支援物資を積んだトラックが現れた。カナダ人フォトジャーナリストのケヴィン・フレイヤー(45)は、いっせいに集まった難民に不安を覚えながらも、荷台に何とか上ってカメラを構えた。一人の幼い男の子が目に映った。
空腹やストレスで殺気立った大人たちをかきわけ、トラックによじ登り、食糧を配ろうとしていた支援者の足を両腕で抱え込み、懇願していた。涙がほおをこぼれ落ちるのが見えた。やがて群衆にのみ込まれ、視界から消えた。
昨年9月、バングラデシュのコックスバザール郊外には連日、ミャンマー軍による暴力を逃れた大勢のロヒンギャが難民となって押し寄せていた。急ごしらえのキャンプに、まだ支援はほとんど届いていない。「こんなにか弱い子どもが、死にものぐるいで大勢の大人を押しのけて……。いままで見たどの光景とも比べがたい、とてつもない悲しみだった」
国連によると、隣国バングラデシュに逃れたロヒンギャは70万人を超えるが、その半数以上は子どもだという。
中東などの紛争も長く取材してきたフレイヤーは言う。「いまは様々な方法で世界の出来事とつながり、情報の波にのみこまれがちだ。だが、私たちは決して悲しみにまひし、感受性を失ってはいけない」
自身も5歳の息子の父親だ。「あの少年が私たちの子だったかもしれないし、私たちの子があの少年だったかもしれない」。まだ将来の見通しが立たない難民たちを追い、この夏、再びバングラデシュに行った。
■ロヒンギャ難民危機
仏教徒が大半のミャンマーで、イスラム教徒のロヒンギャは、バングラデシュ国境に近いラカイン州を中心に暮らしてきた。ミャンマー政府からは「バングラデシュからの不法移民」とみなされ、移動の自由や教育、結婚、就職などで差別されてきた。
2017年8月25日にラカイン州でロヒンギャの武装集団が警察施設を襲撃した事件をきっかけに、治安部隊が「掃討作戦」としてロヒンギャの住民を襲撃。死者は控えめに見積もっても1万人以上とされる。今年9月、国連人権理事会は、ミャンマー国軍の主導で、特定の民族などを集団で殺害する「ジェノサイド」があった疑いを指摘し、ミャンマーを非難する決議を採択した。日本はミャンマー政府が設けた独立調査委員会を重視する立場から投票を棄権した。
世界報道写真展2018(世界報道写真財団、朝日新聞社主催)
滋賀の立命館大学びわこ・くさつキャンパスで11月11日まで写真展を開きます。