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MITメディアラボ石井裕氏に聞いた 「AIの時代に求められる人材」とは【動画あり】

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自ら作品を説明し、実演する石井裕・MITメディアラボ副所長 Photo: Tannai Atsuko
自ら作品を説明し、実演する石井裕・MITメディアラボ副所長 Photo: Tannai Atsuko

【動画】石井教授が操る不思議な作品の数々

世界で通用するために必要な「マインドセット」

――石井教授は、手で触れられるデジタル情報「タンジブル・ビット」の研究を創設し、未来の物理マテリアル「ラディカル・アトムズ」のビジョンを発表、研究を進めていることなどで世に知られています。日本の若い人材が世界と対等に戦えるようになるためには、何が必要になると思いますか。日本の教育は、どう変わっていくべきだと考えますか。

 まず必要なのは、人と違った、創造的なものを生み出す「独創力」です。それは、真空からは生まれません。既存のいろいろなアイデアを、新しい視点で組み合わせることで価値を生み出すのです。ただし、独創といっても1人では必ずしもできません。志を共にする仲間を集め、徹底して建設的に批判しあい、互いのアイデアを高めていく「協創力」も求められると思います。

 さらに、高めたアイデアを世界で戦わせ、勝たなければいけません。たとえ、勝てなくても、負けからまた学ばなければいけない。これを「競創」と言っています。「独創」「協創」「競創」の三つの「創」が将来、非常に重要になってくるのです。

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ふたの開け閉めでデジタルコンテンツにアクセスでき、音楽が流れ出る「musicBottles」 Photo: Tannai Atsuko

 正解の存在が保証された問題を、いくら速く解いても仕方がありません。そういう能力や、暗記・計算といったものは、計算機に置き換えられます。そうではない新しいビジョン、アイデアを生み出すことは我々、人間にしかできません。どうすれば生み出せるか分からないぐらい大事な力だから、マシンに搭載できないわけです。

 そして、ライバルとどう競いあうかという点では、違った考え方を持つ連中と刀を交える「他流試合」、そしてそれを可能にする「海外雄飛」が重要になります。

 ――講演会などで話すとき、「出杭力(でるくいりょく)」という言葉をよく使いますね。どういう意味ですか?

 出る杭は打たれる。しかし、打たれて終わるのではなく、徹底的に出過ぎることで、誰も打てないレベルに到達することが大切です。それが1次元です。2次元は「道程力」。すなわち、道を切り開く力です。例えば、トラックがあったとして、そこを人より速く走ることは本当の研究とはいえません。本当の競争でもない。これはある意味、受験勉強みたいなものです。道程力とは、正解のない新しい問題を提起し、その解決に向けて新しい道を切り開く。そこにはストップウォッチという勝ち負けを評価する装置も、観客も審判もいない。孤独な戦いです。詩人、高村光太郎の有名な詩「道程」からこの名前をつけました。

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自ら作品「musicBottles」を実演する石井裕・MITメディアラボ副所長 Photo: Tannai Atsuko

3次元は「造山力」。すでに存在している山に初登頂することは、真の独創ではありません。誰もまだ見たことのない、山を海抜ゼロメートルから造山しなければいけない。そしてその山が世界中から見えて、皆が登りたいと思わなければなりません。もちろん、その山頂に、山を作った自分自身が世界初登頂することが絶対条件。

 さらに精神面の柱として、「飢餓感」「屈辱感」「孤高感」の三つが大切だと思います。目の前にあるものが食べられるかどうか瞬時に判断し、次の瞬間くらいついている。そういった飢餓感を研究でも、ビジネスでも、社会貢献でも持っているべきです。皆に認められない、論文が通らない、ファンディングがつかない。屈辱感は、そんな悔しさを貯蓄しておき、いつか世界をアッと言わせようとする時のエネルギーとして燃やす。いわば、内燃機関です。

 本当にすごい境地に達すると、誰も理解できなくなるものです。天才は、そういう孤高を味わっている。そんな時は自分を信じられるかどうかです。ただし、誰も理解できないのはもしかしたら、アイデアがゴミで、ダメなのかもしれませんが。

 ここまで話したのは、天才になるための必要条件ではありません。こういったマインドセットを持たないと、世界に通用する仕事はなかなかしにくいということです。

AIが到達できない領域がある 

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自ら作品「TRANSFORM」を説明、実演する石井裕・MITメディアラボ副所長 Photo: Tannai Atsuko

――美学や哲学の重要性をよく語られています。AIはそういう分野で人間の域には到達しえないですか。

到達できるはずがありません。マシンをよく理解していれば、美学や哲学でAIが人間の域にいつ到達するとか、人間の仕事がなくなるといったことは本来、考える必要もないのです。一方、ルーチンワーク、何万回、何百万回と繰り返される仕事、あるいはネコか犬かを分類するようなパターンマッチングのような仕事は、マシンを鍛えればできます。

天才は数が少ない。つまり、希少価値があるわけです。もし仮に、天才がいっぱいいたとして、彼らの思考や行動を全部データとしてAIにインプットして、天才を模倣できるAIを作り出せると思うかもしれませんが、それは天才の深さ、すごさを理解していない証拠です。

最も大事なのは、それぞれが独自の研ぎ澄まされた美意識を持つかどうか。マシンにできるように定式ができたら、それは誰でもコピーできる。

どうしたら、天才を育てられますかというレシピを求めてくる方は、いっぱいいますが、そんなものあるわけがありません。(天才を生み出す)環境がなかったとしても、すごい人は生まれてくるものです。

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「TRANSFORM」は、センサーで知覚された人の動きに反応して、テーブル上部にあるブロック状のピンが波の動きのように変化する Photo: Tannai Atsuko

 ――石井教授にとって、「天才」はだれですか。

 僕のヒーローは、ダグラス・エンゲルバート(注)です。現代のモダンコンピューターや、リモートコラボレーションのベースの概念を50年代につくった人で、最もインスパイアされました。彼がしたことは、天才としか言いようがない。でも、天才という分類には、僕はちょっと違和感があります。天才、秀才と言うと、いかにも偏差値的なランキングのような感じがするからです。天才だから好きなのではなく、尊敬する超クリエイティブな人が多くの場合、天才と呼ばれているだけです。

 その他には、マーク・ワイザーでしょうか。ユビキタスコンピューティングの父で、彼もビジョナリーですね。あとは、MITの建築学部長だったビル・ミッチェル。アラン・ケイと、ニコラス・ネグロポンテ。彼ら2人と1994年にアトランタで会い、僕をヘッドハンティングしてくれました。そういうすごい連中がいっぱいいて、僕のヒーローです。みんなもう天才としか言いようがないでしょうね、たぶん。

 (注)初期のコンピューターやインターネットのパイオニアの1人。コレクティブ・インテリジェンス(集合知)のビジョンの創始者

とんがった人には、ふさわしい環境を 

――日本の教育がこれまで量産してきたような「均質な人材」は、これからも必要だと思いますか?

世界という大きな仕組みやシステムをしっかり動かす時、決められた仕事をしっかりと着実にこなす良質な労働力は、絶対に必要です。でないと、電車も時間通りに運行しないし、世界が回らなくなります。

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MITメディアラボ Photo: Tannai Atsuko

一方、次の時代をつくるためのディスラプティブ(破壊的)なイノベーター(革新者)は必要です。でも、それを天才と呼ぶ必要はないと思います。いま必要なのはオリジナル・ビジョン(未来図)を描けるビジョナリーです。あらゆるシステムはいつか硬直し、次の新しいシステムに置き換えられる運命にあります。一番良い例が、TCPIP(インターネットの基礎となるデータ転送の通信手順)、インターネットです。その新しい地殻変動の波にのまれるのではなく、自らそうした変化を起こして、次の安定したフェーズに持っていく。そういうディスラプティブなイノベーターは必要です。

――そのような人材を育むためには、どのような教育や環境が望ましいでしょうか。

 残念ながら、現代はそういう人間が出てくる文化風土は一部の国に偏っています。ですので、そういう人々を許容し、守り、育てることはとても大事です。しかし国によっては、難しい。なぜなら、評価の仕方そのものがたぶん計量的に数値化していて、評価できるものしか評価しないからでしょう。突出したラジカルなビジョン、あるいは倫理に関して深く考え、哲学をもつ人材が必ずしも多くない国は、非常に大変だと思います。

特に先行指標(モデル)、つまり、追いかけてコピーする相手がいなくなり、自分が世界の先頭に立たなければならない時に、どうやってビジョンを作り出すか。そんなオープン・クエスチョンに直面した時、正解のある問題を人よりも速く解くことだけに長けた人間は、無力です。

 現代の社会の基盤を支える人材を育てる仕事は大切です。一方で、次世代をつくる若人を支援する環境も必要です。ただ、「変革を呼ぶ」「世界のリーダーになる」といった意味での何パーセントかのとんがった人間に対して、(正解を速く出すことを求めるような教育とは)違った教育や環境を与えることが大事なのです。 (聞き手・丹内敦子)