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ホワイトハウスに飛び交う「ハンバーガー?」「ホットドッグ?」 昼食メニューにあらず

ホワイトハウスへ猛ダッシュ 更新日: 公開日:
シャンデリアが輝くイーストルームは「宴会場」とも呼ばれ、数々の大きな式典や会見が行われてきた部屋。中心の演壇を挟み、右側には、建国の父ジョージ・ワシントン大統領、左側にはそのファーストレディーのマーサ・ワシントンの肖像画が掲げられている=ワシントン、ランハム裕子撮影

数々の重要イベントの舞台

今日も私は走っている。猛ダッシュでゴールする先は、時に会見室ではないこともある。例えば、イーストルームだ。

「イーストルーム」は、ホワイトハウスの中で一番大きな部屋で、文字通り、ホワイトハウスの東側に位置する。大きな3つのシャンデリアがきらめくこの豪華な部屋で、勲章授与式や記者会見、法案署名式など、数々の式典やイベントが行われてきた。

鏡に映るシャンデリアを取り込んだオバマ大統領の写真。手前はキャメロン英首相(当時)=2015年1月、ワシントン、ランハム裕子撮影

イーストルームで撮影する際に重要なのは、どんな「演出」でイベントが行われるかを知っておくこと。どこに演壇があるか、どこから大統領が入退場するか、どれくらい撮影スペースがあるか、どのような照明かといった詳細だ。とはいえ、イベントにより異なるため、それは開けてみてのお楽しみ。「本番」の数時間前にあるプリセットで初めてドアが開き、会場の詳細を把握することができる。

イーストルームでのプリセット。およそ10分という限られた時間内で、場所取りと、カメラ、音声などの設定をする。プリセット後の会場は「本番」まで立ち入り禁止となる=ワシントン、ランハム裕子撮影

フォトグラファーにとっての「プリセット」とは、撮影の場所取りと、照明の確認、または機材の設定などである。大統領の背後や通路にリモコンで撮るためのカメラを仕掛けたり、どの閣僚が出席するのかを座席にある名前で確認したりするのもこの時。大統領が演説をする演台や廊下など、本番では立ち入り禁止エリアにずかずか入り、せっせと準備をする。

大統領がこの廊下を歩きイーストルームへ入場するため、リモートで撮影するカメラをこの位置に設定することがある=ワシントン、ランハム裕子撮影

「ハンバーガー」「ホットドッグ」は部屋の使い方

プリセットの直前にきまって飛び交うやりとりがある。それは、「ハンバーガー?それともホットドッグ?」だ。「ハンバーガー」とは、長い長方形の形をしたイーストルームが、横長に使われる配置のことで、横長の壁沿いにステージが設置される。「ホットドッグ」とは縦長で、入って一番奥に演壇が置かれる。この言葉の使い方は、オバマ政権時代に、ロイターのフォトグラファーが発案し、以来、カメラ担当やフォトグラファーの間での「シークレット・コード(隠語)」として使われるようになった。とてもアメリカンなこの表現は、ホワイトハウスのプレスの中で日常語となっている。

2017年2月にカナダのトルドー首相がホワイトハウスを訪れた時の共同記者会見。会場を縦長に使い、一番奥に演台を置く「ホットドッグ」型=ワシントン、ランハム裕子撮影

「演出」にあたってカギとなる要素は、ハンバーガーかホットドッグかという配置だけではない。大統領の登場や退場の仕方、演壇上でのパフォーマンス、そして招待客や官僚を何人招待し、どこに座らせるかまで、多岐に渡る。例えば、ステージの後ろにある大きなドアを開放し(構造上、ハンバーガーの時のみ可能)、大統領が赤絨毯の上を観衆に向け歩いてきて演台に上がることがある。ホワイトハウスを訪れる各国首脳と歩く場合は、どのような距離や表情、ジェスチャーをしながら共に歩くかが注目ポイントだ。

2018年7月にイタリアのコンテ首相がホワイトハウスを訪れた時の共同記者会見。横長の部分に演台を置く「ハンバーガー」型=ワシントン、ランハム裕子撮影

首脳のしぐさを間近で観察

今年4月、フランスのマクロン大統領がホワイトハウスを訪問し共同会見が行われた時のこと。それぞれマイクが取り付けられた2つの演壇は通常よりも非常に近い距離に並べられた。その近さは一目瞭然だった。すぐに手が届く距離だったせいか、何度も交わされた固い握手に加え、ハグもして見せた。最後には、トランプ大統領とマクロン大統領が顔を近づけてカメラにポーズしたため、「仲良し画像」をゲットすることができた。その仲良しレベルはさながら女子高生の自撮りツーショット。今までも各国首脳と大統領の握手シーンを写真に収めてきたが、こんなに顔が近づいたのは初めて。マクロン大統領の手を握るトランプ大統領の手に、ぎゅっと力が込められているのも見える。会見後はマクロン大統領がトランプ大統領の肩に手を回し、二人はラブラブのまま赤絨毯の上を退場した。

2018年4月にホワイトハウスを訪れたフランスのマクロン大統領とトランプ大統領が共同会見で最後にカメラに向かってポーズし、「ブロマンス」をアピールした=ワシントン、ランハム裕子撮影

対照的に、その約1ヶ月後にホワイトハウスを訪れたドイツのメルケル首相との共同会見では、2つの演壇の距離は遠くなっていた。去年の春にホワイトハウスを訪問した時の演壇の距離はもっと近かったのに(マクロン大統領ほどではないが)。ただ、その時のメルケル首相の表情は固かった。こちらへ向かって赤絨毯を歩いた際、話しかけるトランプ大統領に反応することなく、前だけを見て進む姿が印象的だった。本番で、本人らがどのようなパフォーマンスを繰り広げるかは別としても、演出の細かいところの一つひとつに意図があるものだ、とよくいわれる。

2017年3月、ドイツのメルケル首相がホワイトハウスを訪問した際、トランプ大統領と一緒に廊下を歩き、共同会見の演壇に上がった。メルケル首相の表情は終始こわばっていたのが印象的だった=ワシントン、ランハム裕子撮影

トランプ政権になってから、演出は多様化している。先月イーストルームで行われた労働者とのイベントでは、演説の後、コの字型に並べられた長机に沿って、トランプ大統領と娘のイバンカがマイクを持って会場内を歩き、労働者やCEOと握手をしながら紹介して回るというものだった。トランプ大統領は司会者役。その横には美人アナウンサー、イバンカ。まるでテレビ番組を見ているようだった。

2018年7月、労働者評議会を設立させる大統領令の署名式典が、企業幹部や労働者を迎えイーストルームで行われた。マイクを持ったトランプ大統領が、娘のイバンカと共に挨拶して回った=ワシントン、ランハム裕子撮影

ホワイトハウスで写真を撮るということは、毎回同じ作業を繰り返しているということではない。演出以外にも、大統領の表情や各国首脳とのやり取り、記者からの質問は毎回異なるということは言うまでもない。毎回何が飛び出すかわからない。でもこのスリルはフォトグラファーにとって、いい意味でのチャレンジでもあり、エキサイトでもある。