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韓国で社会的企業の成果を貨幣価値に換算する試みが広がる

World Now 更新日: 公開日:
「社会的価値研究院」のナ・ソクグォン院長=2026年5月、東京・大手町、秋山訓子撮影

韓国では、ビジネスの利益も出しつつ、社会課題の解決をめざす「社会的企業」が社会にもたらす価値を、貨幣換算する試みが始まっています。なぜ、どのように行っているのか、専門家に聞きました。

企業としての利益を確保しつつ社会課題の解決もめざす「社会的企業」。そんな企業が実際に社会にもたらす価値をお金に換算したらいくらになるのだろうか――。韓国ではこうした測定の試みがすでに始まっている。金額にすると分かりやすいが、何をどう計算しているのか。そもそもなぜ、「社会的企業」があるのか。大手財閥SKグループの非営利財団「社会的価値研究院」のナ・ソクグォン院長に聞いた。


韓国では「社会的企業」が法律で認証され、税控除なども受けられるという。ナ院長はこうしたシステムができた背景をこう語る。

「もともと社会課題の解決は政府がすべきものでしたが、現在は財源や人手が足りないという問題から、政府にすべてを頼ることはもはや不可能です。そこで、資本主義社会で民間が投資をしながら社会課題を解決していこうとする『社会的企業』の役割が重要になってきたのです。金銭的利益を生み出すとともに、社会的な価値も生み出すのです」

社会課題が解決されなかった場合の費用と比較

では、その社会的な価値をどう測定するのか。

「社会的な価値もデータで管理し、定量的に測定するために貨幣換算できないかと考えたのです。社会的価値には、製品やサービスの価値に加え、雇用方法や環境への負荷といった、社会のためになっていることの要素も加えます。たとえば、社会課題が解決されなかった場合、社会が負担していたであろう費用のほか、関係者が得られなかった便益と『社会的企業』の活動によって実際にもたらされた変化を比較し、その差額を社会的価値として算定します」とナ院長は説明する。

同研究院は2013年から、「社会的価値測定プロジェクト」を進めている。ビジネスが社会にもたらした価値を貨幣換算し、その額に基づいて「社会的企業」に助成するというものだ。公募制で、これまでに400以上の企業が参加。生み出した社会的価値は約5364億ウォン(604億円)に上るという。

「スターズテック」という会社は、海の生物のヒトデから抽出した原料で、融雪剤を開発した。融雪剤に含まれることが多い塩化ナトリウムや塩化カルシウムは金属を腐食させたり、アスファルトやコンクリートを破損させたりする。ヒトデは増えすぎると漁業やサンゴに被害を及ぼすことがある。「スターズテックの製品は、海にも優しいし、降雪地帯にとっても環境破壊を防げるのです。この会社の社会的価値を貨幣換算して考えると、ヒトデの廃棄処理費用の削減に加え、一般的な融雪剤の使用によって生じる道路の破損やコンクリートの劣化、車両の腐食、環境負荷などの社会的コストが、環境配慮型融雪剤の利用によってどの程度軽減されたかを社会的価値として評価します」

融雪剤の原料となるヒトデ=社会的価値研究院提供

「わかりやすくするために単純化すると、ヒトデ1トンの処理費用が100万円であり、スターズテックが5トンを原料として活用した場合、約500万円の廃棄処理費用が削減されたと考えることができます。さらに、一般的な融雪剤を使用した場合には、道路の破損や車両の腐食、環境への影響などにより1000万円の社会的コストが発生すると仮定し、スターズテックの製品を使用することでそのコストが300万円まで低減された場合、その差額である700万円を社会的価値とし

て評価することができます」とナ院長。

スターズテックの代表、ヤン・スンチョンさん=社会的価値研究院提供

「社会的価値研究院」は2022年から自治体とも連携を始めた。自治体が「社会的企業」に補助金を出す場合、企業が生み出す社会的価値を測定し、その貨幣価値に見合った金額を自治体と半額ずつ出すという仕組みだ。現在、ソウル市のほか、ソウル市から約80キロ北東にある春川(チュンチョン)市など六つの自治体で行われている。

「春川市ではこれまで、補助金を出しても、その成果をどう評価したらいいのか、それによって社会がどう変わったのかを明確に説明できないという悩みがありました。しかし、社会的価値を定量的に測定して、それを次の政策作りと予算に反映することで政策形成が透明化し、説明もしやすくなったのです」とナ院長は言う。

「春川市では農業に従事する女性が中心となって発酵食品を生産・販売する『チョマム』(健康的な食べ物を作るお母さんたちの心という意味)という『社会的企業』があります。高齢者を多く雇用し、原料は小規模な農家を中心に仕入れることで、地域社会のなかで経済が回り、持続可能にしています。低所得者層には特別に割引をして販売することで、貧困対策にもなっています。この企業の社会的価値を測定し、それに見合った補助金を出しました」

チョマムのメンバー(提供写真)

企業の持続可能性をどう確保するか

このような社会的価値の測定の試みは、SKグループのチェ・テウォン会長の提唱によって始まった。その理由をナ院長はこう説明する。

「企業の持続可能性をどう確保したら良いのかという問いから始まりました。例えば、SKグループの主な事業の一つに石油精製事業がありますが、社会で脱炭素化が進めば、企業として『突然死』に追い込まれる可能性もある。それへの危機感があり、企業の経営戦略として経済的価値だけでなく社会的価値も重視する必要があります。そのためには、価値を定量的に測定できるようにしなくてはならないと考えたのです」

現政権も「社会的連帯経済」に力を入れていて、政府の補助金などを社会的価値の測定と連動させていくことを検討しているという。

「社会的価値研究院」は、日本で寄付・社会的投資の推進に取り組む日本ファンドレイジング協会とも連携。日本では2023年から3年間にわたり、「社会的企業」やNPOに成果に連動した資金提供をした。いじめの匿名相談やシングルマザーの居住・生活支援などの四つの事業者が対象となった。年額最大約1000万円の資金提供のうち、約700万円を成果に連動させた。

2年目以降は成果を貨幣価値換算したうえで、その金額に一定割合を乗じた額を資金提供した。結果として、多くの事業者が高い成果を達成し、上限額の支払いが行われた。日本ファンドレイジング協会によれば、貨幣価値換算によって成果を可視化できたことで、事業者が自らの価値を理解して事業の改善を進められた。加えて、成果連動型の資金提供が、次の成長に向けた投資や新たな挑戦につながる仕組みとして機能したという。