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トランプは政治劣化の原因ではない、結果だ

ことばで見る政治の世界
コミーFBI長官を解任したトランプ大統領に対する抗議のため、ホワイトハウス前に約200人が集まった。プラカードには「トランプを弾劾しろ」=2017年5月、ランハム裕子撮影

苦しい時代には、人はやはり過去にヒーローを求めてしまう。

アメリカの著名な歴史家ロバート・ダレクが最近の著書で取り上げたのは、大恐慌と第2次世界大戦を乗り切った第32代大統領(1933~45)のフランクリン・ルーズベルトだった(Robert Dallek, “Franklin D. Roosevelt A Political Life”)。

アメリカ大統領は、初代ワシントンが2期で引退したことから、2期までというのが長く不文律だった。ルーズベルトだけが例外で、国難を理由に4回当選している。戦後は憲法が改正されて3選以上が禁じられたので、ルーズベルトの記録は不滅となった。任期が長いだけではない、過去の偉大な大統領を選ぶ歴史学者のアンケートでは、常にトップ3に入る。 

フランクリン・ルーズベルト大統領=ロイター(米議会図書館提供)

ルーズベルトは第2次大戦末期、ドイツが降伏する直前の4月12日に病死した。ダレクの伝記は、その突然の死を悼むニューヨーク・タイムズ紙の引用から始まる。

「今から100年後、人々はひざまずいて神に感謝するだろう、あの時代にルーズベルトがホワイトハウスにいてよかったと」

あきらかにトランプ時代のアメリカを意識した書きぶりだろう。

100年後どころか、10年後、いや1年後には、「人々は神を呪うだろう、なぜあの時代にトランプがホワイトハウスにいたのか」と、言わんばかりである。 

トランプ大統領をめぐるニュースは、すべてを巻き込む大渦のようだ。

9月には、調査報道で有名なワシントン・ポスト紙のボブ・ウッドワードの「恐怖―ホワイトハウスのトランプ」が出た。大統領が間違った政策をしないように、幹部が机から書類を隠したが、大統領が気づかなかったとか、外交政策には「小学5、6年生の理解力しかない」と言われている話などが盛り込まれた。匿名の高官がニューヨーク・タイムズ紙に寄稿、政府内には、日々努力している「抵抗勢力」があり、自分もその一人だと告白した。

ボブ・ウッドワード氏の著書「FEAR」(Sonny Figueroa/The New York Times)

トランプ批判派は、こうした暴露を追い風に、11月の中間選挙で連邦上下両院の多数を取り戻そうと躍起である。トランプを辞めさせればすべてよくなる、と言わんばかりである。

 だが、そういう話なのだろうか。

「トランプがいなくなっても、アメリカ政治は変わらない。なぜならば、トランプは原因ではなく、長年にわたってアメリカ政治が劣化した結果なのだ」

これは、アメリカとドイツの外交関係に携わってきた、あるドイツ人の専門家から聞いたコメントだ。私自身も20年近くアメリカ政治を観察してきて、強く共感する。

2018年8月、ホワイトハウスで大統領専用ヘリへ向かうトランプ米大統領=ワシントン、ランハム裕子撮影

トランプだけがひどいのではない。与党の共和党を見ても、野党の民主党を見ても、トランプに代わる指導者や、新たな魅力的な政治の理念は出てきていない。そういう中で、すべての話題がトランプにハイジャックされている。これは相当あやういことではないか。

 なぜアメリカは大統領の暴走をなぜ止められないのか。アメリカの外交専門誌「フォーリン・アフェーアーズ」最新号(2018年9・10月号、英文)に、その疑問に正面から答える論文が掲載された。アメリカン大学のジェームズ・ゴールドガイアー教授とジョージタウン大学のエリザベス・サンダース准教授の共著論文で、タイトルは「拘束なき大統領制」だ。

彼らの主張のポイントは次の通りである。

・共産主義と対決していた冷戦時代には、アメリカの安全保障に関するコンセンサスがあり、上下両院の外交員会や軍事委員会を舞台に、高い専門知識を持つベテラン議員たちが党派を超えて協力し、大統領の外交政策をチェックしていた。

・冷戦が終結すると、一方では国内政治の二極化が始まり、議会が超党派で行動することが少なくなった。その一方、湾岸戦争、ナイン・イレブン、アフガニスタン戦争、イラク戦争と相次ぐ危機で、大統領権限が強化され、議会が介入する手段が細っていった。

・行政府においては、ホワイトハウスに権限が集中する。ブッシュ・シニアのときに50人に過ぎなかった国家安全保障会議のスタッフは、大統領ごとに倍々ゲームで増え続け、オバマ政権で400人に。ホワイトハウスが肥大化すると、各省庁の権限は低下し、行政府内のチェックも効かなくなる。政治任用の大統領側近が幅を利かし、専門知識を持つ官僚は疎んじられる。役所の士気も下がりがちだ。

・こうした制度の劣化はトランプのはるか以前から始まっていた。他人の意見に耳を貸さない大統領にとって、これほどおあつらえ向きのシステムはなかったろう。

 

ここまで読んで来て、勘の良い人はもう気づいただろうが、これはアメリカだけの話ではない。議会のチェック機能の低下、官僚組織の劣化は、日本を含む先進民主主義諸国の共通の病理である。著者たちは、論文の最後にアメリカ大統領制のチェック機能を復活するため、議会、官僚制を再活性化しなければ、たいへんなことになると警告する。ではどうするのか。中国の台頭がアメリカのエリートたちの危機感を蘇らせ、政治システムを「再起動」させるかもしれないと、彼らは期待を寄せるが、そこは、私は疑問である。

システムだけの問題ではない。先進民主主義国の政治文化において、貴重なものが失われてしまったと思うからだ。その問題は、改めて次回のこの欄で取り上げたい。