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「ブルーエコノミー」の波が日本に押し寄せている

アジア発のソーシャルイノベーション 〜バリ島からの便り〜

海のように広い定義!?

政策立案や投資の文脈で、ここ数年で急速に世界で広がるブルーエコノミーだが、実はまだ明確な定義はない。

ただ一般的には、ブルーエコノミーが含む経済圏は、漁業などの一次産業、マリンスポーツなどの観光業、船での輸送業などの第3次産業まで幅広い。波力発電、洋上風力発電など再生可能エネルギー事業も含まれる。要するに、海に関わる全ての経済活動である。

遡れば2010年にゼロエミッション構想を考案した起業家・ガンター・パウリ氏が著書『The Blue Economy』を発表したことが起源になる。海洋資源の持続可能な開発を行うと同時に、1億人規模の雇用を生み出すイノベーションとして注目を集めた。その2年後、リオで開催された地球サミットで初めて「ブルーエコノミー」が重要課題として取り上げられた。

以後、ブルーエコノミーのコンセプトは、国連やAPECなど国際機関にも急速に浸透している。2012年には、日本を含むアジア10か国の首脳や大臣が、ブルーエコノミーに基づいた開発を行う「チャンウォン宣言」に批准したが、メディアなどではあまり取り上げられなかった。

2019年10月筆者が登壇したインドネシア・マナドで行われたブルーエコノミーに関するカンファレンス 撮影:著者

プラゴミが一つの引き金に

では、なぜ今になってブルーエコノミーが注目を集めているのか。

一つ目に、去年日本でも一気に広まったプラスチックゴミの問題が考えられる。

2050年には、魚よりもプラスチックの量が多くなる。

現代人は、一週間あたり5グラム、おおよそクレジットカード一枚分と同量のプラスチックを食べているというような、驚きの研究結果が世界を駆け巡った。

話題となった環境NGOによるデザイン 出典: WWF

市民の意識とともに、ここ約一年で行政や民間も大きく動き始めた。

例えば、神奈川県は、2018年夏、鎌倉市由比ガ浜でシロナガスクジラの赤ちゃんが打ち上げられ、胃の中からプラスチックごみが発見されたことをきっかけに、2018年9月「かながわプラごみゼロ宣言」を発動し、海洋汚染に全面的に取り組み始めた。

民間最大のアクションとして、Alliance to End Plastic Waste(AEPW)という、廃棄プラスチックを無くす国際アライアンスが2019年1月に米国で発足された。プラスチックのバリューチェーン全般に携わる世界の大企業30社以上で構成され、廃棄プラスチック根絶に向けて、インフラ開発、イノベーション、教育、クリーンアップの4分野へ、今後5年間で、驚愕の総額 1500 億円の資金が投入される。そんな巨大勢力のAEPWが、去年7月に東京の経団連会館で発足イベントが行われた。

「気候危機」の「症状」でもあり、「解決策」でもある海洋資源

二つ目に、超大型台風の被害やグレタさんのメディア力で一般人にも浸透し始めた「気候危機」が理由として考えられる。

去年、世界中の科学者約1万1000人がその危機的状況を支持した。気候「変動」という曖昧な言葉はもう古くなった。

地球全体が危機的状況にシフトしているわけだが、そもそも地球面積の大部分(71%)を占めるのは海である。従って地球レベルの話に海が主役とならなくてはおかしい。その証拠に海洋資源に気候危機の影響が顕著に現れている。そして、気候危機の解決の大きな鍵を海洋資源が握っている。

ある調査では、このままの気温上昇率が続けば、2050年までに世界のサンゴが絶滅し、海の生態系に大きな影響を及ぼすとしている。

その一方で、海には課題悪化の解決策が秘められている。それは「Blue Carbon(ブルーカーボン)」と呼ばれる海辺に生息するマングローブや海藻の存在だ。ブルーカーボンは、陸地の樹木(Green Carbon)と同様、二酸化炭素を吸収する機能があるが、その効果はグリーンカーボンの10倍以上という研究結果がある 。

従って、温暖化対策として山などに植林をするより、マングローブや海藻を増やしたほうが費用対効果は高い。マングローブは、海岸を海面上昇による侵食からも守ってくれる。

そのため、もともとチリで開催予定だった昨年末のCOP25(国連気候変動枠組条約第25回締約国会議)は、海洋資源の持続的な開発を行うことが急務であるとして、「Blue COP元年」と呼ばれていた背景もある。

更に、世界銀行の部署の名称にもブルーエコノミーの重要性は反映されている。元々「Environment & Natural Resources」と呼ばれていたいわゆる環境部は、去年7月「Environment, Natural Resources & Blue Economy」と一言追加され、正式に変更された。

気候危機、経済競争、地政学が複雑に絡む漁業

三つ目の理由として、日本人の食卓に欠かせない魚や海藻などを生み出す漁業の変化である。

捕鯨やフカヒレ目当てのサメの捕獲については昔から国内外で賛否両論あるが、最近ではクロマグロが絶滅危惧種に指定された。日本食文化の代表であるお寿司のその主役マグロをとることが海外では問題視されている。

また、漁獲権、漁獲量は多くの人にとって死活問題である。漁業に関わる労働者は世界で6000万人と推計されていて、その8割以上がアジア諸国に住んでいる(FAO世界漁業・養殖業白書)。その内、9割が小規模ビジネスであり、蓄えや余裕はなく、些細な規制や環境の変化で困窮に陥ってしまう 。

そこに中国、インド、インドネシアなどの新興国の台頭により、漁業権や排他的経済水域の熾烈な争いが太平洋、インド洋、南シナ海で繰り広げられている。太平洋諸国における中国 vs. 台湾の「縄張り争い」は、海に向こうのアメリカも虎視眈々と状況を伺っている。

気候変動による海面上昇で島が浸水し海面から顔を出さなくなった場合には、その分排他的経済海域が減少するため、日本も必死で沖ノ鳥島を守ろうとしている。

従って、漁業は、環境や生態系の変化に限らず、境界紛争や地政学に大きく影響を受ける複雑な産業であり、様々な文脈にブルーエコノミーは必然と関わってくる。

ブルーエコノミーの大部分を占める漁業 出典:Unsplash

「ブルーエコノミー」の波が、今年3月に東京到来

このように海外ではここ数年普及している一方、日本では認知度がほぼゼロの「ブルーエコノミー」はおそらく向こう数ヶ月メディアに取り上げられ、一般人の耳にも入ってくるだろう。2020年が日本にとっての「ブルーエコノミー元年」になるかもしれない。

その大きな理由が、東京で3月開催予定のWorld Ocean Forumである。

イギリスの老舗出版社Economistがサンフランシスコで持続可能な海洋資源の開発ついての国際カンファレンスを2014年に行い、以後毎年世界中の都市で開催しており、2017年はバリ、そして2020年は東京で開催される。既に政府からは小池東京都知事、パラオ大統領など、民間からはサントリーの新浪社長などが登壇予定のハイレベルなシンポジウムだ。

島国日本の中枢にある海洋経済。東京オリパラの前に、国際舞台でリーダーシップを発揮する貴重な機会である。日本にとっての「ブルーエコノミー元年」がどのように展開するか注目していきたい。

2020年3月東京開催。世界中のブルーエコノミー関係者が集まる 出典:Economist Group

(調査協力:島田颯)