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ロシアから見てもやっぱりヘンだよトランプ関税

迷宮ロシアをさまよう
ノボリペツク冶金コンビナートの博物館(撮影:服部倫卓)
ノボリペツク冶金コンビナートの博物館(撮影:服部倫卓)

ロシアにとっても重要な鉄鋼業

米国のトランプ政権が国家安全保障を理由に導入した鉄鋼25%、アルミニウム10%の関税は、世界に大きな波紋を引き起こしました。
鉄鋼業はロシアにとっても基幹産業の1つです。2017年現在、ロシアは世界第5位の鉄鋼生産国であり、世界第4位の鉄鋼輸出国です。
ちなみに、ロシアの鉄鋼輸出の5~6%ほどが、米国向けとなっています。一方、米国側から見れば、2017年にロシアは米国の鉄鋼輸入相手国として第5位であり、8%のシェアを占めていました。

鉄鋼「半製品」とは

ただし、一口で「鉄鋼」と言っても、中身は千差万別であり、少なくとも「半製品」と「完成鋼材」に分けて考える必要があります。半製品とは、スラブ、ビレット、ブルームなどの鋼片のことであり、それ自体が最終的な商品なのではなく、それをさらに圧延(薄く延ばしたり形を整えたりすること)して完成鋼材に仕上げるための中間素材にすぎません。原料と完成品の間くらいの位置付けなので、半製品と呼ぶわけですね。当然、半ば原料なわけですから、商品としての付加価値は低くなります。
実は、ロシアの鉄鋼輸出の特徴は、半製品の比率がきわめて高いことです。2012~2017年のロシアの鉄鋼輸出の51%が半製品でした。ロシアは世界最大の鉄鋼半製品輸出国であり、世界の半製品輸出の3割ほどはロシアによるものです。
世界の主要国の中で、こうした半製品中心の特異な輸出構造を示しているのは、ロシアのほかにはウクライナ、ブラジルくらいです。この3国には鉄鉱石の大産出国であるという共通点があり、また鉄鋼メーカーが国内の鉄鉱石権益を保有しているケースが少なくありません。これは典型的な「資源立地型」産業であり、自前の安価な鉄鉱石資源を持つがゆえに、加工度・付加価値の低い半製品を輸出するというビジネスが成り立つのです。日本のように、原料を輸入して、生産性や品質で勝負という鉄鋼業とは、似て非なるものです。

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積み出しのためにウラジオストク港に運ばれる鉄鋼半製品。手前の棒状のものがビレット、奥の板状のものがスラブ(撮影:服部倫卓)

まさか半製品までもが・・・

ロシアで鉄鋼半製品の輸出量が多いもう一つの理由は、ロシアの鉄鋼大手が欧米に「単圧メーカー」を保有している点にあります。単圧メーカーというのは、高炉や連続鋳造機などの上流部門の設備は備えておらず、スラブなどの半製品を外部から購入して、それを圧延することに特化した下工程の生産者のことです。ロシアの鉄鋼大手は、欧米にある自社の単圧工場向けに、半製品を大量に供給しているわけです。
たとえば、ロシアのノボリペツク冶金コンビナートは、米国に2箇所の単圧工場を保有しています。2018年に入り、トランプ政権による高関税の導入が取り沙汰されるようになっても、同社は当初、自分たちのビジネスモデルに自信をのぞかせていました。欧米に半製品を輸出し、それを現地の単圧工場で加工して販売するビジネスを続ける限り、保護主義の標的になるようなことは考えにくいという認識がありました。むしろ、25%関税が完成鋼材にだけ課せられるなら、米国で現地生産を行っているメーカーにはかえって追い風となるという期待も、ロシア鉄鋼業界にはありました。
しかし、2018年1月に米商務省がトランプ大統領に提出した報告書を紐解くと、そこにはすでに不気味な記述がありました。完成鋼材のみならず、半製品の輸入も問題視する内容になっていたのです。実は、米商務省は2001年にも同様の報告書を出しており、その際には半製品の輸入は米国の安全保障にとって特に脅威にはならないという認識が示されていました。ところが、今回の報告書では一転して、半製品の供給をロシアやブラジルのような国に依存している状況は安全保障上重大な問題だという姿勢にシフトしています。結局、トランプ大統領が3月8日に署名した行政命令により、完成鋼材だけでなく半製品も25%関税の対象になりました。トランプ大統領は商務省報告書に示されていたいくつかの選択肢の中から、最も過激なものを選択したと言えます。
ロシアの鉄鋼大手のうち、ノボリペツクやエブラズは、今回の米政府の措置では米国企業が個別に例外措置を取り付けられることに着目し、スラブを関税の対象外とするよう米当局に申し入れを行いました。ノボリペツクでは、半製品への25%関税で在米工場の操業がままならなくなれば、現在米国で9,000人抱えている雇用も保証できなくなると、米当局にアピールしています。一方、セベルスターリ・グループはニューヨークの国際商事裁判所に、25%関税は違法であると主張しそれを取り消すことを求める訴えを起こしています。

米国の得になるのかも疑問

どんな国でも、普通は、自国で生産したい付加価値の高い商品に高率の関税をかけ、原料や資源にはなるべく関税をかけないものです。すでに述べたように、鉄鋼半製品は半ば原料のようなものなので、半製品はどんどん輸入し、それをもとに付加価値の高い完成鋼材を作ったり、それを使ってさらに高度な機械製品などを作ればいいわけです。半製品にまで25%の関税を課すトランプ路線は、米国自身の経済的利益という観点から見ても、常軌を逸したものと言わざるをえません。
ちなみに、25%の関税が上乗せされたとしても、ロシア産スラブの価格は米国市場の相場と比べてなお安く、ロシアから米国へのスラブ供給は従来どおり続けられるだろうという見方が強まっています。鉄鋼業の設備投資は数十年をかけて投資を回収するものなので、トランプ政権の一過性の政策に踊らされて、米国で高炉の建設などが進むとは思えません。結局、米国内の粗鋼生産は増えず、単に製品価格が25%高くなり、米国の鉄鋼ユーザーが不利益を被るだけかもしれません。