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「不適切なふるまい」の言い回し、ときに犯罪行為を意味することも

ニューヨークタイムズ・マガジンから
Derek Brahney/The New York Times

少し前まで、「不適切な(inappropriate)」という単語は、結婚式に参列する際に白い服を着るといった「ふさわしくないこと」を表す言葉だった。社会的マナーや儀礼から少し逸脱した行為に対して使われた。しかし最近では、警告まで意味するようになった。この単語を自分の名前とともに耳にするようなことがあれば、心臓が止まりそうなほど最悪の事態を想像するだろう。恥ずべき行為が発覚し、解雇や辞職に直面し、世間の激しい嫌悪感を呼び、犯罪者として公にさらされるのだ、と。

仕事で接した女性たちに「不適切な」行為をしたとして告発された有名人のうち、最新のケースが俳優のモーガン・フリーマンである。性的なコメントやジョークのほか、下着をはいているかと聞きながら女性のスカートを何度もめくろうとしたなどの行為があったとされたが、こうした行為を「不適切」と呼ぶのが適切だとは思えない。一方、フリーマン側はこう言った。「恐ろしい性的暴行事件と見当違いのお世辞やユーモアを同一視するのは正しくない」。確かに、同一視すべきことではないが、誰が同一視しただろうか?

「不適切な」という単語は、まるでフリーサイズの地味な下着のように、ジョークから暴行まであらゆることを内包できるという不明確さゆえに使いやすく、対象を重視することも軽視することも可能だ。あまりにも頻繁に、ある特定の不快な行為(主に性的な行為、時に収賄や汚職)を表すという厄介な使われ方をしているので、地味な封筒の中に辛辣なメッセージが隠されているかのような言葉になりつつある。

悪質でないことを悪質な印象にする場合もある。有力者や地位のある者が、周囲の人間が犯した「重大な」ミスを苦々しく言い表す際に、この単語を口にするのを聞くことも多いだろう。女性の「不適切な」服装、従業員の「不適切な」発言、コメディアンによる「不適切な」政治家批判などだ。単語の曖昧さを便利に使うことで、自分より低い地位にあることを思い知らせてきたのだ。

幼い子どもをもつ親として、あることを実際に口にすることなく伝えなくてはならない必要性はよくわかる。私は、テレビを消したり、ある歌を飛ばして次に進んだりする際の説明に、この言葉を使っている。時には、子どもが理解できないような複雑な説明はやめてこの言葉で済ませることもある。しかし、実際には、きまり悪さに耐えられないというのが本音だ。この単語は、「赤裸々な話はしたくない」とやんわり伝える引き延ばし工作であり、暗号なのだ。

この言葉が職場で頻繁に聞かれるのも、同じ理由なのかもしれない。リスキーな発言をすることなく、あることを受け入れがたいとみなすことができるからだ。倫理的にも、法的にも、責任を免れることができる。あることをこの言葉で包み隠すことで、本当の意味で受け入れる決断を先延ばしでき、問題への対応をかつてないほど先送りできるかもしれないのだ。だが、職場でのハラスメントをこの言葉で表現するのは、すべてを故意ではない間違い、あるいは悪く受け取られてしまったジョークのように見せ、被害者の側がお堅すぎて、絶対的なものではない息苦しいルールにこだわっているのかもしれないと示唆してしまう。

フリーマンやほかの男性の不適切な行為を告発した女性のうち、いったい何人が実際にこの単語を使っていたのだろうか?

5月に「グラマー」誌に「セクシュアルハラスメント、性的暴行、性的不品行で告発された男性有名人」のリストが掲載され、告発した女性の多くが、このような曖昧で上品な単語を使ったことはほとんどないことがわかった。

この単語は、後から行為を表現する時にのみ使われているのだ。行為が公になった後、企業が解雇や停職、上映予定の映画のキャンセルを決定した後、対応がとられ誰も問題を調査しようとしなくなった後、である。私たちはいつも、婉曲表現や常套句なしに、何が起こったのか多くを語ることができずにいる。このことは、私たちが抱える難しさとは問題そのものよりも、この問題において求められる「正しいこと」の複雑さに、関係しているのかもしれない。

(カリーナ・チョカーノ、抄訳 河上留美)©2018 The New York TimesCarina Chocanoロサンゼルス在住のライター。『You Play the Girl』の著者で、ニューヨークタイムズ・マガジンの寄稿記者