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斬新すぎる投手起用、実は綿密な計算 常識の真逆をいくレイズの投手起用

Insight 世界のスポーツ
6月22日のヤンキース戦に「オープナー」として登板したレイズのスタニク=AP

6月7日、レイズの本拠、フロリダ州で開催されたマリナーズ戦。一回表、まっさらな「先発」のマウンドに立ったのは、普段は終盤を任せられるレイズの右腕ライン・スタニクだった。1死満塁としたが、160キロ近い速球を武器に後続を抑えた。ベンチに戻るとケビン・キャッシュ監督にねぎらわれ、一回無失点でお役ご免となった。

二回からは先発経験のあるオースティン・プルイットが登板。予定通りの継投だったが、7イニングを投げて5失点。試合は4-5で敗れた。

大リーグ30球団で、この継投策をするのは今のところはレイズしかいない。その戦術を、チームは「Opener(オープナー:最初に投げる人)」と呼ぶ。

大リーグで投手の分業制は確立されていて、先発投手が最低6イニングを投げ、その後に速球派の救援投手を次々と投入していくのが、理想の継投策だ。

レイズのやり方は、その真逆。突拍子もなく見える一手は、綿密な計算があった。それは、一般的に点が入りやすい、と言われる初回を無失点でしのぐ確率を上げるためだ。

先発投手はペース配分を考えて最初から全力投球はしにくい。近年は、1、2番に強打者を並べる打順が定着していることもある。大リーグ公式サイトによると、7月24日時点での今季イニング別失点数で、最多は一回の1675点。一回に全力投球できる救援投手をぶつけ、無失点で切り抜ければ試合は有利に運べる。レイズにとっての答えが、オープナーだった。

苦しい台所事情も

捕手だった現役時代の経験を生かし、チームを率いるレイズのキャッシュ監督=AP

先発陣の層の薄さをカバーする、というレイズの苦しい台所事情もある。米メディアによると、今季開幕時のチーム総年俸は30球団中29位の6960万ドル(約77億円)。1位サンフランシスコ・ジャイアンツの3分の1にも届かない。最低5人は必要とされる先発投手で、レイズで計算できるのは右腕クリス・アーチャーら3人だけだった。この3人が先発しない試合に限り、状況に応じてオープナーを仕掛けた。
初めて試したのは5月。昨季まで救援だけで570試合に登板したセルジオ・ロモを、2試合連続で約1イニングずつ「先発」させた。2014年に抑え投手としてジャイアンツをワールドシリーズ制覇に導いた35歳は期待に応え、2試合とも無失点に抑えた。

開幕前は最下位予想が圧倒的だったチームは、現在51勝50敗で地区3位につける。球団によればオープナーを起用した試合は8勝12敗だが、チーム防御率は大きく改善したという。5月19日以前は30球団中22位の防御率4.43だったが、同日以降はメジャートップの3.15だ。

斬新すぎる継投策は、一部の関係者に興味を持たせた。一方で、批判する声も多い。エンゼルスの内野手コザートは「3打席を使った(先発との)駆け引きがなくなるし、球界をだめにする」と批判する。

当のレイズはやめる予定はない。キャッシュ監督は「効果があると思ううちは続ける」と断言。今季5試合に「先発」し、11セーブを挙げるロモも胸を張る。「全球団が採用する作戦ではない。でも球界に新しい選択肢をもたらした。何より、自分はものすごく楽しい」(文中敬称略)