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迫り来るモンスーンの脅威~ケイト・ブランシェットが見たロヒンギャ難民キャンプ

World Outlook いまを読む 更新日: 公開日:
クトゥパロン難民キャンプで音楽パフォーマンスを見るケイト・ブランシェットさん© UNHCR/Hector Perez.

昨夏から、67万人を超えるミャンマーの少数派イスラム教徒ロヒンギャがバングラデシュに逃れて難民となっている。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の親善大使を務める女優ケイト・ブランシェットさんがバングラデシュの難民キャンプを3月中旬、初めて訪れた。電話での単独インタビューに応じたブランシェットさんは、「非常事態の中の非常事態」と即時の支援を訴えた。(聞き手・GLOBE記者 高橋友佳理)
クトゥパロン難民キャンプで音楽パフォーマンスを見るケイト・ブランシェットさん© UNHCR/Hector Perez.

――ケイトさんは、バングラデシュ南東部コックスバザール郊外のクトゥパロン難民キャンプを3日間、訪問しました。どんな様子でしたか。

ミャンマーでのとてつもない残虐行為から逃れようと、ものすごい数の人が流入しています。UNHCRによると、このキャンプは世界で最も人口密度の高い難民キャンプです。スコットランド最大の都市グラスゴーの人口に匹敵する数の人々が突如バングラデシュに現れたことになりますが、バングラデシュは寛大にも国境を開けてくれた。キャンプにいる人々の半数は18歳以下の子どもです。その多くは、両親がいない。はぐれたり、殺されたりしたからです。

私が会った18歳の少女は、3歳の弟を炎の中に放り込まれ、他の家族は目の前で射殺されました。私はどうやってこの事態から目を背ければいいのか、分かりません。この問題について伝え、人々の意識を高めることが、私にできる、人間としての責務だと感じています。

モンスーンの到来で倒壊の恐れがある仮設住居に住むジュラさんと話すブランシェットさん。ジュラさんの抱く幼子は熱を出していた© UNHCR/Hector Perez.

――バングラデシュでは例年4月ごろから、モンスーン(季節風)の湿った空気がサイクロンをもたらします。現場で、バングラデシュ政府やUNHCRによる、モンスーンへの備えも視察したそうですが、どのような状況でしたか。

キャンプで出会った28歳の女性ジュラ(写真上)は2人の子どもを抱えて、難民キャンプにやってきました。6カ月前に村がミャンマー軍に襲われ、逃れてきたのです。キャンプで彼女にあてがわれたのは、急な丘の斜面に20軒ほど建てられた仮設住居の1つでした。その中で話を聞いたのですが、やっと人が寝転がれるほどの広さしかありませんでした。住居は、いわばほこりを積み上げた上に建っているような不安定なもので、サイクロンが来れば土砂崩れの恐れがあります。彼女は住居の崩壊を恐れ、荷物をすべて梱包したままでした。彼女は村を出て以来、夫と会っていません。殺されたのではないかと恐れています。毎日、息子が「お父さんはどこ?」と聞くので、どう答えていいか分からないと嘆いていました。村での経験がトラウマになっているのに、今またモンスーンの到来という新たなトラウマを抱えようとしている。

――モンスーン対策は進んでいるのでしょうか。

バングラデシュ政府が新しく土地を提供してくれたので、UNHCRと協力団体は最も脆弱な人たちを先に、安全な場所に移動させようとしています。モンスーンの到来で「重大な危険」に陥る可能性があり、緊急に移らないといけない人は10万人以上と見られています。ですが、安心に過ごすことのできる仮設住居を作るための資金は足りていません。

難民自身も、竹を使って道を補強したり、サンドバッグを置いたりとできる限りのことをしていました。難民キャンプで洪水や土砂崩れが起きることは、「非常事態の中の非常事態」です。それが起こらないよう、今、国際社会がバングラデシュを助けなければいけない。

バングラデシュはとても貧しい国ですが、キャンプの近くのコックスバザールに住む人々は、難民たちにとても寛大で、野菜や果物を分け与えてくれます。毎日新たに訪れる何千もの人々がとりあえずの1食にありつけるよう手をつくしてくれているのです。その姿を見て、心打たれました。でも、この危機を国際社会が放っておいたら、この地域は不安定化します。そして、それは他の地域にも影響します。だから、モンスーンが来る前に、いま、行動すべきなのです。

一時的教育施設で難民の少女と会うブランシェットさん© UNHCR/Hector Perez.

――ケイトさんも、お母さんですよね。難民の子どもたちに、希望はないのでしょうか。

私自身、4人の子どもがいます。キャンプで親のない子どもたちが、傷ややけどを負って、不安に震えていました。それでもなお、彼らが前に進もうとしているのを見て希望を感じました。そして、母親としての責任も感じました。難民について考えるとき、希望を作り出すことがとても大切です。国際社会が経済的にも精神的にも彼らの後ろにいるということが、彼らに希望を与えます。

子どもたちの一部は、UNHCRが設けた一時的な教育施設で学ぶことができています。1日2~2.5時間と短い時間ですが、それでも英語の歌を歌う様子から、子どもたちは未来を作りだそうとしていると感じました。豊かな国にいる私たちはインターネットでつながっていて、たくさんの情報を得ることができる。そうしてつながり続け、私たちができることを何でもいいから実行に移すことが求められています。

クトゥパロン難民キャンプで難民の子どもたちと会うブランシェットさん© UNHCR/Hector Perez.

Cate Blanchett

1969年、オーストラリア生まれ。「アビエイター」でアカデミー助演女優賞、「ブルージャスミン」で同主演女優賞。ほかに「エリザベス」「バベル」「ロード・オブ・ザ・リング」「キャロル」など。16年5月に、UNHCR親善大使に任命された。

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