オールを漕いでサッカーW杯を戦ったノルウェー 話題の応援「バイキング・ロー」の正体
想像上のオールを握りしめて漕(こ)ぎ、力強い声を一つに合わせるーー。
ノルウェーのサッカーファンは、1000年前にロングシップ(長い船)を操ったバイキングの征服者さながらに、今回のワールドカップ(W杯)北中米大会を力強く漕ぎ抜いた。
「ロー(漕げ)!」という掛け声に合わせて、一斉に体を前後させるノルウェーサポーター特有の応援スタイルは「バイキング・ロー」の呼び名で知られ、ノルウェー代表が28年ぶりに過去最高の16強入りを果たした快進撃と相まって、大きな話題を呼んでいる。(注釈:その後ノルウェー代表は決勝トーナメントで強豪ブラジルを破り、史上初の8強入りを果たした)
彼らはボストンのジレット・スタジアムやニュージャージー州イーストラザフォードのメットライフ・スタジアムで漕ぎ、タイムズスクエアでも漕いだ。(注釈:1次リーグ第2節セネガル戦の前日に同地を占拠して、「バイキング・ロー」を披露)
本国ノルウェーでも学校や高齢者養護施設で人々が漕ぎ、国会議事堂で漕がれたときには首相までが参加した。
「私たちは小さな国ですから、みんなで一体となれるんです」と、自宅のテレビでノルウェー代表の試合を観戦して漕ぎ続けてきた、トロン・スベーバさんは語った。
「金持ちでも貧乏でも関係ないし、座っているのがVIP席でも一番安い席でも関係ありません。漕ぐことは誰にでもできるんですから」
首都オスロから約30マイル(約48キロ)離れたドラメンにある幼稚園のクラスでは、子どもたちが肩を並べて漕ぐ動きをした。園がその動画をインスタグラムに投稿すると、ノルウェー代表のスター選手、アーリング・ハーランドがそれをシェアした。
首都から北へ300マイル(約480キロ)離れたトロンハイム郊外の高齢者養護施設では、セネガル戦を観戦するため、入居者たちが午前2時に目覚まし時計をセットした。彼らはバイキングの兜(かぶと)をかぶり、試合開始前に「バイキング・ロー」を行った。
イエール・リーさん(90)は代表チームの成長と躍進を夢中で見守ってきた。「あの子たち、ここまで来たのよ。とうとう、ここまで」と彼女は嚙(か)みしめるように言った。
セネガル戦に勝利したあと、選手たち自身がこのパフォーマンスを披露し、主将のマルティン・ウーデゴールが太鼓をたたく中、彼らはピッチに座って漕ぐ動作を行った。1次リーグ第3節のフランス戦で1―4と大敗したあとも、ファンたちは敗北を乗り越えようとするかのように漕ぎ続けた。
ノルウェーの男子代表チームはバイキングのイメージを積極的に採り入れている。2023年には、ユニホームにルーン文字(注釈:2世紀ごろから北欧バイキングやゲルマン民族などが使用。文字自体に神聖な力が宿るとされる)を採用した。
W杯に向けて、選手たちはさらにこの姿勢を強め、革や毛皮をまとい盾や弓を手に公式チーム写真に納まった姿は、まるでフィヨルドへ漕ぎ出そうとする北欧戦士のようだった。
ただ、誰もがこれを歓迎しているわけではない。
サッカージャーナリストのアレクサンデル・シャウ氏は、ノルウェー代表が「ようやく強いチームで(W杯に)出場できた」ことは喜ばしいとしながらも、この「ロー」については「内向的な人にとっては悪夢のようなもの」と評した。
「まるで『ノー』と言うことが許されないような雰囲気だ」と彼は語った。
セネガル戦の試合場で想像上のオールを漕ぐ応援Tシャツの赤い海の中で、このパフォーマンスに加わることを拒否したあるファンは、ノルウェーのソーシャルメディア上でこっぴどくたたかれた。
その男性、エミール・アンネシュ・ラッペンさんは、ノルウェーの国営放送NRKのインタビューに対し、「ノルウェーはアイスランドから(このパフォーマンスを)盗んではいけない」と、自身の主張を貫いた。
彼が言っているのは、アイスランドのファンが行う「バイキング・サンダークラップ(雷鳴)」という応援のことだ。その動きは「バイキング・ロー」と似ているわけではない。
ファンが高く掲げた両手を一斉に打ち合わせて拍手するのだが、一部の人の目には、その掛け声やバイキングを連想させるイメージがそっくりに映るらしい。
また、この「バイキング・ロー」を、ノルウェーの国境を越えたバイキング文化全体の遺産と捉える向きもある。同じくバイキングの遺産を誇り、何世紀にもわたってノルウェーとライバル関係にある隣国スウェーデンには、この応援パフォーマンスにいらだちを覚える選手やファンもいる。
「僕らはただため息をつくだけだよ」と、スウェーデン代表(注釈:日本と同じ1次リーグF組の3位で決勝トーナメント進出を果たすも、1回戦で敗退)のグスタフ・ラガービエルケ選手は、6月23日の記者会見で、このパフォーマンスについて問われ、「アイスランドの応援とよく似ているね」と答え、そのあとこう付け加えた。
「楽しみ方は人それぞれだし、彼らが気に入っているなら好きにしたらいいさ」
スウェーデンの新聞『スベンスカ・ダーグブラーデット』のコラムで、評論家のアデシュ・Q・ビョークマン氏は、この船を漕ぐパフォーマンスは「ノルウェー的というよりスウェーデン的である」と記した。
スウェーデン系のバイキングが河川を使って東欧を征服したのに対し、ノルウェー系バイキングは外洋を横断してブリテン諸島や北米へ向かったため、前者のほうがオールを多用していたはずだと、ビョークマン氏は主張する。
それでも(この指摘が歴史的に正しいかどうかはさておき)彼はこう認めた。「私たちはあの力強い掛け声と壮観な光景を少しうらやましく思っている、というのが本当のところかもしれない」
この応援スタイルが始まったのは、2025年6月に行われたW杯欧州予選でノルウェーがイタリアに勝利したあとだ。この勝利は、1998年以来の(FIFAの記録によれば、90年以上の歴史でわずか4度目の)W杯出場権獲得に向けた、重要な一歩だった。
プロデューサー兼ミュージシャンのヨナス・トマッセンが、「ロー!」を繰り返すこの掛け声の冒頭部分を録音した。
バイキングとの関連性には、きわめて明確な意図があった。
「W杯が米国で開催される以上、コロンブスよりずっと以前に北米大陸を発見したバイキングが、その大陸を取り戻しにくる、という概念を取り入れる必要があった」とトマッセンは語った。(注釈:コロンブスより約500年早い10世紀末~11世紀初頭、アイスランドにいたノルウェー系バイキングがグリーンランド経由でカナダ・ニューファンドランド島に到達し、定住していた)
トマッセンの住まいはたまたま、ノルウェーサッカー代表チーム公式ファンクラブの一員であるオーレ・フロイスタードの隣にあった。フロイスタードは、船を漕ぐ応援スタイルの生みの親として知られ、ファンの間にこれを広める原動力となった人物だ。2人がタッグを組むや、この応援スタイルは瞬く間に広まった。
「バイキングという要素を前面に押し出したことに対し、使い古されて陳腐になっていると批判する人もいました」とトマッセンは語った。「でも実は、世界の人々はそこを『かっこいい』と感じているのではないでしょうか」
(敬称略、抄訳)
(Louise Krüger and Lynsey Chutel)©2026 The New York Times
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