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モスクワ地下鉄の快進撃が止まらない!

迷宮ロシアをさまよう
モスクワ地下鉄で見かけたサッカークラブ「CSKAモスクワ」のラッピング車両。CSKAでは最近、新しいホームスタジアムが完成しており、その名も「CSKA」という最寄り駅も出来たので、おそらくそれを記念したものだろう。なお、CSKAにはかつて本田圭佑選手が所属したほか、このほどベガルタ仙台から西村拓真選手が移籍した(撮影:服部倫卓、以下同様)。
モスクワ地下鉄で見かけたサッカークラブ「CSKAモスクワ」のラッピング車両。CSKAでは最近、新しいホームスタジアムが完成しており、その名も「CSKA」という最寄り駅も出来たので、おそらくそれを記念したものだろう。なお、CSKAにはかつて本田圭佑選手が所属したほか、このほどベガルタ仙台から西村拓真選手が移籍した(撮影:服部倫卓、以下同様)。

急激な拡張

近年、都市機能の充実が目覚ましいロシアの首都モスクワ。中でも、地下鉄が質・量ともに急成長しています。そこで、今回と次回の2回に分けて、モスクワ地下鉄の快進撃について語ってみたいと思います。今回はモスクワ地下鉄の全体像についてお話しし、次回は最新のトピックスを取り揃えてお届けします。

ちなみに、地下鉄を擁するロシアの都市をその開通順に挙げてみると、モスクワ、サンクトペテルブルグ、ニジニノヴゴロド、ノヴォシビルスク、サマラ、エカテリンブルグ、カザンの7都市となっています。このほか、オムスク、クラスノヤルスク、チェリャビンスク、ペルミ、ロストフ、ウファでも地下鉄の整備計画がありますが、いずれも難航しているようです。

一連の地下鉄の中でも、別格の存在と言えるのが、モスクワ地下鉄です。モスクワに最初の地下鉄路線が開通したのが1935年で、独裁者スターリンの治世下でした。現在、モスクワの地下鉄は公営企業「モスクワ地下鉄」社が一元的に運営しています。路線ごとにシンボルカラーが付けられている点は、東京など世界の大都市の地下鉄と同じです(路線図参照)。

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モスクワ都市計画局のウェブサイトには、モスクワの地下鉄が1年ごとにどのように拡張してきたをインタラクティブに表示できるページがあり(https://stroi.mos.ru/metro)、歴史的な発展経緯が良く分かる。これはそのページで2018年現在の路線図を表示したもの。
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筆者は10年ちょっと前に、モスクワ地下鉄と東京の地下鉄の主要指標を比較する作業を試みたことがありました(東京は、東京メトロと都営地下鉄のデータを合計)。その時、確認できたのは、モスクワと東京では地下鉄の規模がほぼ同じであるということでした。上の表に見るとおり、2007年の時点では、路線数、営業キロ数ともほとんど同じでした。

ところが、その後の10年あまりで、東京はモスクワに大きく水をあけられました。この間、東京で増えたのは、副都心線の1路線、12km、11駅だけ。それに対し、表に見るように、モスクワも増えた路線は1つだけですが、既存路線の延伸工事が活発に進められており、営業キロ、駅数ともに大幅増を達成しています。

「採算面はどうなのか?」という疑問もなきにしもあらずですが、ここに来てのモスクワ地下鉄の急拡大は、注目すべき現象でしょう。なお、表のデータは、モスクワ地下鉄の運営下にあるモノレールおよびモスクワ中央環状線の数字をひとまず除外してありますので、それを含めれば現時点でモスクワ地下鉄は16路線、438km、259駅とさらに規模が大きくなります。

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地底に続くかのようなエスカレーター。

モスクワ地下鉄のあれこれ

前掲の表に見るとおり、現時点で東京の地下鉄は路線数・営業キロ数でモスクワを下回っていますが、駅の数では東京の方が上です。これは、駅間の距離が東京では短く、モスクワでは長いことを意味します。実際モスクワの地下鉄に乗っていると、「今の1駅、東京で言えば3駅分くらいあったよな」と思うことがよくあります。

また、モスクワ地下鉄の特徴の一つは、地下のかなり深いところを通っている点です。さすがは、第二次大戦中に防空壕として使われ、冷戦期には核シェルターとしての利用が想定されていただけのことはあります。「勝利公園」という駅に至っては、地上からの深さが84メートル。東京の地下鉄で一番深い駅は大江戸線の六本木駅で、42.3メートルだそうですから、モスクワの最深駅はその2倍近くあるわけですね。

モスクワの地下鉄を初めて利用する人は、まるで地底に下りていくかのような長大なエスカレーターに、圧倒されることでしょう。エスカレーターの速度も日本よりかなり速いのですが、せっかちにもこの速いエスカレーターを駆け下りていく人もいるので、立っている人は右に寄って左側を空けるのが基本ルール(大阪方式ですね)。

料金の支払は、基本的に、磁気カードを窓口で買い、それを自動改札機にかざして入場する形。2018年9月現在の料金は、1回乗車カードが55ルーブル(約90円)、20回乗車カードが747ルーブル(1回当たり約61円)で、回数が多くなるほど割安になります。もっとも、モスクワでは2013年に「トロイカ」という交通系ICカードが導入され、こちらは1回36ルーブル(約59円)で地下鉄に乗車できるとあって、最近ではトロイカを利用する乗客が圧倒的に多くなっているようです。

筆者が思うに、モスクワ地下鉄の一番良いところは、そのシンプルさですね。乗車距離にかかわりなく、また列車を乗り換えても、同一料金。東京の電車だと、地下鉄と私鉄の乗り入れ、快速の運行、路線の分岐などがあって、どの列車に乗っていいのか迷うことがあります。それに対しモスクワでは、各駅停車の列車が単純に上下線を行き来しているだけですから、何も考えずに来たやつに乗ればいいわけです。ただし、モスクワ地下鉄も、最近の拡大に伴い、路線が若干複雑化してきた印象もあります。

このように、シンプルなダイヤ編成になっているおかげか、モスクワの地下鉄は運行間隔が短い! 平均間隔は2分30秒で、ラッシュ時にはそれが1分30秒になるといいますから、安全性が大丈夫だろうかと逆に心配になるくらいです。1本乗り遅れても、次の電車があっという間に来るので、ストレスを感じません。

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交通系ICカード「トロイカ」には、何とIC指輪バージョンもある。

モスクワ地下鉄への不満

もちろん、筆者にはモスクワ地下鉄についての不満もあります。

筆者がモスクワの地下鉄で不便だなと思うのは、同じ駅であっても、路線によって呼び名が違うケースが多いことです。乗り換え可能な一つの駅なのに、緑色の線ではトヴェルスカヤ駅、紫色の線ではプーシキン駅、灰色の線ではチェーホフ駅というのは、勘弁してほしいものです。年に2~3度モスクワに行く程度の筆者は、なかなか覚えられません。

もう一つ、モスクワ地下鉄で嫌なのは、車内がものすごくうるさいことです。実は、ロシアの地下鉄車内の騒音レベルは90~110デシベルにも達し、世界でも最もうるさい地下鉄の一つと言われています。ロシアでも、新しい路線を走る新型車両はだいぶマシなのですが、旧路線・旧車両は騒音が深刻なままです。日本ではレールの継ぎ目を溶接して騒音を低減しているので、地下鉄車内の騒音は最大でも80デシベル程度に抑えられているということです。それに対し、ロシアの地下鉄レールはそういったきめ細かい処理をしておらず、おそらく車両の重量も重く、また窓を開けっ放しにして走っていることが多いので、どうしても音がうるさくなります。

モスクワの地下鉄でも、イヤホン・ヘッドホンで音楽を聴いている人は多くなりましたが、あの環境では多くを望めないでしょう。筆者は先日、モスクワ地下鉄で携帯音楽プレーヤーを試聴してみましたが、音が漏れにくいカナル型のイヤホンを用い、ノイズキャンセル機能をオンにしていたにもかかわらず、周囲の轟音に邪魔され、音楽の細かいところはまったく聴き取れませんでした。こうした環境では必然的に、激しい音楽を大音量で聴くということになってしまいます。ロシアでは地下鉄での音楽プレーヤー音量の上げすぎが原因で難聴になる若者が増えており、地下鉄での音楽プレーヤーの使用を禁止すべきだと唱える専門家もいるという話を聞いたことがあります。