凍った湖の一角に漂う霧の中から、ピンクの水泳帽が現れた。零下30度。薄い氷が漂う水面をかき、水着姿の女性が泳いでくる。25メートルを泳ぎ切ると両手を上に突きだし、「超気持ちいい!」と叫んだ。
ロシア極東ハバロフスクから車で約1時間のドラガ湖で1月中旬、冬季水泳大会が開かれた。厚さ70センチの氷をチェーンソーで切り抜き、長さ25メートルの臨時プールをつくった。水温は1度前後。霧はプールから蒸発した水蒸気が急に冷えてできた。参加したのは25078歳の40人余り。ピンク帽のリュドミラ・ジュラブリョバ(78)は70歳で水泳を始め、今回初めて出場した。「来年は200メートルに挑戦する」
大会は今年で5回目だ。低温で筋肉が硬直する恐れがあるため、浮輪を持った救護隊員が選手の横を常に歩く。体を温めるための簡易サウナもあった。200メートル競技では9人のうち3人が棄権。アントン・トレチャコフ(37)は「100メートルあたりで寒さを感じ、泳ぐのをやめた。すぐやめる勇気も必要だ」。
ロシア正教会の洗礼祭で、凍結した川や海で沐浴する伝統がロシアにはある。全土には40万人以上の愛好家がいるという。昨年にはロシア冬季水泳連盟もできた。会長のコンスタンチン・シデンコ(64)は「特に青少年の心身を鍛えるには効果的だ」と話す。
ロシアはアウトドアスポーツが好きなお国柄だ。生活が豊かになったこともあり、欧米で人気のスポーツが盛んで、冬でも当たり前のように楽しんでいる。
外国人にも魅力アピール
極東カムチャツカの顔、アバチャ火山を望むハラクティルスキー海岸。冬の太平洋から激しい波が次々と押し寄せ、水しぶきを上げている。雪景色の中をアントン・モロゾフ(34)がサーフボードを持って現れた。50メートル沖で待つこと10分。波をとらえると素早くボードの上に立ち、左右に小気味よくターンした。
モロゾフは代表経験もあるロシア・サーフィン界の第一人者。天気が良ければ冬でも週3回は波乗りを楽しむ。ただ、寒い日は気温が零下20度、水温も零下2度。厚手のウェットスーツやマスク、手袋、ブーツを着用する。それでもモロゾフは冬のサーフィンが好きだ。「空気が澄んでいるので日の出や火山がきれいに見える。夜明け前から楽しんでいるよ」。実はカムチャツカの波は、今では世界でも知られた存在だ。6メートルの大波も珍しくない。
凍った海や湖もロシアのスポーツ好きには広大な「氷のグラウンド」だ。極東ウラジオストクで2月下旬に開かれた第2回氷上マラソン大会。日本人や米国人を含め700人以上がハーフマラソンや10キロなどで競った。女子の部優勝のナタリヤ・セルゲイワ(32)は「コースは飛行場の滑走路みたい。遠くの雪景色も美しく、とても気持ちがよかった」
氷上を除雪してつくったコースは約5キロ。多くの選手は靴底に滑り止めがついたスパイクシューズを履いた。それでもハーフの優勝タイムは1時間13分とかなりのハイペースだ。外国人をロシアに引きつけるきっかけにもなる。東京から来た上村亮太(44)は昨年もシベリア・バイカル湖の氷上マラソンに参加した。雄大な自然や素朴な料理に魅了され、「もっとロシアを体験したくなった」。
(文中敬称略)