水やコンクリートに「砂」は不可欠 日本でも進む「砂不足」 川砂を取り尽くした過去
生きていくうえで欠かすことのできない「水」。水道水にも実は砂が関係している。
「浄水場で、砂は必須の材料。これがないと、私たちは安心して水道水を飲めなくなってしまう」。そう話すのは、30年以上にわたり砂の輸入を手がけてきた「邦華INT’L TRADING」(本社・福岡市)の宇佐佳夫社長(62)だ。
川や湖などから取水した原水には、細菌類などを含む泥や微小な不純物が含まれている。
浄水場では、原水に凝集剤と呼ばれる薬品を加えて汚れどうしをくっつけて大きくし、沈殿池で時間をかけて沈める。 沈殿だけでは取り切れない不純物を取るため、最後に砂と砂利を層状に敷き詰めた濾過(ろか)池に通し、目に見えないレベルの不純物を取り除く。この工程によって、飲料水として安全な状態に仕上げられる。
「山に降った雨が地層を通っておいしい天然水になるプロセスを、浄水場では砂を使って再現している」と宇佐さんは言う。
日本水道協会によると、濾過に使う砂の粒径は0.6ミリ前後。だが、宇佐さんによると、必要なのは粒の大きさだけではない。「粒がとがっていると余計な隙間ができ、水の汚れが引っかかる前に砂の間をすり抜けてしまい、十分に濾過されない。適度な丸みをもって密着し、少しずつ水を落とす。この絶妙な『詰まり具合』がないと、水はきれいにならない」
かつて、この規格を満たす良質な砂の多くは、中国から輸入していたという。しかし2007年、中国政府が輸出禁止を打ち出すと状況は一変した。マレーシアやベトナムなどに産地を広げて探したが、規格に合う質の砂が見つかっても、運送コストや円安で予算を大きく上回った。
砂の価格は、輸出者負担分(商品価格や輸出通関、指定の港までの輸送など)の価格を基準に示されるという。宇佐さんによると、コロナ禍前と比べ、その価格は5割以上押し上げられた。 「日本のインフラを維持し続けるための砂の確保が、どんどん難しくなっている」。
将来的には水道料金に跳ね返ってくる可能性もある、と宇佐さんは危惧する。
砂と聞けば、鳥取砂丘を思い浮かべる人も多いだろう。だが、日本で社会を支えてきた砂は、観光の対象になることのない場所から掘り出されてきた。
環境ジャーナリストの石弘之さん(85)によると、日本では、戦後から高度経済成長期にかけ、川砂を取り尽くし、新幹線の橋脚や高速道路などの建設には海砂がコンクリートの骨材として使われていた。
しかし当時は、塩分を完全に除く技術が十分ではなく、鉄筋をさびさせ、コンクリートのヒビ割れや劣化を招くことがあったという。
海砂の採取が多かった瀬戸内海では漁場の悪化や海底地形の変化が問題となり、1990年代以降、各府県が相次いで採取を規制、禁止した。
千葉県成田市で生コンの製造販売を営む小幡建材の小幡晋彦社長(52)も、現場に忍び寄る「砂の限界」を肌で感じると話す。
コンクリートは、砂と砂利を組み合わせ、セメントペーストで固めたものだ。容積ベースでは、砂はコンクリートの約4割を占める主要な材料という。生コン用に使われる砂は5ミリ以下に限られ、天然砂だけで足りないと、石を砕いてつくった砕砂(さいさ)を混ぜて使うという。
小幡さんは「極論、砕砂だけで生コンをつくれないことはない」と言う。しかし、それには致命的な欠陥が生まれるという。「砕砂を使うほど、水の使用量が増え、乾燥収縮の値が大きくなることでコンクリートのヒビ割れのリスクが高まる」。さらに、セメントと化学混和剤の使用量が増えてコストアップにつながるという。
良質な砂は、最小限の水で適切な粘度を保てる。ビルなどの建設現場では、型枠の中に張り巡らされた複雑な鉄筋の間に、コンクリートを流し込むが、このコンクリートにある程度の柔らかさがないと、鉄筋の間を通らずに隙間ができてしまうという。隙間ができると、建物の強度に影響を及ぼす。
「生コンで言うと、砂は強度にとって大切な役割を果たしている」 。この「隙間なく埋める力」こそが、砂の持つ最も重要な能力なのだ。
砕砂の供給量だけでは天然砂が担ってきた量をまかなうことは難しく、今後も天然砂は欠かせない。同社では30年以上、茨城県内の陸砂を使ってきたが、「天然物なので、選べる余地はだんだん小さくなってきている」と話す。