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「AIは人類を救う」。無人販売機を展開するベンチャー創業者の信念

創業@中国
自社の無人販売機「Take Go」を説明する陳海波=上海市、福田直之撮影
自社の無人販売機「Take Go」を説明する陳海波=上海市、福田直之撮影

「中国のシリコンバレー」と呼ばれる北京市北西部の中関村。起業家が集まる「創業大街」に取材に行ったとき、村の入り口に「無人コンビニ」ができているのを見つけた。AIベンチャー「深蘭科技(上海)」が売り出し中の無人販売機「Take Go」だ。

店内に入ると、コンビニの冷蔵棚に似た扉付きの棚が並んでいた。棚には飲み物のほか、パンやお菓子など様々な食べ物が並ぶ。普通の自動販売機と違って品数が豊富なのがいい。

使うには、利用登録が必要だ。まず、手のひらを販売機の前についたカメラにかざして映し、手の筋や静脈、動脈、毛細血管の情報を読み取らせる。生体情報はパスワードのように変更が利かないので、あまり使いたくないが、これをやらないとサービスが利用できない。「個人情報の提供は、便利さとのトレードオフ」だ、と自分に言い聞かせて登録した。次に、普段使っているスマートフォン決済アプリの「アリペイ」の情報を入力。こうすることで、自分の手のひらを読み取らせて買い物をすれば、自分のアリペイからお金が引かれるようになる仕組みだ。

再度手のひらを読み取らせると、扉が開いた。中から飲み物を取り出して扉を閉めると、アリペイからお金が引かれた。あっという間の出来事だ。

この仕組みを実現するのが人工知能(AI)だ。誰の手のひらなのか認識するのはAIの画像認識機能を使っている。どの商品を取り出したかもカメラに映った映像からAIが分析する。日本の旅館の部屋に置いてあるミニバーで、商品を取り出しただけで課金された経験のある人もいると思う。だが、無人販売機は一度手に取った商品を棚に戻す動作もAIで認識し、そうした場合にはお金を引かれることはない。

「深蘭科技(上海)」は6月中旬、上海で開催された家電見本市の「CESアジア」に、「無人販売バス」を出展していた。バスと言っても、人を乗せてどこかに運ぶバスではない。商品を積んだ棚を載せており、バスの中で買い物をしてもらう移動スーパーのイメージだ。

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手のひらからしわや静脈、動脈、毛細血管の情報を読み取る=上海市、福田直之撮影

仕組みは「Take Go」と同じ。事前に利用登録しておくと、バスに入る際に手のひらを扉の脇のカメラに読み込ませれば、本人確認されて中に入れる。必要な商品を取り、バスから外に出るだけで、スマホ決済されてお金が引き落とされる。同社は今、AIによる画像認識を生かして自動運転も研究中だ。運転手さえいない「完全無人販売バス」を運行させようとしている。

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無人販売機は様々な商品棚に応用が可能だ=上海市、福田直之撮影

中国ではこれまで、日本ならどこにでもある自動販売機がほとんど普及していなかった。背景には、硬貨の最高額が1元(約17円)と低いので、少額の買いものに紙幣を使わざるを得ないが、しわくちゃなものばかりなので、機器が読み取れなかったり、詰まったりするためだと聞いたことがある。ところが、スマホ決済の広がりと共に、ここ数年で自動販売機が町のあちこちに設置されてきた。さらには「無人コンビニ」へ、中国の買いもの事情を一足飛びに変化させている。そんなことを手がける企業の創業者に会いたいと思い、3月下旬、上海の市街地にあった本社を訪ねた。

中国の「若さ」に目を付ける

創業者で首席執行官(CEO)の陳海波(チェン・ハイポー、43)の執務室はガラス張り。ジャンパー姿の陳はまるで昭和の中小企業のおやじだ。取材中も慌ただしく社員が部屋を訪れては、陳の指示を仰いでいた。

「便利なものこそお客さんから支持される」と考える陳からすると、既存のコンビニには問題があった。まず、支払いに長い列ができるので、会社に出勤するときなどイライラの原因になる。既存の自動販売機も、買う前に商品に触れることができないし、返品もできない。「自販機の前にお店があるなら、お店に行きたいと思いませんか」と陳。

「商品を手に取り、お店を出た瞬間に決済が済むなら、こんなに便利なことはない。コンビニにも店員がいらなくなる」。陳は自社の展開する無人販売機の普及に自信を見せる。日本のイオンのグループ企業、イオンディライトと合弁会社も作った。「日本の自動販売機を無人販売機に置き換えていく」と意気込む。

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深蘭科技(上海)を創業した陳海波=上海市、福田直之撮影

陳は東シナ海に面した浙江省寧波市にルーツを持つ。子供の時から科学技術が大好きで、雑誌「UFOリサーチ」を読みあさっていた。母親はイギリスの会社に会計士として務めていたキャリアウーマン。陳は母に連れられ、よくヨーロッパに行ったので子どもの頃から外国になじみが深かった。

社内には、オーストラリアの国旗があちらこちらに飾られていた。中国の大学でコンピューターを学んで修士課程を修了した陳は1999年、オーストラリアに留学。2000年からAIについて学び始めた。

最初に起業したのは、オーストラリアの大学を卒業した04年だった。プラズマを使って無菌空間をつくる技術を開発する会社だ。空調機器は、AIを使って制御するものだったという。

ところが陳は14年、わざわざふるさとの中国に戻って深蘭を立ち上げた。

「中国のこの数年の発展はとても早く、若者の人口は世界で最も多い。若者は未来にあこがれるもの。新鮮なものを受け入れるものでもある。どこよりも新たモノを受け入れてくれるのが中国だと思った」と陳。AIを活用したサービスを市場投入するために、新しいものを好む中国の「若さ」に目を付けたのだ。

さらに中国人の気質も重視している。「中国人は何でも学びたがる。ファッションは韓国の美女に学び、技術はアメリカや日本に学ぶ。ものづくりはドイツに学ぶ。若者は伝統文化にとらわれないから、発展の動力になる。それは非常に恐ろしいほどだ」と話す。

「なぜAIに取り組んでいるのか」と聞いてみたところ、面白い答えが返ってきた。

「囲碁でプロ棋士に勝てるように、色々なところでAIが人間の脳を超える可能性がある。これらがすべて結合されれば、地球人はさらに賢くなり、スーパーマンになれる。だから我々は今、AIを市場で訓練させているのだ」と陳。

そして、おもむろに「AIは人間を永遠に生かすことができる」と主張し始めた。

「肉体は当然、死んでしまう。細胞は死ぬし、骨格は腐ってしまう。ただ、一つだけ逃れる方法がある。人間の意識を読み取って、ハードウェアにダウンロードする。そして、それをAIと結合し、膨大な知識を加える」

「『人機』と呼ぶ、人間と見紛うような機械の体を作り、ここで人間の意識を動かせれば、永遠に生きながらえることができる。人間と機械が結びつく『人機時代』はすぐ来る」。UFOに興味を持つ少年だったからか、陳の話はどんどんSFチックな方向に向かっていった。

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ロシアからの視察団に新社屋について説明する陳海波=上海市、福田直之撮影

会社経営についても、独自の考え方を持つ。「まず、アマゾンやアリババのように、数千億元の価値を持つ企業にならなければならない。究極の目標は、偉大な企業にすることだ。そのために、誰もどの企業もしたことのない構想がある」と言う。

「お客さんが技術を使ってくれてはじめて、我々の仕事が価値を持つ。ならば、企業の株を顧客に配分したりして、この価値を彼らに還元しなければならない」。企業は顧客のもの。陳は企業のありかたも変えようとしている。