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ロシアにとって踏んだり蹴ったりな中国アリババのネット通販

迷宮ロシアをさまよう

外国勢に掘り崩される市場

2016年現在、ロシアの16歳以上の国民のうち70.4%がインターネットユーザーだということです。ロシアには8,400万人のネットユーザーがおり、この数はヨーロッパで1位。西欧で最大を誇るドイツの総人口よりも、ロシアのネットユーザーの方が多いということになります。

これだけネットが普及すれば、ネット通販が盛んになるのも当然です。現時点で、ネット通販がロシアの小売市場に占める割合は5%程度と見られ、これは日本とほぼ同じ数字です。
ただし、ロシアのネット通販は現在、1つの難問に直面しています。ロシア国民が外国のネット通販サイトに直接商品を注文して、買い物をしてしまうケースが増えているのです。図1に見るとおり、ロシアのネット通販に占める「国外取引」の比率が年々拡大しており、2017年の予測値ではそれが37%に及んでいます。

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図1 ロシアのネット通販市場規模の推移(10億ルーブル)

ロシアには、Ozon、Ulmartといったロシア独自のネット通販会社がいくつかあり、当初はAmazon、eBayといった欧米系の外資を寄せ付けませんでした。ところが、2012年に中国アリババ社のAliExpressがロシアのウェブ世界に到来すると、その圧倒的なコストパフォーマンスでユーザーの支持を獲得、わずか2年間でロシア市場のリーダーに躍り出たのです。2017年1月現在、ロシア市場で首位を快走するAliExpressのユニークユーザー数は2,219万人に上っており、2位のOzonの899万人を大きく引き離しています(「ユニークユーザー」とは、決まった集計期間内にウェブサイトに訪問したユーザー数を表す数値で、集計期間内なら、同じウェブサイトに同じユーザーが何度も訪問しても、1ユーザーとカウントされる)。

このアリババのプレゼンスが物を言い、発送数ベースで見れば、ロシア国民が利用している外国の通販サイトの90%がアリババとなっています。ただし、金額ベースでは中国のシェアが52%に下がり、欧米のそれが高まります(図2参照)。欧米の通販では単価の高いブランド品などを購入しているということでしょう。

アリババがロシア向けに展開している通販サイトには、ほかにも、TMALLTaobaoがあります。いずれも、良く出来たロシア語のインターフェイスで、価格もロシア通貨ルーブルで表示されています。しかし、単にウェブサイトがロシア語になっているだけで、アリババはロシア国内には一切投資していません。物流は、ロシア郵便に丸投げです。

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図2 ロシア国民が利用している国外ネット通販の国別内訳(%)

実は、ロシアの現行法では、ロシア国民が個人使用目的で外国の通販サイトから商品を購入する際に、1ヵ月当たりの購入額が1,000ユーロ(約12万円)以下の場合には、関税および付加価値税(日本の消費税に相当し、税率は18%)が課せられないことになっています。ロシアの国外ネット通販取引の99.5%以上が、そうした無税枠に該当するということです。国外ネット通販では、この課税免除の恩恵と、ロシアでの倉庫コストを節約できることから、国内通販に比べ30%ほど利益率が高くなるとされています。その分、価格を低く抑え、ロシア国内業者との競争で優位に立てるわけです。

ちなみに、ロシア国民が国外ネット通販で購入している商品の内訳(金額ベース)は、家電・エレクトロニクス:32%、服:25%、靴:13%、自動車用品:7%、化粧品:6%、家庭用品:3%、スポーツ用品:3%などとなっています。最近ではロシアのどの街に行っても立派なショッピングモールがありますが、豊富な品揃えや安さに惹かれてついアリババでポチってしまうロシア国民の気持ちは、良く分かります。

ロシア政府は様々な商品の国産化を目指しているものの、国外ネット通販により輸入品がどんどん入ってきてしまう。税収も取りはぐれる。ロシアへの投資も発生しない。確かに国民は利便性を享受できますが、ロシア経済にとっては踏んだり蹴ったりです。

ロシアも手をこまねいてはいない

国内業者からの働きかけもあり、ロシア政府は、無税枠を2019年からは500ユーロに、2020年からは200ユーロに引き下げる方針はすでに固めています。最新のニュースによれば、2020年に無税枠を完全撤廃するという、より強硬な案も浮上しているということです。

また、ロシアのネット通販業界にも、新たなトレンドが生じています。最近では家電などの実店舗のチェーン店が勢力を盛り返し、そうした業者がネット販売にも本格的に乗り出すようにもなっています。ネット専業のCitilink、Ozon、Ulmartなどは配送網の拡充で対抗。アパレルのWildberriesは地方配送料金の共通化で消費者に訴求しようとしています。さらに、法人・個人を問わず、売り手と買い手がモノを自由に売り買いできるネット上のプラットフォーム「マーケットプレイス」も成長しています。

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家電量販チェーンもネット通販対応を急ぐ。写真は最大手のMヴィデオの店舗の様子(撮影:服部倫卓)

なお、ロシアでは、医薬品、酒類、ジュエリー、タバコなどのネット通販が、厳しく規制されています。通販業界は、過剰な規制については緩和を求めており、それが実現すれば業界がさらに活気付くことも期待されます。また、これまでロシアのネット通販では、禁止されているわけではないものの、食料品の販売がごくわずかだったため、食料品にも大きな伸び代があります。

もう一つの新たな方向性として、ロシア政府は、ネット通販を通じたロシア製品の外国への輸出を促進する構えを見せています。ロシア独自のネット通販会社を通じた輸出に加え、アリババの浸透を逆手に取り、ロシア製品をアリババのネットワークに乗せて外国に輸出するというスキームも有望視しているようです。