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中国の人気ネット通販 「安かろう悪かろう」でも急成長

ニューヨークタイムズ 世界の話題 更新日: 公開日:
ネット通販「ピンダウダウ」のアプリ。商品の安さが売りだ=©2018 The New York Times

アップル(Apple)、グッチ(Gucci)、テスラ(Tesla)。多くの中国人は一流のブランドが好きだ。しかし一方には、40㌣のイヤリングだの1㌦50㌣のワイヤレス・スマホ充電器、1組50ロールで4㌦75㌣のトイレットペーパーなどに飛びつく消費者層も膨大に存在する。

中国のネット通販「ピンダウダウ(Pinduoduo)」の顧客で、昨年は米国の全人口を超える3億5千万人近くの人が利用した。親会社は創業からわずか3年で、ナスダック証券市場に株を上場する。

ピンダウダウの急成長は、中国にはすでにアリババ(Alibaba)のような巨大なオンライン企業が影響力を発揮しているとはいえ、非常に業績の良いインターネットの新興企業が登場する余地があることを示唆している。そして、まだ十分なサービスにあずかれていない消費者層の影響力がどれほど大きいかも物語っている。

そうした人たちは繁栄する大都市の外側に位置する町や村の住民で、中国人口の圧倒的多数を占め、ざっと10億人を数える。年齢が比較的高く、インターネットには精通していない。購入する商品の質はともかく、値段の安さにはあらがえない。

リー・ティエンチャン(45)と妻は、南部の広東省仏山市で工場の労働者を相手に、米麺など朝食用の食品を三輪自動車に積んで売り歩いている。ここ2年間で、リーはピンダウダウを通じて計約1千㌦相当の商品を買った。2カ月分の収入に匹敵する金額だ。空気で膨らますボート、魚釣りに行くときに使うバッグ、鮮やかなピンク色の電気自動車(幼い娘のオモチャ)などだ。

リーには、自分が買い物中毒気味だという自覚がある。後悔している買い物はと問うと、少しあるとのこと。いくつかは好奇心をそそられて買ってしまった。商品が届いたものの、その品質の悪さに腹を立てて投げ捨てたモノもある。とりわけ粗悪だったのは、人形やバイオリン、キーボードなど娘のために買った品々だ。しかし、値段が安いので、時にはハズレがあっても仕方ないと思っている。

ネット通販にカネを使うことについて、「たいした問題ではない」とリーは言う。

これまで長い間、中国は粗悪品を大量生産する国といわれてきた。だが、状況は変わった。賃金が上昇するにつれ、製造業界は品質を競うようになった。中国共産党の指導部は世界に知られるようなブランド品の育成を望んでいる。シャオミ(Xiaomi=小米科技)やファーウェイ(Huawei=華為技術)といった電子機器製品のメーカーはデザインに多額の資金を投入し、形や品質の卓越性を追求している。

しかし、ピンダウダウを通じたショッピングをみると、中国人の多くがまずは価格を念頭に買い物をしており、低価格の商品を供給することが依然として中国経済にとっていかに重要かがわかる。ピンダウダウのアプリを開くと、主要ページには食料品やファストファッション、家庭用品、電子機器などあらゆる類いの商品が驚くほど安い値段で並んでいる。

たとえば、「プレイボーイ(Playboy)」ブランドとされる伸縮性のある男性用ズボンが3㌦弱。約5㌔のコメは4㌦。オオカミの頭の絵が刷り込まれた男性用パンツは4枚1組で2㌦。底に「LOL」(訳注=「大笑いしてしまった」という意味のネット上の略語)と書かれた紫色の飲料水用ポットは3㌦。首にかけ、寝そべってビデオを見ることもできるピンク色のスマホスタンドは1㌦。脂肪を燃焼するための腹部にまく電気振動ベルトは6㌦。送料は、いずれも無料だ。

ピンダウダウで購入した商品に囲まれるリー・ティエンチャン=©2018 The New York Times

ピンダウダウは、顧客にオンライン上の友人を勧誘してほしいと願っている。グループ注文なら割引をする。友人を会員登録するよう勧誘してくれたユーザーには、ご褒美として商品を一つ選んでもらい、それをタダで提供する。アプリに小さなポップアップ画面を表示し、リアルタイムで他の顧客の注文情報を見せて、ユーザーの購買意欲をあおる。みんながいい思いをしているのに、自分だけが何も得ていない、と思わせるのだ。

とんでもなく奇妙な商品、クーポンや割引の数々、簡単な購入手続き。それは実際に買い物をするというより、ショッピングのビデオゲームをしているような感覚になる。

規制当局に提出された申請書類によると、同社はこのネット通販アプリを「コストコ(Costco)<訳注=会員制の大規模な倉庫型卸売り・小売店で、米国に本社がある>とディズニーランドの組み合わせ」と称している。

このピンダウダウは2015年に営業をスタート。急成長し、米シリコンバレーのベンチャー投資会社「セコイア・キャピタル(Sequoia Capital)」や中国のインターネット大手「テンセント(Tencent)」などの強力な支援を得てきた。上海に本拠を置く同社は、新たに14億㌦の資本調達が見込まれ、そうすれば時価総額は200億㌦以上の評価を得るだろう。

しかしながら、扱っているのはほとんどが安い商品だから、販売総額においては競合他社の後塵を拝している。同社によると、採算が取れておらず、昨年は顧客1人当たりの平均購入額が計㌦以下。つまり、それぞれ1㌦余りのもうけにしかならなかった。

「最低レベルの売買だ」。スティーブン・チューは指摘する。上海の投資コンサル会社「パシフィック・エポック(Pacific Epoch)」のアナリストだ。彼は、もしピンダウダウ人気を支えているのが高齢者だとすれば、長期的な成長の見通しは暗いとも付け加えた。

ピンダウダウは、模造品を流通させたとの非難もあびてきた。つい最近は、商標権を侵害したとして米国で訴えられた。

この件について、同社はコメントを拒んでいる。だが、当局に提出した書類では、同社はアプリから直ちに模造品を削除したと述べている。同社の創業者コーリン・ホワンは元グーグル(Google)のエンジニアだが、今年に入って、中国のビジネス誌「財経」に価格と品質についての哲学を披瀝(ひれき)している。

それによると、彼の母親は、ピンダウダウを通じて果物のマンゴー9個を1㌦50㌣で買ったが、2個が腐っていたと不満を漏らした。ところが、母親は相変わらずピンダウダウを利用し続けている。「1㌦50㌣でマンゴーを7個も買えたのだから、何もソンしていないじゃないか」。そう彼は言うのだ。

カン・シア(52)も、おおむね同じような受けとめをしている。彼女は南西部の四川省成都市で引退生活を送っており、ピンダウダウで靴や衣服、その他、「とてもたくさんの品々」を買っている。品質は必ずしも良くない、とも言っている。

今年の春は2回、ハズレの買い物をしてしまった。最初の買い物は、カラフルな布製のパネルに「本物の木枠」がついた5㌦の衣装棚。一度触っただけで、すぐに粗悪品だと気づいた。2回目は花柄のふんわりしたスカートで、黄色いTシャツも一緒に計約6㌦で買ったが、届いたスカートは端が切れていた。

最近、カンは、安いからという理由だけでピンダウダウでの買い物はしなくなった。それでも毎日、アプリは見ているという。

(抄訳)

(Raymond Zhong)©2018 The New York Times

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