園芸の本質はセックス? 伝統の英フラワーショーを揺るがす「官能」と「AI」
選ばれた人だけが属する英国の園芸(ガーデニング)界という高尚な世界で、「チェルシー・フラワー・ショー」(2026年の開催期間は5月19日~23日)はまさに「スーパーボウル」のような存在だ。
審査員たちは厳格に定められた九つの基準に基づき、おびただしい数の植物を何日もかけて審査する。
その一方で、ブレザーにファシネーター帽(注釈:羽根やリボン飾りなどをあしらった装飾性の高い帽子の総称)といういでたちの来場者が、シャンパンや、英国の夏に人気のカクテル「ピムズ」を飲みながら楽しんでいく。その中には王室関係者や、元サッカー選手、テレビの人気タレントの姿も見える。
しかし、ロンドンのチェルシー地区で100年以上の歴史を誇る園芸展示会に集まった上品な来場者は、思わず飲み物を噴き出してしまったかもしれない。
今年は主催者が、「性的欲望」というテーマに特化した庭園まるまる一つの出展を許可したのだ。
ギリシャ神話の愛の女神にちなんで「アフロディーテの温室」と名づけられた、この新しい展示空間は、アダルトグッズブランド「ラブハニー」の協賛を受け、観葉植物(ハウスプラント)という媒体を通して性的テーマを探求した。
そして5月19日、審査員たちはこの展示に観葉植物スタジオ部門の金賞を授与した。
「英国では、特にこのようなショーの来場者はそうですが、性的な話題について、皮肉や軽いからかいを交えて冗談めかすことが多いのです」と、この展示を手掛けたデザイナー、ジェームズ・ホワイティングは語る。彼によれば、この庭園はそうしたタブーの一端を打ち破ろうとする試みだった。
外から見ると、この赤く燃え立つような温室にあるのはありふれたペチュニアだけでないことを示す警告が目についた。
湯気を立てる噴水と「GODS ONLY(神様のみ)」というネオンサインの文字が、訪問者を入り口へいざなう。その両脇には、くるんと丸まった感じのヤシの葉。神話のアフロディーテの庭園を連想させようという、ホワイティングの意図がうかがえた。
(内気な人は目をそらしてください)
ホワイティングは温室内に、性的イメージを喚起するトランペット形のカラーリリー(和名、オランダカイウ)、ハート形の葉を持つカラジウム(和名、シラサギ)、球根状の捕虫袋が特徴の食虫植物ネペンテス(和名、ウツボカズラ)を配置した。
ブランコ二つと、そこからつり下げられた小さな木の組み合わせが意味深な形で人目を引く。
「自分の庭がこんなふうになるところは想像もできません。すごく官能的でした」と、田舎に小さな庭を持つアマチュア園芸家のジュリエット・ランベロウは語った。
「チェルシー(・フラワー・ショー)にとって良いことだと思います」と、彼女は言い添えた。
通りかかったある来場者はその出来栄えを、米国の近代画家ジョージア・オキーフの絵画に例えた。ネオンの輝きに目を奪われたと言う人もいた。
「典型的なコッツウォルズのコテージガーデンでは決してありません」と語るのは、ニック・ホッブズという別の来場者だ。
たまたまこの庭園に出くわし、ホワイティングの「斬新で奇抜な」デザインのファンになったという。
この展示物はショーの開幕前から物議を醸していた。あるキリスト教団体はこれを「ソフトポルノ」と非難し、「英国文化を代表する一流の展示会」にはふさわしくないと断じた。
ホワイティングによれば、彼は格式の高い園芸界に、自然界と有性生殖のつながりについてもっと広い視野で考えるよう働きかけているのだという。
「植物は種子や受粉によって繁殖できるよう、現在のような形で成長と進化を遂げてきました」と彼は言う。簡単に言えば、「園芸の本質はセックス(生殖・繁殖)にある」のだと。
ホワイティングの作品に対する反応は前向きで、好奇心に満ちていた。しかし、ときには舌打ちする人もいた。
「ちょっと作為的で、あまり庭園らしくない」と、オックスフォード近郊から訪れたピーター・フォスターはコメントし、展示されている装飾品を「悪趣味」と酷評した。
「全体的にあまり『チェルシー』らしくない」と彼は言った。
別の来場者、ジョーイ・マクマーンは、入場を待つ長い列に目を向けて、異議を唱えた。「不快なものではありません。むしろ、センスの良さを感じます」と彼女は語った。
彼女の友人ロージー・フィンドレーは、そもそも多くの花は官能的な雰囲気を醸し出すものではないかと示唆した。二人とも、この展示をきっかけに若い園芸家がチェルシーに参加するようになったらいいと思う、と述べた。
ホワイティングの温室は今年のコンテストに出品された30の庭園の一つで、ほかにも、英国田園地帯の野生の花が咲き乱れる草原や、日本庭園の美意識といった、より伝統的なテーマを追求した作品が展示されていた。
主催者は5月23日に閉幕した5日間のイベントに約14万5000人の来場者を見込んでいた。庭園の各部門は8人構成の審査員団により、センスの良さ、視覚的な構成、細部へのこだわり、演出といった基準で審査された。
また、伝統を破った展示は「アフロディーテの温室」だけではなかった。主催者はノーム(庭の小さな妖精)を用いた過剰な装飾を長年禁じてきたが、今回、その規制を一時的に撤廃した。
数百メートル離れた展示ブースでは、景観デザイナーで起業家でもあるマット・キートリーが、AI(人工知能)を用いて設計したという小さな庭園を三つ披露した。
キートリーはそのデザインを生み出すために、自身が開発したスマートフォン用アプリを使ったと語る。庭園のスペースに合わせた植栽リストや配置プランを作成できるものだ。
AIを活用すれば、「これまで庭園設計の専門事務所に相談したことがなかった人たちにも、質の高い情報が提供され、誰もが手軽に本格的な庭づくりを楽しめるようになる」と、キートリーは主張した。
園芸界からの反応はかんばしいものでなかった。業界団体「庭園・景観デザイナー協会」(SGLD)の会長アンドルー・ダフは、人間がデザインした景観の芸術性はAIがまねできるものではないと主張した。
「私たちが携わる世界、たえず変化する生命が息づいている世界には、人間の感覚が不可欠です」と彼は述べた。「人間の手にしかなし得ないことなのです」
英王立園芸協会(RHS)は声明の中で、「園芸家を支援する有用なツール」であるとして、AIの活用を擁護しながらも、AIは園芸家になり代われるものではないと述べた。将来にわたって園芸家のキャリアを支えるのも、協会の使命のひとつであると。
「アフロディーテの温室」を制作したホワイティングは、自分も新しい世代の園芸愛好家に景観デザインを広めたいと述べ、自分が観葉植物に魅力を感じる理由の一つはそこにあると語った。
観葉植物はチェルシー・フラワー・ショーで注目を受けるカテゴリーではないが、アパート暮らしの若い人たちにとっては身近なものだからだ。
「大切なのは、園芸の永続性を確保することなのです」と彼は語った。(敬称略、抄訳)
(Leo Sands)©2026 The New York Times
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