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砂のコストを無視してきた人類 文明をどう続けるのか 土壌学者・藤井一至さんに聞く

World Now 更新日: 公開日:
土の研究者の藤井一至さん=2026年2月、宇都宮大学で今村優莉撮影

世界が砂不足に向かういま、私たちはこの粒子とどう向き合うべきだろうか。スコップ片手に世界の土と向き合ってきた土壌学者の藤井一至さん(44)に、私たち人間と砂の未来について聞きました。(聞き手・今村優莉)

栄養を運び、文明を育てた砂 ナイルの「たまもの」の正体

地球を循環する水は山を削り、川に運び、砂を生み出す。ところが人間はその2倍くらいの速さで砂を消費している。いまや砂の枯渇が心配されている。

砂はそこら辺にたくさんあるのでは、と思うかもしれないが、用途ごとに必要な砂は違う。例えば、日本の砂は半導体の材料のシリコン(ケイ素)の抽出には不適切だ。

シリコンには純度が「イレブンナイン(99.999999999%)」求められるが、日本の砂にはケイ素だけでなくアルミニウムも多く含まれ純度が低いからだ。その結果、世界のシリコン供給の約6割を中国に依存する状況が生まれる。資源が局在するという意味でも、砂は人間の手では作れない大切な資源だ。

砂について語る土壌学者の藤井一至さん=2026年2月、宇都宮大学で今村優莉撮影

砂は人間の栄養にもなってきた。岩がバラバラになっただけのものは造岩鉱物と言うが、それらが水に溶けて再び結晶を作る。そうしてできたものを粘土鉱物といい、粘土鉱物は岩をハンマーで砕いてできた粒子よりもっと細かく、マイナス電気を帯びている。そのマイナス電気にカルシウムなどがくっつく。だから細かい砂ほど栄養があり、軽くて川の流れや風に乗って遠くまで運ばれる。

「エジプトはナイルのたまもの」と言われるが、エチオピア高原の砂がモンスーンの雨で流れてエジプトまで届く。エジプトの土に栄養のある砂が混じって肥沃(ひよく)になり、文明を育んだと言える。砂の栄養が海まで届くと魚介類もよく育つ。逆に土石流をとめるための砂防ダムによって栄養が海に届かなくなる。

目を宇宙に向けて見よう。

月や火星には、砂しかない。地球のように水や生物が関わる環境はなく、土壌というものが存在しない。それでも、人類がいつかそういう場所で農業をしなければならない時代が来るかもしれない。

人間は土を作ることはできないが、砂から土になる過程を加速させることはできるはずだ。

インドネシアで見た「生き物の終わり」

インドネシアで見た光景は忘れられない。

対岸のシンガポールの埋め立てのためか、インドネシアの砂がごっそりと採掘され、大地がえぐり取られていた。残されたのは不毛の地。生態系が破壊され、元に戻ることはない。「ああ、土と生き物ってこうやって『終わる』んだ」と思った。

砂について語る土壌学者の藤井一至さん=2026年2月、宇都宮大学で今村優莉撮影

自然界では資源は循環する。

しかし人間社会で砂は驚くほど循環していない。例えば、年に何万トンものコンクリートが産業廃棄物として捨てられる日本では、再生コンクリート骨材への活用は、使える用途が厳しく制限されている。良からぬものが混じっている可能性があり、質を担保しにくいという事情がある。結果として、行き着く先は埋め立てという形での最終処分だ。極端に言えば、これは「砂の墓場」だと思う。

私たちは、砂を使って多くのモノを作ってきたけれど、壊した後の再生や循環にどれほどのコストがかかるかを深く考えてこなかった。新しく作る方が早くて安い、という前提で社会が回ってきたからだろう。

本当の意味での砂の値段は、砂資源が尽きた後、将来世代が代わりを用意するために支払うコストだ。コメ騒動のように砂騒動が起こってからでは遅い。砂ができるのはコメよりも遅いからだ。

砂をどう扱うかは、文明をどう続けるか、という問いそのものだと思う。