月15日、Yuyang Liu/©2018 The New York Times。ペットを飼う人が増えている。中国のペット数は、全土で犬が5100万匹、猫は4100万匹

そのペットフードの生産地がどこであるかにかかわらず、レンのように、まずそれを自分で味見してみる飼い主もいる。腐った魚肉や鶏肉など不快な臭いや味がすれば、ペットには食べさせない。

「ドッグフードは、新鮮でなければ、古い料理用オイルの味がする」ルアン・チュンハオは言っていた。上海でミクシュウという名のゴールデンレトリバーを飼っている。

中国の問題のあるペットフードに関し、専門家による査読論文で一般に公開されているものはない。しかし、中国の消費者はさまざまな国産品に対して懸念を抱いている。とりわけ、汚染された乳幼児用粉ミルクで子ども6人が死亡し、30万人近くに健康被害が出た10年ほど前の事件や、今年の夏、100万人分近い子ども用ワクチンに欠陥が見つかったことなどが懸念の背景にある。

「国産のペットフードは有毒だ」とエレイン・スン。上海に近い都市の無錫でプードルを飼っているスンは「いくら良い製品だと言われても、私は絶対に信用しない」と言う。

中国農業大学の愛玩動物栄養の専門家で、動物飼料の基準に関する政府系委員会のメンバーであるティン・リーミンは、国産品も輸入品も、栄養価や品質にさほどの違いはないと話している。

これまでにも、中国の対外貿易政策はペットフードに影響を及ぼしてきた。中国政府は牛肉や鶏肉を使ったペットフードの大量輸入を禁止してきた。牛海綿状脳症(BSE)や鳥インフルエンザの恐れがあるというのが禁止の理由だが、2年前、オンラインでの販売に限って輸入規制を緩和した。こうした政策も一因となり、昨年の中国製ペットフードの対米輸出は1億4800万ドルだったが、米国製の輸入は650万ドルにとどまった。

中国の業界幹部は、貿易戦争のせいで米国製ペットフードの輸入規制が5月以降厳しくなっていると言う。中国でのペットフードのネット販売サイトEPetによると、9月半ば時点で、輸入の統制が強化され、税関検査の回数が増えている。

米国製ペットフードの上海の輸入代理業者ロイ・チョンの話だと、彼が輸入した品は過去2カ月の間に少なくとも6回の検査を受けさせられた。貿易戦争以前は、検査が平均で月1回以下だったという。

「私はただのペットフード屋だけど、政治に関心を持つようになり、貿易戦争のニュースを毎日追っている」。そうチョンは話していた。(抄訳)

(Ailin Tang 、Keith Bradsher)©2018 The New York Times

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