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ダン・ブラウンが問う「人類はどこから来て、どこへ行くのか」

World Now PR by KADOKAWA 公開日:
『ダ・ヴィンチ・コード』で知られるベストセラー作家、ダン・ブラウンが初来日

『ダ・ヴィンチ・コード』の世界的ヒットで知られるベストセラー作家、ダン・ブラウン。その小説は今や56カ国語に翻訳され、累計部数は2億部に達している。日本でも多くのファンを持つ彼が、このたび最新作『オリジン』の刊行を記念して初来日。5月29日には都内で読者300人を招いて講演会(主催:角川文化振興財団 共催:朝日新聞社/KADOKAWA)が開かれた。題して「AIと人類の未来」。『オリジン』のテーマでもある。 宗教象徴学者ロバート・ラングドンを主人公とするシリーズは、2000年刊行の『天使と悪魔』から始まって、以後『ダ・ヴィンチ・コード』『ロスト・シンボル』『インフェルノ』と続き、『オリジン』で5作目。講演ではこの最新作のテーマとともに、自身の作家としての歩みなどについても、途中ジャーナリスト・池上彰氏との対談も交えながら2時間にわたって語られた。

 最新作の題名『オリジン』は、「われわれはどこから来て、どこへ行くのか」という人間の根源的な問いを示唆している。この命題に答えを与えるのは、宗教なのか。それとも科学なのか。『オリジン』のテーマは、宗教と科学の対立、そして人工知能(AI)と人間の未来だ。

『ダ・ヴィンチ・コード』同様、主役は宗教象徴学者のロバート・ラングドン教授。元教え子でコンピューター科学者のエドモンド・カーシュが、人類の起源と未来の謎を解き明かす映像を発表するイベントに招待され、スペイン・ビルバオのグッゲンハイム美術館へと向かう。

 ところがカーシュは檀上でスポットライトを浴びている最中に、何者かの手によって暗殺される。ラングドンの身にも危険が及ぶが、カーシュの相棒ともいうべき人工知能(AI)「ウィンストン」が美術館の警備担当者になりすまして追手を引き離してくれ、脱出に成功。カーシュの研究成果を世に出すためなら全面協力すると申し出るウィンストンに助けられ、事件の真相に迫る。

都内で読者300人を招待して行われた講演会「AIと人類の未来」

 ダン・ブラウン氏の講演会のタイトルは「AIと人類の未来」。講演会でまず語られたのは、自身のバックグラウンドだ。父は著名な数学者、母は敬虔なキリスト教徒で教会のオルガン奏者。両極端の信念を持つ両親のもとで育ち、子どもの頃から科学と宗教の間で、心身が分裂するような思いを抱いていたという。

「父と母は信念こそ違いましたが、お互いに尊敬し、信頼していました。しかし私は9歳の時、このふたつの世界観は矛盾をはらんでいると感じるようになったのです」

親の車のナンバープレートも持参。母は「KYRIE(主)」、父は「METRIC(メートル法)」と徹底していた。

 学校では進化論を、教会では神による天地創造を教えられる。その矛盾の中から、ダン・ブラウンは〝自分自身のテーマ〟として宗教と科学の問題を考え続け、宇宙物理学や数学を学んだ後、作家となったという。

「古代の人たちは、天変地異や疫病、そして愛までも神のみわざだと説明していたが、科学の進歩とともに神の領域は科学によって浸食されていった。神は科学のもとで生き残れるか。これは我々の時代の、もっとも知的で刺激的な問題です」とブラウン氏。

 今でもアメリカの熱心なキリスト教徒の中には、自分の子どもが学校で進化論を教えられることに怒る人もいる。2017年、保守的なある政治家は、「地球ができたのは6000年前だ。化石は神が我々の信仰を試すために置いたのだ」と持論を述べて物議をかもした。

「もちろん宗教はいろいろな人を支えたし、倫理や道徳基軸を作った。しかしますます科学が進歩する世界で宗教の重要性を失いたくないなら、排他的になってはいけない。宗教の強みは、何世紀にもわたって根本的教義が変わらない点。一方、科学は時とともに劇的に変化する。今やその進歩の速度があまりにも早すぎるため、技術の進歩に倫理観や哲学は追いついていないのも現実です」と、ブラウン氏。その技術の代表的なものが、人工知能というわけだ。

 講演会にはジャーナリストの池上彰氏がゲストとして登壇。池上氏は中学生の頃、世界中のコンピュータをつなげて究極の質問をするという内容のSF小説を読んだ。
「その質問とは、『神は存在するのか』。すると世界中のコンピュータがつながった今こそ、ここに神が存在する、とコンピュータが答える。そういう時代が、今まさに来ています。2045年頃には、AIの知能が人間を超える〝シンギュラリティ〟が起こるとも言われています。ブラウンさんは、その日が実際に来ると考えていますか?」

講演会では、ゲストとしてジャーナリストの池上彰氏も登場

 それが人間にとって、どういうことを意味するのか。我々よりもすぐれたものが存在するということは、我々はAIの奴隷となるのか。進化論的に考えると、AIは人間よりさらに進化した存在になるのか――。
池上氏の質問に対して、「私は、AIと人間の未来に関しては楽観的です」とブラウン氏はいう。

「AIはパワフルな技術で、両刃の刃であり、倫理上の問題もまだ解決されていない。しかし我々は過去にも、人類に危険を及ぼす可能性のある技術を作ってきました。原子力然り、遺伝子工学然り。それでも今、われわれは生きている。人類という種は存続しています」

 人間とは建設的な種であり、AIを善のために使う方法や哲学を必ず見つけるだろうとも語る。

「願わくは、われらの思想がテクノロジーに後れをとらぬことを。願わくは、われらの情熱が支配力に後れをとらぬことを。願わくは、恐怖ではなく愛が変化の力の源たらんことを」

 池上氏が『オリジン』のなかで最も感動した一節だというエドモンド・カーシュの〝未来への祈り〟を朗読するのを、ブラウン氏はじっと聞いていた。

文/篠藤ゆり 写真/タナカヨシトモ