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AIは「第4次産業革命」 人工知能開発の先頭を走るのはどの国か

World Now
シンガポール科学技術研究庁が開発する自動運転車 photo: Sako Masanori

自動運転タクシーが公道を走る 技術のショーケース、シンガポール

東南アジアの都市国家シンガポール。最新の技術をいち早く採り入れてきた「実験国家」は、AIでもその立ち位置を維持している。
たとえば、グーグルや大手自動車メーカーが開発にしのぎを削る自動運転。シンガポールでは昨年8月、他国に先駆けて「自動運転タクシー」6台が客を乗せて公道を走り始めた。運営するのは米国のベンチャー「ヌートノミー」。社長のカール・イアグネマは「自動運転技術を発展させるには、地元政府の協力が必要だ。シンガポールは国家の成長に必要な技術と考え、ルールづくりなどで助けてくれた」と進出の理由を語る。

シンガポール政府は、都心から西へ5キロほど離れた公道12キロを自動運転車の走行可能な地域に設定。ヌートノミーは東南アジアで人気のタクシー配車アプリと提携し、客がスマートフォンで自動運転車を呼ぶ実験に取り組む。
首相のリー・シェンロンは2014年、国を挙げて最先端のデジタル技術を駆使する「スマート国家構想」を発表した。科学技術研究庁で自動運転の開発を担当するハン・ブンシュは「近い将来、少子高齢化でバスやタクシーの運転手が足りなくなる」と意義を強調する。
ただ、新技術の導入にはリスクも伴う。ヌートノミーの自動運転車も昨年10月、けが人は出なかったものの接触事故を起こした。社長のイアグネマは「自動運転が普及すれば、交通事故の死者を導入前の100分の1に減らせるだろう。ただ、人間の運転による数万人の死を数百人に減らせたとしても、機械の運転で人が死ぬことを社会が受け入れられるかどうかだ」と話す。
自動運転だけではない。政府の積極姿勢に促され、さまざまな実験が進む。
富士通はシンガポール経営大、科学技術研究庁と連携し、AIのアドバイスで人の行動を変え、混雑を緩和するアプリを開発中だ。たとえば大きなイベントの終了後、参加者のスマートフォンに「おすすめの行動」を送る。交通機関の混み具合や、各参加者の好みをAIが個別に分析し、「1時間ほどハンバーガー店に寄ってからバスに乗れば座って帰れますよ」などと助言する。「全員に同じ助言をすれば混雑が増すだけ。人工知能なら個別に最適なマッチングを提案できる」と、シンガポール経営大教授のラウ・フーンチュインは期待する。
 NECは、地下鉄駅の監視カメラで撮影された1日23万人分の顔画像をAIで分析し、同じ人物が1カ所をうろつくなど不審な行動を感知できるシステムを開発した。監視カメラの映像のように、日本では活用しにくいデータも活用できるのも研究拠点としてのシンガポールの魅力だ。科学技術研究庁で企業との連携を担当するヘイゼル・クーによれば、政府は13年に個人情報保護法をつくり、データの匿名化を義務づけるなど「プライバシー保護にも力を入れている」という。「スマート国家構想を進めるために、ビッグデータを解析できるAIの技術開発は不可欠です」(左古将規)

日本は「ものづくり」の強み生かして勝負

プリファード・ネットワークスのAIを搭載したロボットアーム photo: Semba Satoru

AI開発について、日本では、文部科学、経済産業、総務の3省がそれぞれプロジェクトを立ち上げた。文科省は基盤技術、経産省は応用研究、総務省はバイオ・脳科学との連携と、注力する分野を分担する。活路のひとつとみられているのが、得意分野である「ものづくり」との融合だ。

経産省プロジェクトの中核、産業技術総合研究所の企画チーム長を兼務する東京大特任准教授の松尾豊は、AIベンチャーと大手メーカーとのタイアップ戦略を描く。キーワードは「学習工場」。ベンチャー側は頭脳を、メーカー側は資金を提供し、工場の生産ラインや製品に最新AI技術を注ぎ込み、新しい付加価値を生み出そうというのだ。

深層学習の有力ベンチャー、プリファード・ネットワークスは、トヨタ自動車やファナックという異分野のものづくり大手との資本・業務提携を通じて、産業用ロボットの故障診断や自動運転への技術応用に取り組む。

深層学習の成否はデータ量の大きさがかぎを握る。工場は、実はデータの宝庫。人が作り出す自然言語のデータと異なり、分析や予測の障害になる「雑音」が少ないという利点もある。

長く続いた「冬の時代」

AIを搭載したドローン photo: Semba Satoru

AIブームにわく日本だが、ブーム直前まで欧米以上に長い「冬の時代」が続いていた。「専攻はなに?と聞かれて『人工知能』というのもはばかられた」と若手研究者は振り返る。

最大の課題は人材不足だ。原因は、前回のブームが盛り上がりすぎたことにある。通商産業省(現・経産省)の主導で1980年代初頭に始まった10年がかりの国家プロジェクト「第5世代コンピューター」が、目立った成果も示せずに終了したとき、期待のバブルははじけ飛んだ。

「主要な国際学会で論文発表する日本人研究者は世界全体の23%」。41歳の若さで文科省プロジェクトのリーダーに起用され、理化学研究所の革新知能統合研究センターを率いる東京大教授の杉山将は、率直だ。「資金も人材も規模ではシリコンバレーに太刀打ちできない。まずはテーマを絞り、少数精鋭でやっていく。海外からも優秀な人材を呼び込み、活発な議論ができる環境をつくりたい」

トヨタがシリコンバレーにAI研究所をつくったように、ものづくりの現場でも日本の人材不足は否めない。技術者の争奪戦となったいま、国際的な競争力のある人件費は「1人につき1億円」だと松尾は言う。「人材確保と育成に日本メーカーはもっと力を入れるべきです」

アメリカは本格応用のフェーズに

フェローロボッツ社の1台2役ロボット photo: Tanaka Ikuya

開発から本格応用へ。米国では新たなAI技術の開発だけでなく、すでにある技術を活用するための土台づくりやビジネスが広がっている。

グーグルやマイクロソフトなどのIT大手は、この12年の間に社内向けのAIプログラムを一般公開し、誰でも自由に使えるようにした。利用者のすそ野を広げ、プログラムの改良や、新しい活用分野を発掘するのが狙いだ。

グーグルのジェフ・ディーンは「公開することで、社内では思いもつかないアイデアが出てくる。それが刺激となって、新しい技術開発へとつながる」と話す。

スタートアップ企業もデータの活用手法の開発に工夫をこらす。ボストンにあるデータロボット社は、予測や分析に使う既存のAIプログラムを自動で競わせ、最適なAIを選び出すソフトをつくった。利用者はデータをソフトに投入し、何を分析したいかを選ぶだけでいい。画面には各プログラムの分析結果が次々に表示され、成績のよい順番に並んでいく。AI自動コンテストといったふうだ。「どんな分野にも使えます。顧客は金融、保険分野が多く、次が医療関係」とCEOのジェレミー・アシンはいう。

キーワードは「データの民主化」

大規模小売店向けに、接客と在庫管理の12役ロボットをつくったのは、フェローロボッツ社。探している商品がどこにあるか、客に聞かれると陳列棚まで案内する。接客がないときは、自ら店内を周回し、商品の在庫をチェックする。CEOのマルコ・マスコロは「人間だと、大型店なら全商品の在庫確認に12週間かかるが、これは数時間でこなします」

日本のリクルートがシリコンバレーに設けたAI研究所の所長、アロン・ハレビは、グーグルリサーチでデータ構造化の研究責任者を務めてきた。

「グーグルに集まるデータは人々の関心のありかを示し、リクルートのそれは人々の行動に結びついている。一言でデータというが、データごとに特徴はかなり異なっている」

そう語るハレビが掲げるキーワードは「データの民主化」。どこに、どんなデータがあるかが、すぐにわかるか。そのまま使える形に整理されているか。情報管理は万全か。ハレビは、「AIはデータが活用できてこそ意味がある。それは企業でも、政府や大学でも同じです」と話した。(田中郁也)

(文中敬称略)