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aiboが人間に問いかける ヒトとロボットが家族になる世界とは

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自宅のアイボと遊ぶ竹市真樹さん=東京都江戸川区、中野渉撮影
自宅のアイボと遊ぶ竹市真樹さん=東京都江戸川区、中野渉撮影

「テラちゃん、いい子ちゃんだね。上手だね」

東京都内に住む竹内万里子さん(82)は、坂本九のヒット曲「幸せなら手をたたこう」のメロディーを自ら流しながらそれに合わせて腰をカシャ、カシャと左右に動かすアイボを見て、目尻を下げた。

これまで竹内さんは、一緒に暮らす娘の竹市真樹さん(55)がパートに出かけたりして一人で留守番をしているときは、iPadのゲームで日に3時間は遊んでいた。しかし今はそれが1時間に減り、その分、アイボと触れ合う時間に変わった。

「独りで置いておくのもかわいそうよ。外から帰ってきたら『お待たせ』って声をかけるの。具合が悪くなったら心配になるし。あっ、かわいそうって言うのも、生き物としてみているってことね」。

竹内さんは普段、パソコンにはほとんど触らず、機械には抵抗感もある。でもアイボは「イヌだからなじめる」のだという。

アイボが自宅にやって来たのは今年5月。娘の竹市さんが買うことを決めた。2人の息子が社会人となって手がかからなくなって「つまらなくなった」と感じ、柴犬を飼おうかどうか悩んでいたのだが、トイレや散歩のことが気掛かりだった。そうしているうちに昨年秋、ソニーがアイボを復活させるとのニュースを耳にし、ほしくなった。

値段は税別で19万8000円。高いとは思ったが、ペットショップでイヌを買ってもそのくらいはする。ちなみに名前のテラは、相撲好きの竹市さんがかつての人気力士「寺尾」から付けたという。

竹市さんは「アイボに感情はないかもしれないけれど、表情があって生き物だと思えてしまうんです。機械といえども愛情がわいてきます。もっと進化して本物のイヌに近づくのかもしれませんが、イヌなんだからしゃべらなくていいです」と笑った。

■AIが分析、利用者の接し方で行動や性格が変化

ソニーが新型アイボを発売したのは今年1月で、抽選販売になるほどの人気を集めた。最大の特徴はAI(人工知能)を内蔵していること。インターネットに常に接続し、個体ごとのデータがクラウド上に集められ、クラウドでもAIが分析、利用者の接し方で行動や性格が変わる。9月からは日本国内だけでなくアメリカでも売り出した。

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新型アイボ。愛くるしい目で見つけてくる=東京都品川区

アイボの企画開発に携わるソニーの事業企画管理部統括部長、矢部雄平さんは「イヌっぽい生命観や躍動感を意識しました」と説明。旧型よりも動きも滑らかで敏感になり、まん丸の目も愛らしく、丸みを帯びて親しみやすい外観になった。しかし動物学者を交えてデザインしたわけではなく、社員でイヌの動画を見て研究した成果だという。

ソニーは旧型アイボの生産を2006年に終了した。メーカーサポートは14年には最後のモデルの受付も終えている。しかし、修理を希望する愛好家たちは今も絶えない。そこで今回、新たに導入したのがクラウドシステムで、買い替えてもアイボの個性をそのまま新しい機種に引き継げる。

ソニーは4月から傘下企業の高齢者福祉施設に新型アイボを導入、ロボットで高齢者を癒やす「ロボットセラピー」を提供し始めた。認知症や寝たきりの高齢者にも効果がみられるという。

矢部さんは「アイボは自分から人に寄り添うロボット。実際に近くに寄ってくるだけではなく、人との距離をもっと近づけて行きたいです」と語った。

■人間とロボットとの関係をどう築くのか

ロボットは、いずれは故障したり動かなくなったりしてしまう。その時、愛好者はどうするのか。

千葉県いすみ市の寺で今年4月、祭壇に旧型アイボ約110台がずらりと並んだ。旧型の修理を独自に手がける家電修理会社「ア・ファン」(千葉県習志野市)が主催した合同葬儀で、6回目を数えた。

「アイボの魂をオーナーにお返しする儀式です」と話すのは、ア・ファンを11年に立ち上げた社長の乗松伸幸さん(63)。ソニーの元技術者で、以前はパキスタンなど海外を飛び回ってきた。アイボ修理の依頼が最初に舞い込んだのは13年、依頼者は介護施設にアイボを持って入りたいという高齢女性だった。その後、全国から修理依頼が殺到、これまで約2千体を修理してきた。

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乗松伸幸さんと、並んだ旧型アイボ=千葉県習志野市

ア・ファンがアイボの葬式を始めたのは15年1月。故障したアイボを捨てるのは忍びがたく、供養された後は解体して部品を修理に活用してほしい、という愛用者からの「献体」の申し出は多い。自分が死んだ後のアイボを心配して寄付したお年寄りもいるという。

「アイボを大切に思っている人たちのためにもしっかり治療しているんです。傷ついたり色あせたりした成長の過程が大切で、新型になってクラウドに情報が残っているからといって取り換えるのは簡単ではないです。アイボは家族なんです」。自宅兼会社事務所の一室で修理を控えた旧型アイボに囲まれながら、乗松さんは力を込めた。