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パリパラリンピックのブラインドサッカー、高田前監督が戦力分析「カギは川村怜選手」

World Now 更新日: 公開日:
パラリンピックのパリ大会で、試合会場での公式練習に臨む川村怜選手
パラリンピックのパリ大会で、試合会場での公式練習に臨む川村怜選手(中央)=2024年8月29日、パリ・エッフェル塔、伊藤進之介撮影

ブラインドサッカーは視覚障害のある4人のフィールドプレーヤーと健常者(ルール上では弱視プレーヤーも可)のGKの計5人でチームを編成。試合時間は15分ハーフの30分で、フットサルと同じ広さのコートで行われる。

フィールドプレーヤーはアイマスクの着用が義務付けられ、転がると音が出るボールと、相手のゴール裏に立つ「ガイド(コーラー)」やセンターライン横にいる監督の声を頼りにゴールを狙う。

東京パラリンピックのブラインドサッカーでプレーする日本代表
東京パラリンピックのブラインドサッカーでプレーする日本代表(青のユニフォーム)=2021年9月、青海アーバンスポーツパーク、川村直子撮影

パリ大会には8チームが出場。世界ランキング3位の日本は予選リーグで、同1位のアルゼンチン、同8位のモロッコ、同12位のコロンビアと同じグループBに入った。

日本代表初戦の相手はコロンビアで、大会オープニングゲームとなる9月1日18:30(日本時間)にキックオフ。2日20:30(同)に予選2試合目のモロッコ戦、3日20:30(同)に予選3試合目のアルゼンチン戦を迎える。上位2チームが決勝トーナメントに進出し、5日の準決勝に臨む。

高田さんは監督を退いたものの、日本ブラインドサッカー協会や日本代表チームとも関係は深く、パリ大会を前に、8月上旬に都内で行われた直前合宿にも訪れ、旧知の代表メンバーらを激励した。

高田さんは、パリパラのキーマンに代表キャプテンの大黒柱、川村怜選手(35)を挙げ、「初戦で勝利すれば初のグループ突破が見えてくる。できれば1位で突破し、準決勝では中国と戦いたい」と語った。

東京パラリンピックで、1次リーグフランス戦で選手に指示を出す高田敏志監督
東京パラリンピックで、1次リーグフランス戦で選手に指示を出す高田敏志監督=2021年8月、青海アーバンスポーツパーク

「フィジカルでも強豪と互角」

高田さんとの一問一答は以下の通り。

――日本代表チームは今年5、6月、パリパラの前哨戦となるフランス開催のワールドグランプリで強豪のアルゼンチン、中国を破るなど好調をキープしています。この大会では後藤将起選手(39)が通算4得点を挙げて、得点王に輝いています。川村選手や攻守の要である佐々木ロベルト泉選手(46)が中心だった、高田さんが率いた東京大会の時代から代表チームはどのように進化したのでしょうか?

一言で言うなら、チームの攻撃力と選手個人個人のフィジカルが格段にあがった。後藤選手は小中高時代はサッカーをプレーしていた経験者。東京大会では代表メンバーから漏れたものの、その後めきめきと実力をつけ、世界を舞台に戦えるプレーヤーになった。スプリント力もあるし、ハードワークもこなせる。

エースの川村選手が東京大会から一つポジションが下がってアラ(ボランチの位置)となり、ゲームを後ろから作れるようになった。東京大会では川村選手が徹底マークされ、彼の技術が発揮されなければ攻撃力が劣る場面も見られたが、今大会は攻撃のバリエーションが豊富だ。川村選手はシュート力も増し、後ろからでも狙える。

チームは東京大会後からパリ大会に向けて、筋力トレーニングの強化策を取り入れ、各選手たちは世界の屈強な選手たちにも当たり負けしない体になっている。もともと精神力の強い佐々木選手は一対一の強さが増しており、攻守のバランスも良い。チームは世界の強豪を相手にフィジカルの勝負でも互角に戦えるようになっている。

東京パラリンピックのブラインドサッカーで、5、6位決定戦でスペインに勝利し、肩を組んで喜ぶ佐々木ロベルト泉選手と川村怜選手
東京パラリンピックのブラインドサッカーで、5、6位決定戦でスペインに勝利し、肩を組んで喜ぶ佐々木ロベルト泉選手(左)と川村怜選手=2021年9月、青海アーバンスポーツパーク、川村直子撮影

――中川ジャパンは東京大会で不動のレギュラーだった黒田智成選手(45)や田中章仁選手(46)を外し、チームの若返りを図りました。メンバーの平均年齢は東京大会の35.6歳から31歳になりました。その代表格が、長野県松本美須々ケ丘高3年の平林太一選手(17)です。パリでの活躍が期待されます。

平林選手は独特のリズム感でプレーするタレントで、昨年、英国で開催された世界選手権で4得点を挙げて、レギュラーの座をしっかりとつかんだ。川村選手や後藤選手が封じられても、日本には彼がいる。パリ大会でも注目の選手の一人だ。

私が最初に会ったのは彼がまだ小学校3年生のとき。将来を嘱望され、その後、日本ブラインドサッカー協会や育成に携わるスタッフが一丸となって育成に力を入れ、「日の丸」を背負える選手にまで成長した。

2016年の時点で私と中川さんはこの2024年大会を見すえて、若い選手の強化に力を入れたのだが、平林選手はアルゼンチンや中国を相手にしても決してひるまず、得点を奪っている。まさに日本ブラインドサッカー協会の取り組みが探し当てた原石であり、育成年代のメンバーを地道に育ててきた成果でもある。

パリ大会は直前まで、不測の事態などがあった場合に備え、メンバーを交代できるようになっている。8月上旬の代表合宿で、パリパラの代表メンバーから漏れた黒田選手が若手に「僕ら居残り組も何があってもいいように準備しておく」と言って送り出していた。この心意気に思わず涙腺がゆるんだ。東京大会からメンバーが変わったが、チーム力は層が厚くなったバックアップメンバーを含めてさらに向上している。これが日本代表の強さだと思う。

報道陣のインタビューを受ける平林太一選手
報道陣のインタビューを受ける平林太一選手=2023年11月、長野県松本市

――その中で最も重要な試合や、キーマンを挙げるとしたら誰でしょうか。

やはり初戦のコロンビア戦がポイントとなる。この試合はパリ大会のオープニングゲームで、多くの観戦客が会場に来ることが予想される。代表選手たちはこれまでにない雰囲気の中で試合をすることになる。

コロンビアは決して侮れないチームだが、勝てない相手ではない。ここで日本はきっちり勝ち点3を取って、次戦のモロッコ戦、3戦目のアルゼンチン戦へとつなぎ、勝ち点4以上で準決勝に進みたいところだ。

2戦目のモロッコとも7月開催の大阪大会で2回対戦しており、中川監督もかなりのデータをとっているはずだ。アルゼンチンも強豪だが、東京大会に比べ、代表選手の刷新ができておらず、チーム力が落ちている。日本も勝てない相手ではなくなった。

日本とは違う予選グループAは、パラリンピック5連覇中のブラジルが1位で、アジアの強豪国の中国が2位であがってくると予想している。日本はできれば、予選1位で勝ち上がって中国と戦うことがベストシナリオだ。

パリは東京に比べて戦いやすい。日本が試合を行う昼間、気温は25度ぐらいの想定。もともと日本代表チームは暑さにも強いので、ちょうどよい気候条件で戦うことができる。直前の英国キャンプで時差や現地の気候にもしっかりと慣れているはず。

中川監督はパリの特設スタジアムの大観衆の雰囲気にも慣れるため、日本での練習で大音量の歓声を流し、試合形式の練習をしていた。困難な状況の中で試合への集中力を高めることが狙いで選手から「聞こえない」などと失笑が出ていたけど、日本代表はそうした細かな配慮もできるようになっている。

エッフェル塔を望むブラインドサッカーの試合会場
エッフェル塔を望むブラインドサッカーの試合会場=2024年8月29日、パリ・エッフェル塔、伊藤進之介撮影

キーマンはやはり川村選手だ。彼がピッチに立っているのと立っていないのとでは全く違う。技術や経験だけでなく、試合展開を読む力やたくましさも飛躍的に増している。東京大会からもかなり成長しており、彼がチームを勝利に導いてくれると思う。

――一緒にやってきた中川監督の指導ぶりをどう見ているか。

中川監督はもともと指導者としての能力は高く、心の広い人格者でもある。私の監督時代は中川監督が行う緻密なデータ分析や選手への細やかな配慮の面で大いに助けられた。現在のチームは中川監督が信頼するコーチやスタッフにそれぞれの分野の業務をまかせ、自分が一歩引いた状態でチーム全体を見ている。

監督は孤独の中で全てを意思決定をしなくてはならない。「自分が、自分が」と細かな面まで関与すれば、全体が見えなくなってしまうが、そのあたりのマネジメント力は秀逸。良い状態で大会を迎えていると思う。

パラリンピックパリ大会で、試合会場での公式練習で指示するブラインドサッカー日本代表の中川英治監督
パラリンピックパリ大会で、試合会場での公式練習で指示するブラインドサッカー日本代表の中川英治監督=2024年8月29日、パリ・エッフェル塔、伊藤進之介撮影

そして、世界の強豪国が中川ジャパンをリスペクトしてみている。私もそれをうれしく感じている。東京大会のときは日本はあまりマークされておらず、むしろ日本チームが相手を徹底分析をして、試合に臨んでいるところがあった。

しかし今は対戦相手が日本代表チームを分析して、日本をリスペクトして試合に備えている。それでも中川ジャパンは結果を出しているので、強くなっていることは間違いない。世界の強豪国の勢力図は変わっている。日本は十分にメダル獲得ができる位置にいる。

――パリパラでブラインドサッカーの試合を初めて見る人もいる。どんなところを見てほしいのか。

ブラインドサッカーはパラリンピックの中で健常者とパラリンピアンが一緒になって戦う唯一の競技だ。監督やゴール裏にいるガイドも選手に声や音を出して、試合に参加している。これは究極のコミュニケーションスポーツである。

世界は情報社会の発展で、人々は対面もせずメールやメッセージで意思疎通をするようになった。しかし、ブラインドサッカーは選手同志がコミュニケーションをしっかりして、周りの声や音に助けられて、接触プレーもいとわずにゴールを狙う。

視覚がさえぎられている中で、プレーヤーは試合の中であれだけ走りきり、ボールを足元において巧みに操ることができる。判断力は早く、視覚以外の感覚も研ぎ澄まされていて、そばにいて私も驚くことが何度もあった。

健常者のサッカーとはまた違って、ブラインドサッカーだからこその戦術的にもおもしろいプレーが随所にみられる。人間がここまでできるんだという可能性を証明するスポーツがブラインドサッカー。その世界最高峰の試合を見て、ブラインドサッカーのダイナミズムを感じ取ってほしい。