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人口14億のビッグデータを独り占めに 中国はデータで世界を征するか

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カメラに映った人の顔を次々と識別し、年齢や性別、その時の感情を推測する=福田直之撮影
カメラに映った人の顔を次々と識別し、年齢や性別、その時の感情を推測する=福田直之撮影

■「新しいもの好き」が背を押す中国の技術革新

「女性 年齢:25 楽しそう」「男性 年齢:24 落ち着いている」

6月、上海市であった家電の見本市「CES ASIA」。カメラでとらえた顔がディスプレーに映し出され、分析結果が添えられていた。ネット通販大手の京東集団が開発している人工知能(AI)の画像認識を使ったシステムだ。

客の性別や年齢、表情などを読み取り、ビッグデータを使った分析結果から、その人が潜在的に何を欲しいのかを分析し、薦めようとしている。つまりは「欲望の掘り起こしシステム」だ。

試してみると、読み取った顔の分析結果から、「成熟した自信」「非凡な器」……と歯の浮くような賛辞が表示され、香水の写真が出てきた。香水はつけないので全く興味がない。賛辞の内容を含め、精度はまだまだなようだ。

それでも、展示ブースは黒山の人だかりだ。列に並んでまでして自分の顔を読み取らせ、AIのお薦めは何か知ろうとしている。通算2年半、中国で暮らして感じるのは、中国人の新しい物好きで、便利で面白いと思えばすぐに飛びつく傾向だ。テクノロジーは消費を中心に、中国人の生活を急速に変えつつある。

上海市のオフィス。ガラス張りの冷蔵棚にあるセンサーに右手をかざすと、「カチャッ」と音が鳴った。手のひらの特徴から本人確認が済み、扉が開く。あれこれ飲み物を手に取ったあげく、最初に触れた飲料だけを取り出し、扉を閉めた。キャッシュレス決済を通じて、銀行口座から4(64)が引かれた。中国の都市部に広まる「Take Go」という無人販売機だ。

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自社の無人販売機「Take Go」を説明する陳海波=上海市、福田直之撮影

開発した上海市のベンチャー深蘭科技の陳海波CEOは「時間が惜しい朝、コンビニに行列ができていたらいやでしょう。無人販売機なら、並ばず買い物ができる」。核心技術は手のひらを読み取る個人確認と、商品の出し入れの把握に使うAIの画像認識だ。

【関連記事】「AIは人類を救う」。無人販売機を展開するベンチャー創業者の信念

筆者が北京市で暮らしていた5年前、街角に自動販売機はなかった。飲み物が欲しければ、売店でくしゃくしゃの小額紙幣を店員に渡す必要があった。そんな牧歌的な消費環境を劇的に変え、自販機を広めたのは、キャッシュレス決済の普及だった。

現在の中国ではスマートフォンに表示したQRコードを相手のスマホや専用機器で読み取るなどして支払う。この仕組みをネット通販大手のアリババ集団系のサービスが採用し、一気に広がった。2015年の中国のキャッシュレス決済の普及率は60%。日本の18%はおろか、米国の45%も優にしのぐ。

■AIによる治安維持、進む実用化

中国でAIに注目しているのは企業だけでない。むしろ、実践がよく目につくのが政府による治安維持だ。画像認識を使い、カメラに映った逃亡犯をコンサート会場で逮捕。春節の人波でごった返す駅で、顔認識機能付きのサングラスをかけた警察官が行き交う人々に目をこらす。公安部門に画像認識技術を提供している北京のベンチャー北京曠視科技は、自社の技術を使い、「5000件以上の犯罪の解決と、1万人以上の指名手配犯の検挙に貢献した」(蒋燕副総裁)という。

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車のナンバーや特徴も監視カメラで読み取り、警察の捜査や交通規制に活用する=福田直之撮影
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横断歩道を赤信号で渡った人の顔を監視カメラで認識する=広東省深圳市、福田直之撮影

世界経済フォーラムのAI部門のトップ、ケイ・ファースバターフィールドは、AI分野で中国は二つの優位性があるという。一つは資金面だ。「中国が北京の西のAI研究施設に投ずる資金だけで21億ドル(2400億円)で、米国政府の16年のAI投資12億ドルよりはるかに多い。中国ではAIの発展が国策だからだ」と指摘する。中国政府は17年、「30年には世界の主要AIセンターになる」とうたう計画を策定した。

もう一つはAIの応用だ。「データが手に入りやすいほど、AIの応用領域は広がる」。顔認証、買い物、金融取引、果ては治安活動まで、いろんな場面で使われている。それは、個人情報の保護に先進国ほど敏感でない国民性が支えている。14億の人口を抱える中国は「より大きなデータセットで、AIを運用できる」と言う。

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1日平均2100万件というこの会社の出前配達データは、配達のさらなる効率化に使う=福田直之撮影

■膨大なデータで「新たなサウジアラビアになる」

ビッグデータはAI時代、産業のオイル(原油)と言われる。「中国には膨大なデータがある。データが多ければ多いほど、良い結果が得られる。もしデータがオイルならば、中国は新たなサウジアラビアだ」。中国のAIの第一人者で、元グーグル中国法人トップの李開復・創新工場会長は、9月のイベントでそう語った。人々の好奇心は「ディープラーニング(深層学習)」といった技術を通じ、AIを磨く材料になる。

中国は国内の膨大なデータを囲い込もうとしている。中国政府は17年に施行したサイバーセキュリティー法で、国家安全の目的から、国内で集めたデータの国外への持ち出しを制限した。中国工業情報化省は「国外企業の中国市場への参入を制限するためではない」というが、中国によるデータ独り占めにつながる。

巨大な市場が生み出す膨大なデータを積極的に活用しようとする企業。それを中国共産党と政府の産業政策が後押しする。中国は今、米国と並ぶもう一つのAI大国への道を猛進している。

■AIとビッグデータ

現代のAIが得意なのは、目標が明確な課題について、膨大なデータ(ビッグデータ)に基づき「課題の結果を左右する重要な要素は何か」を自ら判断し、目標に近づくための答えを出すことだ。

例えば、画像上で「イヌ」と「ネコ」の違いをAIに識別させようとする際、従来は人間が「どんな判断基準、プロセスで両者を分けるのか」という「アルゴリズム(計算手順)」を作成し、AIに入力していた。しかし、新技術の「ディープラーニング」により、AIがビッグデータを元に「イヌとネコの見分け方」を自動学習できるようになった。しかも、多くの良質なデータを与えれば、答えの精度を飛躍的に高められる。

ビジネスは「より多くの利益を生み出す」という目的が明確で、十分なデータがあればAIが真価を発揮しやすい分野だ。一方で「余命が限られた患者の『生活の質』を保つ治療方針」など、望ましい結果が単純に判断できない課題にAIが対応するのは難しい。

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