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バリ島から貧困層に届ける、地球に優しい最先端テクノロジーの解決策

アジア発のソーシャルイノベーション 〜バリ島からの便り〜
東チモール・オエクシ県=撮影中村俊裕

バリ島に、途上国の貧困問題を解決するテクノロジーの普及・開発に取り組む団体があります。その国際NGOの名は、コペルニク。地動説を唱えたポーランド人天文学者コペルニクスにちなんで名付けられました。「開発援助にコペルニクス的転回を呼び込む」という意味が込められています。

コペルニクは、2010年に中村俊裕氏、エヴァ・ヴォイコフスカ氏夫妻によって設立されました。代表の中村氏は、京都大学卒業後、英国のロンドン経済政治学院で修士号取得。マッキンゼー東京支社で経営コンサルタントとして活躍した後、学生時代からの夢だった国連へ。緊急・復興支援、ガバナンス改革などの業務に就いた後の2010年、国連の同僚だったエヴァ氏と、ニューヨークでコペルニクを設立しました。

筆者は、コペルニクの立ち上げ当時にボランティアとして関わり、2012年にスタッフとして参画。現在は最高戦略責任者を務めています。

共同創設者エヴァ・ヴォイコフスカ氏(左)中村俊裕氏(右)

共同創設者の二人は、国際支援の最大の担い手であるはずの国連の活動や効果に対して違うアプローチが可能ではないかと考えていました。必要な支援を届ける時に、もっとストレートに、もっと革新的に、困難にある人たちの生活が改善できる手立てはないものだろうかと模索し続けて、行き着いた答えがコペルニクでした。

船上でのテクノロジー普及、インドネシア東ヌサテンガラ州ラブアンバジョ、撮影Fauzan Adinugraha

コペルニクの支援の仕組みやビジネスモデルは立ち上げ当初から変化を遂げていますが、「イノベーションをラストマイルまで」に対するこだわりは一貫しています。

この「ラストマイル」という言葉、直訳すると「最後の一里」ですが、物流の業界では「最果て」という距離的、地理的な意味があります。国際支援の文脈では、この地理的な定義が根底にありますが、「最も支援が届きにくい地域」という意味が含まれます。言い換えれば、「一番支援すべきコミュニティ」。国連や政府が支援出来ていない地域に、フォーカスするのがコペルニクの使命です。

「ラストマイル」へのテクノロジー配布、インドネシア東ヌサテンガラ州アドナラ島、撮影Lincoln Rajali

2013年、コペルニクは現地の協力者と共に、インドネシア・パプア州ヤクヒモ県という高原地域でのプロジェクトに取り組みました。この地域はインフラ整備や経済発展が非常に遅れていて、配電網は整備されておらず、約30万人の住民は電力へのアクセスゼロでした。

この地域は流通網から外れた、まさに「ラストマイル」で、灯油ランプやろうそくも普及しておらず、火を起こさなければ夜は明かりがない状態でした。子供たちは日が落ちてから勉強することはできず、先生たちも授業の準備も出来ません。現地からの要望を受け、コペルニクは、190個のソーラーライトを配布しました。

ソーラーライトを使うようになって、ある看護師さんからは「以前は、出産の介助など緊急な夜間の往診は、たいまつを使って患者さんの家へ歩き、照明が不十分な中、患者さんを診ていました。ソーラーライトのおかげで道中も診療も明るくなりました」との言葉をいただきました。子どもたちも、夜間でも本を読んだり、勉強をしたりすることができるようになりました。

こうした小さな「成功」はあるものの、ラストマイルに対する支援は依然として課題だらけです。特に、約1万5千の島から成り立つインドネシアでは、飛行機、船、トラック、バイクという交通手段を駆使し、やっとの思いでラストマイルの離島の村にたどり着きます。ただ、そのため何を送るにしても送料がかさむので、貧困層にとって経済的に余計苦しくなるのが現実です。

そんなラストマイル支援において、コペルニクが心がけていることがいくつかあります。

まず、現地で信頼されているキーパーソンや団体と協力体制を築くこと。物や情報が届きにくい地域では、外部の人間の存在には疑いの目が向けられるのが普通です。なので、スムーズな支援は、現地で信頼されていて、かつ新しいものに関心の高い人たちに、活動を理解してもらうところから始まります。

製品委託販売に関わる地元の女性たち、インドネシア東ヌサテンガラ州アドナラ島、撮影Rara Sekar

また、具体的な便宜を単刀直入に説明することも大切です。支援の目的によっては「二酸化炭素排出削減」など現場の人にとっては分かりにくい概念があります。コペルニクが普及・開発する技術は、インフラに頼ることなく、家庭レベルで使えるソーラーライトや浄水器のような製品が多いですが、それらの経済的な利点を分かりやすく説明することによって、そうした製品を取り入れてもらえるようになります。

更に、ラストマイルでの活動は、一時的な接触ではなく、長期的な関係を構築するように心がけています。インドネシア各地では、地域の女性たちに製品の販売を委託し、「ヤクルトレディー」のように、販売・普及のネットワークとなってもらっています。地域の雇用に貢献し、同時に離島や奥地でも継続的な活動が届くよう取り組んでいます。

大地震・津波の爪痕、スラウェシ島パル、撮影国家防災庁(BNPB)

コペルニクは貧困削減を大きな目標としていますがが、震災時の緊急支援も行っています。

「災害大国」インドネシアでは、去年のバリ島火山噴火、今年8月のロンボク島大地震、また数週間前のスラウェシ島では、東日本大震災を彷彿させる大地震・津波が発生しました。インドネシアの中心に位置するバリ島の本部から、コペルニクは各地へソーラーライト、浄水器などの支援物資を被災地に届けています。

スラウェシ津波被害に関する支援にご関心のある方は、こちらから詳細をご確認頂けます。

コペルニクはこれまで、約10万個のソーラーライトや浄水器といった革新的なテクノロジーを26ヶ国、40万人以上の貧困層に届けてきました。2016年には、「再生可能エネルギー分野のノーベル賞」とも言われるZayed Future Energy PrizeのNGO枠で、大賞を受賞しました。

今、コペルニクが目指しているのは「ソーシャルインパクトの実験場(R&D)」です。国際開発や貧困削減の領域では、どのような解決策が効果的な成果を出すのか、いまだに証明されていないものが多く、調査不足な側面が多いのが現実です。例えば、以前から注目を集めているマイクロファイナンスでさえ、長期的な調査結果を厳密にみると、賛否両論ありほどです。そんな今だからこそ、ニーズに対して初期段階の解決策をたくさん作り、実験的に試していくということが求められています。そんな活動が「開発援助にコペルニクス的転回を呼び込む」と信じています。